第48話 生きていれば
なんとか機体の整備が終わっても、僕達に出撃命令は降りず、僕は格納庫にあったベンチを外に出して、空を見上げていた。
アルサーレと違って雲は少なく、上空を流れている。
膝の上にはいつものようにルリさんがいて、彼女は両脚をブラブラと揺らして遊んでいる、僕はそっと彼女のお腹辺りを抱く。
「ルリさん・・・」
「・・・・・・?」
彼女は少し振り向いて首を傾げるだけ。
「ルリさんも死んじゃったら僕・・・」
「・・・・・・」
ギュッとルリさんを抱きしめるも、彼女は返事をしてくれない。
しばらくそのままに空を眺めていると。
「・・・・・・レイも死なないでね」
「・・・はい」
彼女が返事できなかったのが彼女の問いかけでわかった、死なない自信なんてどこにもない、アサギさんもことある事に言っていた。
お前も死ぬかもしれないし、私も死ぬかもしれない。
誰がいつ死ぬか誰にも分からない。
僕はただただ小さく頷くことしか出来なかった。
また、ルリさんを力いっぱいにぎゅーっと抱きしめると、彼女は脚をバタつかせる。
「あ、すみません・・・」
思いのほか力が入っていたみたいですぐに力を緩める。
「僕は死にません、みんなのために戦い抜きます」
「・・・・・・うん」
絶対に死なない、少し前までは今すぐにでも死んでやろうとか思っていたけど今は違う。
チグサや、ルリさん、みんなのために生きて戦う。
「レイも言うようになったね」
「んだよ」
聞いてたのかよ、後ろから現れたチグサにちょっと恥ずかしいセリフを聞かれてしまった。
「ホント、死なないでよ・・・」
チグサは僕の隣に座って心配そうに腕をギュッと握ってくる。
「うん、チグサもね」
「・・・うん」
暗い空気が流れる。
明るいことを言いたくても何も出てこないし、ただ空を見上げるしかない。
「基地での男女関係はやめてください、死んでも死にきれませんよ」
「キールさん・・・」
後ろを振り向くとライド隊のキールさんが眼光鋭く腕組みをしてこっちを睨んでいた。なんでこの人はこうも僕に関わってくるのか、柄にもなくイラッとしてしまう。
「僕は、死にません・・・」
俯いてボソリと言う。
死ぬ訳にはいかない、何としても。
「何故そんなことが言い切れるんですか、どうせこの戦争は負ける、みんな死んでしまうんですよ」
「ちょっとあんた!」
キールさんの煽りにチグサが怒ってくれるが、僕は無意識のうちに立ち上がり、彼女の目の前に立っていた。僕だって男だけど彼女とそんなに身長は変わらない、あまり威圧感とかはないだろうけど。
「僕は死なないしこれ以上誰も死なせない、この戦争には絶対勝つんだ!なんのためにみんな死んだのか分からない!君たちは傭兵、嫌なら好きなところに行けばいい」
溜まっていた言葉が次々と出てしまい、キールさんの胸ぐらを掴みながら怒鳴る。以前、ラナーさんに言ったように怒るところは怒っておかないと、僕のプライドや、郷土愛が許さないし、これ以上こいつに舐められたくない。
「・・・・・・私だって・・・・・・」
「ちょっと2人とも・・・」
キールさんに胸ぐらを掴み返される、これはまずいとチグサが僕とキールさんの腕を掴む。すると彼女の目じりに、涙のようなものが滲むのがわかった。
「私だって、グレイニア人なのよっ!南方諸国で傭兵やってただけなのによそ者扱いしないで!」
「えっ・・・」
そう叫ぶと彼女はブワッと涙を流し、その場にしゃがみこんでしまう。
「隊長がほっとけないって言うから着いてきたけど、給料なんて無いし、戦争が終わったと思ったらまた戦争。みんな死んじゃうのよ・・・」
ボソッと続ける。
どうやら彼女も訳あり、僕はなんて声をかけたらいいのか、しゃがんで彼女の肩に手をやろうとすると。
「触らないで!」
パチンっと手で弾かれる。
「せいぜい楽しくしてればいいわ・・・・・・」
どうしてここまでこじらせてしまったのか、以前この国に何も無かった人はいない、とルリさんに言われたが、過去にキールさんに何があったのか。
「おい、キール!こんな所にいたの、か・・・」
ルイスさんが駆け寄って来た、すると彼は涙を流している彼女見てちょっと硬直する。
「え?・・・すみません、こいつ変なこと言いませんでした?」
彼は気まずそうに聞いてくる。
「いえ、何も」
何となくそう言った。
「そうですか・・・、ほら行くぞ」
そして、シクシクと泣き袖で涙を拭う彼女は片腕を抱えられ立ち上がりルイスさんに連れて行かれてしまった。
「レイ・・・」
チグサとルリさんも心配してくれているのだろうか、近づいてくる。
ゴーーー・・・・・・。
大空に戦闘機のエンジン音が響き渡る、ツルギさんたちが帰ってきたみたいだ、僕は空を見上げると、上空を旋回し着陸体制になっているF-35が3機並んでいる。
「ツルギさん達がいれば、大丈夫」
何も言わずにみんな空を見上げていた。
●
「お疲れ様でした、どうでした?」
帰投したツルギさん達に僕達は駆け寄る。
「死ぬかと思った・・・、敵多すぎ、ゴフッ!」
「わっ!」
全部言い切る前にケイさんの飛び蹴りを食らうツルギさん、僕の所まで吹き飛ばされて来て、辛うじて受け止めるも一緒に飛んでいってしまいそうだった。一体、何したの?
「何が死ぬかと思った、ですか。あんな無茶な飛び方して」
おや、ケイさん激おこ?
彼女の傍でミサキさんがまあまあと宥めている。
「俺は最善策をやっただけで・・・」
僕の後ろに隠れてボソボソと呟くツルギさん、ホントこの人、ケイさんには激弱だな。
てか、僕の後ろに隠れて巻き込まないで欲しい。ケイさん可愛いけど、こういうことになると目付きは鋭くてなんだか怖い。
ツルギさんを睨んでいるであろうジトッとした目は、僕まで睨んでいるようで、生きた心地がしない。まるで鷹に睨まれたネズミのようだ。
「まあまあ、ツルギさんが無茶なのは今に始まったことじゃないですから」
フォローしたつもりが更にケイさんの眼光が鋭くなってしまい、完全に僕まで睨まれてしまう。
「お前!フォローになってねぇよ!」
あれ?どこ間違えたかな?
「まあ・・・、いいです。私が護りますので」
ケイさん頼もしい!チグサにもこれぐらい自信満々になって欲しいな、こんなに怖くはなって欲しくはないけど。
「ふー。んでだ、またすぐに出撃する。敵が多すぎだ、とりあえずステルス性の高い俺たちで対処するから、レイ達は待機な」
「いや、でも!」
ツルギさんの提案を咄嗟に止めてしまう、ここは僕達の国だ、ツルギさん達に手間を取らせてばかりはいられない。
そう言っている傍で、ブルー隊のF-35には補給が急ピッチで行われている。
「作戦は多方面から攻めてくる、またいつアルサーレに敵が来るかもわからん、その時は頼んだぞ。なに、俺達も爆撃なんて嫌ってほどしてる、大丈夫だよ」
ツルギさんはそう言ってくれるが、大丈夫だと言ってもう2人死んでいる、簡単には了承出来なかったけど。
「剣くんがいれば大丈夫だから、前は落ちちゃったけど」
「もう、水咲さんってば・・・」
太陽のような満面の笑みでミサキさんが言いながら、不安そうな僕の頭を優しく撫でてくれる。
彼女に不意にいじられてツルギさんは困り顔だったけど。
すると、なんだか大丈夫な気がしてきて、ちょっと跳ねてしまった髪の毛をそのままに。
「・・・・・・お願いします」
そう言って彼らを見送った。
●
再びツルギさんたちはトモパーレから飛び立ち、カルシューレ基地の援護に向かって行った。
いくらF-35はレーダーに写り辛いと言えども爆弾満載のビーストモード、ただの気休めにしかならないだろう。なのに彼らは僕達を、いや、僕を安心させるように、大丈夫と言って飛んで行ってしまう。
なんでそこまでしてくれるのだろうか。
ルイスさんたちライド隊もそうだ、キールさんによれば隊長が放っておけないと言って戻ってきたそうだが、一体何故。
「ルイスさん」
気がつけばライド隊の機体が格納されている格納庫に来ていて、機体を目視点検していたルイスさんの元に来ていた。
「ああ、レイくん。どうしたの?」
長い髪の毛を耳に掛けながら機体の下から出てくる彼。
「キールさんから聞いたんですけど・・・、グレイニア出身なんですか?」
あの野郎と言わんばかりに片手をこめかみにやり、困ったようなルイスさん。
ふと彼はキールさんが居る機体の方を向くと、彼女はシュッと機体の影に隠れてしまう。
「まあね、独立する前の話だけど、俺ら元々空軍にいたんだ、当時は平和でねぇ、刺激を求めて南方諸国に行ったわけさ」
ハハハ、と笑いながら頭をポリポリと掻く彼。確かにローレニアの都合で独立する前はかなり平和だった、今とは比べ物にならない。最小限の自治軍しか有していなかったし、バルセルとも友好関係にあった。
「なんで戻ってきてくれたんですか?」
僕の問に、ん〜・・・、と悩むルイスさん。
「理由なぁ、レイくんは何で戦ってるの?」
「え、この国を護りたいから・・・、死んだみんなのために・・・」
うんうん、と彼は頷く。
「一緒だよ、祖国が無くなって嬉しい人なんていない、無くなりそうになって初めて気がつくんだ。俺の元同僚もみんな死んだ、カリスの友達も死んだし、キールの家族も死んでる、ゲイルは違う国出身だがな」
その話を静かに聞いているカリスさんと、ちょっと!と止めようとするキールさんに、ガハハと何故か笑っているゲイルさん。
「生きてみんなのために戦う、生きていればなんとかなる、死ぬんじゃないよ」
「はい・・・」
ルイスさんの言う通り、生きてさえいればなんとかなる、それが楽しいのか辛いのかは分からないけど。
「ガキが心配しすぎってもんだ、もっと気楽に行こうぜ」
まだガハハと筋肉任せに笑っているゲイルさん、いやー、あなたみたいに能天気にはなれそうにないです。
てか!
「ガキじゃないですよ!」
「20歳なんてガキンチョよ」
キールさんに言いくるめられて終わってしまった。




