第47話 疑うことを疑う
「レイ、俺が探りを入れている、お前は何もするな」
皆のところに帰る前にツルギさんの部屋に寄ってそう釘を刺される。
「ツルギさんはわかってたんですか?」
「いやわからん、だけど警戒はしている」
歯切れの悪い彼の返事、いっその事ハッキリ言って欲しかった。
「ナナ、ですか?」
「ああ、俺がお人好し過ぎた、お前も疑ってたのにな・・・」
やっぱり、か、涙が込み上げてきて俯いてしまう。
でも彼女は至って普通に、以前と全く変わらないように僕達と接している、何が本当で何が嘘なのか。
「とにかく、お前はいつも通りにしてろ。勘づかれたらお前が危ない」
僕だけじゃない、皆が危ないと思う。しかし、いつも通りか、できるかな。ぎこちなくなる未来しか想像できない。
「ツルギさん、いや、ソラさん・・・」
「なに、急にどうした?」
不安で縮こまる僕に、彼は僕の両肩に手をやりしっかりと握って顔を近づける。
「なんで縁もゆかりも無いこの僕に、僕達にここまでしてくれるんですか?」
すると彼はなんだそんなことかと言わんばかりにニッと笑って答えてくれた。
「何言ってんだ、俺はこの国に来てお前らと一緒に生活して一緒に戦った、経緯はどうであれ縁とゆかりしかないだろ。生きて欲しいんだよ、レイ達に、アサギさんやアヤメさんの分まで」
紛争の時はレイたちに勝ってもらわないと俺の命も危なかったからな!と、また笑う紛争を共に戦ってくれたソラさん。
「俺と関係無いやつが死んでもなんとも思わないが、レイと俺には関係があるんだ、テレビでお前が死んだってのを見たくないんだよ」
ま、水咲さんと啓を2人で戦わせたくなかったのもあるけどね!と続けるツルギさん
本当に本人も言ってたけど、この人はどこまでもお人好しだ。
「みんなのところに戻る、いつも通りだぞ」
「頑張ります!」
できるかは不安だ、だけどツルギさんが僕の気づかない間にいろいろやってくれているみたいだし、頑張るしかない。
●
「レーイッ!なんの話しだったぁ?」
「あ、その、えっと」
無理だっていつも通りとか!1度は疑ったけど、こんなにバカ丸出しなナナリスがスパイだなんて考えられない。
「ん?どしたの?」
じっと僕の顔を見てくるナナ、変に意識してしまってめちゃめちゃ怖い、あーもう、どうしよう!なんで僕には黙っててくれなかったかな!
「あとでみんな集まってツルギさんが話してくれるよ!」
「ふーぅん」
丸投げだ。チラッとツルギさんに目をやると、ダメだこいつと言わんばかりに眉間に手をやり押さえていた、申し訳ないっ!
「って事で集合」
ツルギさんがみんなを集める。
「日にちは未定だけど、タバルニア沿岸を経由してのバルセル南海岸への長距離爆撃が予定されている。出撃部隊についてはエルゲート空母艦載機と、俺たちブルー隊、レイのグレイ隊で・・・・・・」
ツルギさんは話を止めてルリさんの方を見る。
「ルリさん、行けますか?」
「・・・・・・うん」
コクリと頷くルリさん。
「それじゃ、ルリさんをグレイ隊に編入、3番機に入ってください。ナナリス、お前は4番機だ」
「えぇーん、なんでぇぇぇん!」
騒ぐナナリスを華麗に無視したツルギさんは続ける。
「ライド隊は基地の防空、居残りだけどお願いします」
(無視・・・)
悲しそうに呟くナナリスを気にせず頷くカリスさんとゲイルさんに、嫌そうな顔のキールさん、今更だけど任せて大丈夫かな、何かあったら艦載機が増援に来てくれるとはいえ。
「俺たちブルー隊は長距離移動なんて嫌ってほどしてきた、行けるよね?」
「うん、もちろん」
「無論です」
わー、かっこいい。ミサキさんとケイさんはすまし顔で余裕そうだ。てか、先の大戦のときどんだけ酷使されてたんだろう、想像したくない。
「レイたちにはしんどい戦いになると思う、頑張れよ」
「はいっ!」
「うんっ!」
「・・・・・・うん」
「はーーい」
長距離爆撃、最初っから最後まで張り詰めた空気なのだろう、僕はともかくナナリスとか耐えれるのか?心配は心配だが、なんだか複雑な気持ちだ。
「長距離爆撃でのフライトリーダーは俺がやる、みんなそのつもりで」
特に異論はない、この前の越境の時は何とかみんなをまとめることができたけど、結局逃げ帰ってアヤメさんを失ってしまった、信頼と安定のツルギさんに任せよう、いっその事ずっとしてもらいたいぐらいだった。
《ーーカルシューレ基地より緊急信、バルセル陸軍が越境、本基地戦闘機隊に支援爆撃要請ーー》
おっと、ついに陸軍が越境してきたか・・・。
《ーーブルー隊は爆装にて出撃せよーー》
「話はそれぐらいだ、整備早く終わらせろよ!」
そういう残してツルギさんたちは自分の機体のある第2格納庫へと向かうためにこの第1格納庫の出口へと走る。
「お気をつけて!」
「ああ!」
僕の声に手を振り返して彼は格納庫から出ていった。
※
カルシューレ市街地から北西100キロの国境沿い。
到着してみると敵は思っていたより凄い数で、3人でどうにかなる規模か?と、自分の目を疑いたかった。
レーダー画面上直掩機は10機、地上部隊も1個大隊ぐらいの規模だ、地対空ミサイルも当然あるだろう、キツイ戦いになりそうだ。
アルサーレの山は高い、越えてくるとしたらやっぱりこっちからだよな。
《こんなのカガガルローレッツィオを思い出すね!》
《嫌なこと言わないで、思い出しちゃうでしょ》
《帰ったら覚えておいてください》
綺麗な墓穴を掘ってしまう、変なこと言うんじゃなかった、言うこと言うこと傷口を広げている気がする。
しかも今回は制空のイプシロン隊、対地特化のライジング隊などいない、全て3人でこなさなければならない。
《ーーこちらカルシューレ解放陸軍本部、攻撃ヘリ部隊を向かわせた、貴隊には敵対空砲台及び、直掩機への攻撃を要請したいーー》
こっちはたった3機だぞ、やれることは限られる。
ビーストモードでは来たが無誘導爆弾を6発、ミサイルが4発だけだ、無駄弾は使えない。
《ブルー隊了解、対空砲台の破壊を優先する》
《ーー本部了解、幸運をーー》
白崎や、ラナーがいなければ敵のF-14はとりあえず無視だ、スピードで劣るが旋回性能はこっちが上、翻弄しながら対空戦車やSAMを攻撃しよう。
しかし、ヘリも守らないといけない、これこそ臨機応変に対応しないと。
《各機ーー》
《ブルー2、直了!》
《ブルー3、直了、臨機応変に、ですね》
歴戦の仲だ、2人とも的確に指示しなくてもわかってくれる。ちょっと嬉しくてニッとにやけてしまう。
《各機交戦許可、ブルー1交戦》
《了解、ブルー2交戦》
《了解、ブルー3交戦します》
高高度からの爆撃でもいいけど敵車両は動いてるし、なんせ無誘導爆弾。高高度からのが安全に決まっているが、精度を重視し俺は低空から攻撃をすることに決めた。上空で機体をクイッと右ロールし、地面に背を向けて降下、2人もそれに着いてくる。
敵機も俺たちに気づいて旋回し追いかけてくる、ビーストモードだしすぐバレるよな。しかし、初動は俺たちの方が早い、SAMの攻撃をヒラリとコークスクリューで躱し、対空戦車の弾幕が展開されるが照準が間に合っていない。
素早く目標を決めて爆弾を投下し、後ろの2人も続けて投下。
ヒューヒューヒューと爆弾が風を切る音が空に一瞬響いて。
ドンッドンッドンッドンッ・・・。
地上で車両が爆散し、砂埃を上げ、地面が燃えている。
《強行突破なんで危なすぎです!》
案の定、啓に怒られるが、お前だって何も言わずに着いてきてくれたじゃんと思ってしまう。
言っても遅いと思ってくれてたんだろうけど。
《これが最善、被弾するなよ!》
《言われなくても以前のようなヘマはしませんっ!》
怒った啓は怖い、空では何だかんだ着いてきてくれるが、陸に戻ると普通に真顔で殴ってくるし、でも俺はそんな啓が好きだ。
《ちょっと2人とも、作戦中に喧嘩しないの》
そしてどこまでもお姉さん気質な水咲さんも大好きだ、何かあるとついつい彼女に甘えてしまう。いろんな意味で。
《さて、敵機はそこまで早くない、戦闘機は無視して。危なそうだったら俺がカバーするから対空砲台の破壊を続けよう》
爆弾投下後の上昇で敵機が後ろに着こうと試みて来るが全然俺たちの機動に着いてこれてなかった。
《1機落としといて何言ってるのやら》
あまりに飛び方がお粗末なやつがいたから、得意のコブラをお見舞いして機銃で落としてやった。こういった威嚇も重要だ、お説教は勘弁して欲しい。
《自由戦闘、各機散開》
俺の一言でさっきまでデルタ隊形で飛んでいた水咲さんと啓はバッと左右に散開、各自が目標を見定めて攻撃を行う。
《さっさと終わらせよう》
俺は静かに爆弾の投下スイッチを押した。
※
僕は自分の機体の整備が終わり、チグサと一緒にまだ終わっていないナナリスの機体の整備を行っていた。
こういう機械系にチグサはめちゃくちゃ強い、タブレットを一目確認するとカチャカチャと作業を続けていた。
「レイ、13のボックスレンチ」
「はい」
「あと、ラジペン、あ、ツイスターも」
「はい」
僕の仕事は忙しなく工具出し、アサギさんに工具の名前をみっちり教えこまれてて良かった、迷うことなく工具を彼女に渡せていた。それに引替え、ナナリスはポカンとチグサを見ているだけだった。
「レイー、これ支えてて」
「はいはい」
よく分からないプレートを両手で支える、すると、油で頬が少し汚れたチグサの横顔が僕の顔の数センチ先にある、それは彼女の鼻息が僕の頬に当たりそうで、恥ずかしくて手元から目線を逸らしてしまう。
「ちゃんと見てないと怪我するよー」
「あ、ごめ、いっ!」
「あーもう、言わんこっちゃない・・・」
どこでどう挟んだのか、右手の人差し指から血が出ていた。
「いってー・・・」
慌ててポケットに入れてあった汚れていないウエスで傷口を押さえる。
「もう、ほら、手出して」
「へ?」
言われるがままに右手をチグサに差し出すと、彼女は僕の手を取り、どこから出したのか絆創膏を傷口に貼ってくれる。
「ありがとう、用意周到だね」
「念の為いつも持ってるの、はい、終わり」
そして、再び作業を再開すると。
「面白くなーい」
振り向くとボケーッとこっちを見ていたナナリスがプーっと膨れていた。
「あんたが遅いからやってあげてんだから手伝いなさいよ」
「だって、わかんないもんっ」
グズるナナリス、まあ、慣れない機体、分からないのも仕様がないけど、ちょっと手伝ってくれたら楽なんだけどなぁ。でもツルギさんとあの話をした後だし、変に意識してしまってちょっとした彼女の行動が怖い、そのままドライバーとかで刺されてしまいそう。
だかしかし、まだ彼女が悪いとは決まった訳じゃない、普通に接しよう普通に。
「ナナ、ちょっとここ手伝ってくれるとありがたいんだけど」
「ん?どこどこ?」
すっ飛んできて僕に密着するナナリス、近い、怖い。
「えっと、ここ、支えてて」
「はーい!」
そんなに引っ付く必要あるか?グイグイ押されなんだか彼女の胸が当たっている気がして、たまらず後退りしてしまい、そのせいでチグサを押してしまう。
「ちょっと押さないでよ」
「ごめん、ナナが・・・」
「だって見えないもーん」
2人の間に挟まれてしまう、居心地がいいのか悪いのか、ちょっと邪な事を考えてしまう頭をブンブンと振る。しかし、こんな純粋というのかアホなナナリスが本当にバルセルのスパイなのか、なんだか信じられなくなってきた。
彼女の顔を見ても僕の隣にいるからなのかさっきまでふくれっ面だったのに、今はニッコニコだ。
「ん?なーにぃ?」
「いや、なんもないよ」
やばっ、じっと見すぎた、慌てて目を逸らすがニヤニヤしながらナナリスは「なにさー」と僕に肘打ちしてくる。
「ツルギさんたちは戦ってる、早く終わらそう」
「そうだね」
「はーい」
無理やり話を変えてやり過ごすしか無かった。




