第46話 疑うべき人
9月12日、トモパーレ飛行場。
少し落ち着いたルリさんを連れて、僕たちは待機室に戻っていた。
イスに座ってもらい落ち着いたと言ってもまだ泣いている彼女、話しかけるにかけれない。
「チグサ、アヤメさんってルリさんのお姉さんだったの?」
「知らないわよ、初耳・・・」
ルリさんに聞かれないようにコソコソと話す。チグサも知らないなんて。でも、なんで隠してたんだ?
「・・・・・・隠しててごめんなさい」
「え?」
聞こえていたみたいだ、涙を流し悲しそうな蒼い瞳のジト目がボクを見ている。ちょっと肝を冷やすがルリさんの背中を擦りながらしゃがんで顔を近づける。
「・・・・・・姉妹じゃエレメントを組めない決まりがあったから」
第一次紛争の前、グレイニア自治空軍に所属していたルリさんはアヤメさんとエレメントを組むために入隊時に本名を隠して、いや偽造していたらしい。よくバレなかったなと思うが、慢性的な人員不足だった自治軍は特に調べもしなかったのだろう。
兄弟姉妹は同じ部隊に配属できない、一昔前ある国で同じ部隊に所属していた4兄弟が全員戦死したためにできた暗黙の了解、グレイニアにもその風習は一応あり、それを気にし、どうしてもアヤメさんと一緒にいたかったルリさんは名前を偽っていたのだと。
今だったら戦闘機隊が少ないから嫌でも同じ隊になる可能性があったが、昔は結構部隊があったそうだ、だからそうするしか無かったのだと。
「でもなんで、アヤメさんが・・・、何があったんですか?」
ルリさんは続けた。
僕達が先に帰投してからも互角の勝負は続き、なかなか決定打が撃てなかったそうで、試行錯誤しながら飛んでいると突然アヤメさんの右エンジンが爆発、立て直そうと一瞬気が緩んだ瞬間に純白のラプターのミサイルをもろに被弾したらしい。
脱出する暇もなく粉々に爆散する機体。
それと同時に地上部隊の装填が完了して、迎撃を試みるが電波妨害やAPSでミサイルは当たらず、対空戦車の対空砲火も躱されて逃げられたと。
そしてルリさんは、燃料もなくて敵機を追えずに帰投した。
一通り説明してくれたルリさん、彼女はまた思い出して泣いてしまい僕の胸にしがみつく。
「よく帰ってきてくれました・・・」
僕だったらそのまま追いかけているかもしれない、生きてさえいればどうにかなる。ホント、よく帰ってきてくれたよ。
しかし、アサギさんのエンジン不調に続き、アヤメさんのエンジンも突然爆発するなんて、ろくに精密点検もせずにここまでやってきた、無理が祟ったのだと思いたかったけど偶然にしてはできすぎている気がする。
「ガイ大佐には僕から言っておくから、ブルー隊と交代で機体の点検をする・・・。いいですか、ツルギさん?」
「ああ、妥当な判断かな」
ツルギさんも同じことを思ってくれていたようだ、こんな機械の整備不良で2人も死ぬなんて堪ったもんじゃない、整備員の腕を信頼してないわけじゃないけど状況が状況だ、全てを疑うしかない。
そして、ブルー隊をスクランブル待機とし、グレイ隊、グラム2、ライド隊の機体の総点検が始まった。
※
スクランブルがなければ特にやることもない、俺達は点検の手伝いをすることにした。途中でスクランブルになったらいけないからほどほどに。
水咲さん、啓もチグサさんやルリさんの手伝いをしている。
俺はっと・・・。
「うーん・・・」
ナナリスが難しい顔でSu-27をいじっている、整備員も本やタブレットを確認しながらの作業だ、周りの奴より少し遅れていた。
「どれ、見せて」
「え?」
作業をしている彼女の横に着くと、キョトンとした顔でナナリスが俺の横顔を見る。
Su-27なら昔嫌ってほど整備したことがある。昔、ローレニア王子として近衛航空隊に所属していた時だ、年端もいかない少年が戦闘機の操縦整備なんて今考えてもどうかしている。
「あーあー、適当だなこりゃ」
思い出しながらもテキパキと作業をこなしていると。
「なに、ヤバっ、なんでわかんの?」
「いやー、昔ちょっとね」
ニッと笑って誤魔化す。
詳しく話したらどんな目で見られるかわかったもんじゃない、「王子様ぁぁ!?」とかなりそうだし、変なことは言わないに限る。
それから簡単なところは時々教えてやって、難しいところは俺がパパパッとこなしてあげる、俺のF-35に比べたら大したことない。
そうしながら、俺は気付かれないように彼女の様子を伺っていた。
(なんでここにはお人好ししか居ないのよ・・・)
「へ?なんか言った?」
「ん?ううん、何も言ってないよぉ」
「そう?」
「うん」
やっぱり怪しいのはこいつかな、バルセルからレイと戦いたくないという理由で亡命してきたナナリス。疑うべきはこいつしかいない。こっちに来てアサギさんが死んだのならライド隊の奴らも疑う余地があるが、ここに来る前に彼女は死んでいる。
でも証拠がない、どうにかして尻尾を掴まないとみんな死んじまうぞ・・・。この状況じゃ誰も信じてくれなさそうだし、どうしたものか・・・。
少し考えすぎて手を止めてしまう。
「どうしたのぉ、ツルギぃ?あ、間違えた?」
「あ、あぁ、久しぶりすぎてちょっとね」
「もー、ちゃんとしてよぉ」
ペシペシと背中を叩いてくるナナリス、俺だってこいつがスパイなんて考えたくもないさ。あの戦争、第二次グレイニア紛争を一緒に戦った仲だ、間違いであって欲しかった。
「なぁ、ナナリス」
「んー?」
「レイのこと、まだ好きか?」
「うん、大好き!」
満面の笑みで答えるナナリス、そこに偽りはないように見える。
「そうか、それが聞けてよかった」
「なにぃ、あ、ツルギ私に惚れちゃった?でもー、残念ながらレイしか眼中に無いもーん」
「そんなんじゃねぇよ!!」
まったく、悩んでる俺がバカバカしくなってくる。
「はい、終わり。あとは自分でやれ!」
「えぇーん、ひどいー」
こいつに付き合ってたら頭ん中がお花畑になりそうだ、逃げよ逃げよ。俺は工具を無理やりナナリスに渡して立ち去ろうとすると。
「ナナリスさんとは楽しかったですか?」
「わっ、啓!」
突如、ブルー隊の3番機たる彼女が俺の前に立ちはだかる。
「ああ、Su-27のことちょっと教えてただけだよ」
何、怖い、ただでさえジトッとしている目を更に冷たくさせて見てくる。
「そうですか、私にも整備の仕方を教えてくれたことないのに」
ちょっ!ひよっこん時のことをほじくり返すな、あん時は滅多に話したこと無かっただろ!
なんてことは言えず、オブラートに包む。
「あの時は悪かったって、どう接していいかわかんなかったっていうかな・・・」
「へぇー」
もう、なんで怒ってんだよ。
「なに、また喧嘩?」
水咲さんが俺の肩からヒョイッと顔を出す。
「啓がなんか怒ってて・・・」
「怒ってません」
ぷいっとそっぽを向く啓。
「それを怒ってるって言うの!」
「まあまあ」
水咲さんが宥めてくれるも、だんだんと格納庫内が俺の声で騒がしくなる。
「もう、ツルギさん、痴話喧嘩は外でしてください」
機体の向こうから顔だけ出して俺を弄ってくるレイ、なんで陸じゃこんなにみんな弄って来るのか。
「もう、知らん!」
お前のことを心配していろいろやってやってんだぞ、こんな所にいてられるか言われなくても俺は外に出る!ぷりぷりと足幅広く格納庫から外に出た。
※
点検は順調に進みほとんど終わりかけだった、ナナの方はちょっと手こずってるみたいだけど。
ルリさんを見ても黙々と作業をしている、一緒にいてあげたいけど何を言っていいか分からない、変にぎこちなくなっていた。
《ーーササイ大尉、ニケット大尉、アスール少尉、ミーティングルームまでーー》
ほ?各隊長が呼ばれる、そこにアヤメさんの名前が無いのは悔しかったけど、泣いてばかりは居られない。
「レイ、行くぞ」
「はい!」
僕は外にいたツルギさんの背中を追いかける、なんの話だろう?また何か不具合でもあったのかな?あまり気が乗らなかった。
ミーティングルーム。
そこにはガイ大佐が待っていた。
「早速だが、上からとんでもない作戦が降りてきた」
とんでもない作戦?何だろう?何も浮かばないまま、大佐はモニターのスライドを進める。
「エルゲート海軍と合同でバルセル南海岸への空襲だ」
「は?」「な?」「へ!?」
バルセルの南海岸を空襲?タバルニアの沖を海沿いぐるっと回って行くってこと?ここから1000キロ以上あるけど大丈夫なのか?
「物理的には可能だ、エルゲート海軍の空母がタバルニア沖にて待機し、その上空で空中給油を実施。そして、空母艦載機と共にバルセルの工業地帯及び軍施設を叩くのだが」
かなり壮大な話だ、やれないこともないと思うが懸念事項もあるようで。
「本土の制空が手薄になる、艦載機が援護してくれる予定ではあるが、それだけリスクもあるということになる・・・」
なるほど、攻撃重視で行くと防御が弱くなり、防御重視だと攻撃が弱くなる、戦闘機が少ないグレイニア特有の悩ましい話だ。
「苦肉の策だが、1部隊残って、2部隊に遠征してもらう、カエルラ大尉が生きていたらそこまで難しい話でもなかったのだが・・・、攻撃に行く部隊の選択をしてもらう」
誰が残って誰が行くか、難しい選択になりそうだ。とりあえずルリさんは僕のグレイ隊に入ってもらうとして、グレイ隊、ブルー隊、ライド隊をどう使うか。
それに、他力本願ではないけど、あのラプターの相手はツルギさんにしてもらいたい。
僕だってアヤメさんの仇だ、アイツを撃墜したい気持ちはあるが返り討ちにされるのが落ちだと思う。しかし、いつどこに現れるか分からない、それが1番の悩みどころだ。
「空母艦載機か、空母からはなんて隊が来るんですか?」
特に重要そうでもないことをツルギさんは聞く。
「まだ決まってはないようだが、オメガ隊、ヤロー隊、スピット隊、ガーディアン隊のどれかだそうだ」
「お、オメガ隊かぁ」
また知り合いかな?空母にもいるのかよ、凄いなこの人。
「俺が行きたいけど、白崎がなぁ。あいつ俺がここにいるって知らないだろうし・・・」
ん〜・・・と唸りながら考え込むツルギさん、白崎がなぁってラプターのパイロットの事か、確かに彼が来る前にもブルー隊はラプターと会敵していないし、ツルギさんの存在を知らないだろう。しかし、いくら元同僚らしいツルギさんの存在を知ったからと言って攻撃をやめるとも限らない。
「ラプターの人ってツルギさんの存在を知ったら攻撃やめてくれますかね?」
一応核心をついておく。
「それがなー、あいつ二重スパイとか平気でしそうだし、考えが読めないからなぁ、俺より子供っぽいのに」
なにそれ、どんなパイロットなの?
とりあえず攻撃をやめてくれるのは望み薄かな。
「もし戦うとして、ツルギさん、勝てます?」
「おい、一応元同僚だぞ」
「あ、すみません・・・」
忘れてた、悪いこと言ったな、申し訳なくてちょっとシュンとするとツルギさんは優しく僕の頭を撫でる。
「ただでさえ強い白崎がラプターに乗ってて、電波妨害にAPS、痛いの嫌だから防御に全振りしたってか?勝てるわけないだろそんなの」
パチン。
「いてっ、なんで叩くんですか!」
どさくさに紛れて頭を叩かれた、まあ、勝てませんよね。
「誰が戦っても勝ち目がないなら、ライド隊が残るんで、2人は行ってきてください、長距離苦手なんで」
ルイスさんだ、いいのそれで?ラプターが来たら皆殺しになるんじゃ・・・、まあでも艦載機も来てくれるらしいし、数の暴力でどうにかなるかもしれないけど。
「では、グレイ隊、ブルー隊が遠征組でいいな」
そして、僕達がバルセル南海岸の長距離爆撃に向かうことになった。
「それと、もうひとつ、これを見てくれ」
大佐がそういうと、何かのカメラ映像がモニターに流れる。
映されたのは格納庫の中かな、あそこ防犯カメラなんてあったんだ、なんて呑気な感じで見ていると、1人の人影が現れて、アヤメさんの機体で数十秒ゴソゴソしていると足早に去っていき、映像はそれで終わった。
これって・・・。
「被害が出たあとに発覚して、大変申し訳ないのだが・・・」
大佐は映像を巻き戻して、人影が映った場面で止める。
「ネズミがいるぞ、注意しろ」
映像からは誰の姿とかは判断できなかったが、僕は何も信じれなくなりそうだった。




