第40話 僕の1番機
《グレイ2、落ち着け!》
《くそぉぉぉぉ!!》
《おい、レイ!・・・ダメか、ブロッサム1、エレインあいつを援護しろ》
《ブロッサム1、ウィルコ》
《エレイン、りょうかいっ!》
完全に我を失っているレイ、怒りそのままに空を飛び回り全く周りが見えていない様子。連携も何も無くこれじゃいい的だ。
チグサも涙を堪えている感じだし、大丈夫だろうか。
《レイくん・・・》
水咲さんもあいつを心配している、早く敵機を落とさないと、あいつも落とされてしまう。
《たった3機だ、畳み掛ける》
《ブルー2、了解っ》
《ブルー3、了解》
レイの後ろはなんとかチグサ達が守っている、あいつの心配は後だ、俺たちは俺たちの仕事をしよう。
《グラム2、フォックス2》
ドバーン・・・。
さすがはルリさんだ、早速1機撃墜し粉々に吹き飛ぶ。そして、俺も敵機を捉えた。
《ブルー1、フォックス2》
ドバーンッ!
命中撃墜、別に敵機は特別強いわけではなかった、ただ単に突破されただけだったのか。
運がないというか、なんというか・・・。
※
こんな簡単に別れが来ていいはずがない。
初めてのフライトリーダーがこれなんて絶対やだ。
僕の1番機が空戦もせずに死ぬなんてありえない。
《おらぁぁぁぁっ!》
操縦桿がへし折れそうな程力いっぱいに操作して、敵機を追う。
敵機を捉え、ミサイル発射ボタンを押した。
4発のミサイルが逃げ惑う敵機を追い、まもなく爆発。
形が残らないぐらいバラバラに砕け散る。
周りを見渡すと残りの2機は他の人が落とした様子、僕は車輪を出して滑走路に急いだ。
●
アサギさんは生きていた、だけど・・・。
「アサギさん、大丈夫ですか!?」
「・・・・・・あぁ、お前か。すまんな・・・・・・」
彼女は庁舎にある、簡素な医務室の前の廊下で手当を受けていた。包帯でぐるぐる巻きに応急手当され、辺りは血まみれ、僕は彼女の血で濡れた手をギュッと握る。
その他にも負傷者がたくさんいた。
「アサギさん・・・」
後ろのチグサも不安そうに声をかける。
「・・・・・・せめて、死ぬなら空が良かったな・・・・・・」
「なんてこと言うんですか!アサギさんは死にません、死んじゃダメです!」
虫の息で声もかすれかすれ、目も開いてはいるが焦点が合っていない様子。でも、彼女はまだ生きている、ちゃんと息をしている、死ぬわけが無い。
「・・・・・・レ、イ・・・・・・」
「なんですか?」
泣きそうになりながらも、ぐっと我慢してアサギさんの口元に耳を近づける。
「・・・・・・あとは、あとは頼んだぞ」
「・・・・・・はい、任せてください」
頼まれたくない、また貴女と一緒に飛ぶんだ、そう思いたかったけど、この怪我ではそれは叶わないだろう。内頬を噛み締めながら頷くしか無かった。
そして、負傷者は山の麓、カルシューレの陸軍病院に送られる事になった。
ここ、アルサーレにも僕が入院していた病院があったが、ここは前線すぎて危険だからとのことでそこになり、アサギさんはストレッチャーに載せられトラックでカルシューレへと向かう。
「アサギさん!絶対帰ってきて下さいよ!」
その時には既に彼女の意識はなく、僕は力いっぱい叫ぶだけ叫んで、アサギさんを見送った。
その道中、僕の教官であり1番機のアサギさんは息を引き取った。
●
9月11日。司令室。
「アーノル大佐、これは・・・?」
僕は大佐に呼ばれてここに来ていた、机に何か小さめの木箱が置かれている。
それにゆっくりと歩み寄ると、その蓋の上には飛行服の名札と、銀色に輝く2枚1組のはずの1枚のドッグタグ。
『アサギ・セレステ』
それを見ただけで涙が溢れそうだった。
「アサギには身寄りがいないわ、2番機の貴方に預けるわね」
その木箱をゆっくり開ける、中には白い骨が入っていた。
「・・・・・・」
言葉が出ない、本当にアサギさんなのか、誰かと間違えてるに決まってる、きっとまだ生きてる。
そう思いたかった。
「彼女に何かあったらって預かり物があるわ」
「・・・・・・」
大佐から受け取ったのはウィングバッチだ、アサギさんのだろう、ピカピカに磨かれていた。
「それで、2日後にアルサーレ基地戦闘機隊は全機、トモパーレ飛行場へ転属することになったわ」
「え・・・」
突然の転属命令に大佐を呆然と見る。
僕のせいだ、僕のせいで防衛ラインを突破され、基地を攻撃され、僕の1番機は死んでしまった。
「アサギは常々言ってたわ、レイはセンスがある、期待してろ、って。ここは前線すぎるわ、ちょっと後ろに下がってグレイニアをよろしく頼むわね」
唇の内側を噛み過ぎて血が出そうだ。もっと、もっと上手くなった姿を、何も心配がいらない姿をアサギさんに見せたかった。
「・・・大佐は」
「私?私はここに残るわ。2日後には解放陸軍がここに到着する。これでも第一次紛争の時は陸戦の指揮もとったのよ」
大佐はここに残って陣頭指揮をとるそうだ。僕を安心させるためなのか少し笑って答えてくれる。
「・・・・・・2人に、させてください」
「えぇ、いいわよ」
ウィングバッチを飛行服の左胸につけ、箱の上に置いてあったドックタグを首にかけて、遺骨を大事に両手で抱え司令室を後にした。
※
「レイくん帰ってこないね」
「あぁ、どこ行ったんだろ」
俺たちは待機室であいつの帰りを待っていたが、司令室に呼ばれてからかれこれ1時間以上帰ってこない。水咲さんも心配しているし、俺も不安だった。
あいつの1番機のアサギさんは、被弾し倒壊した格納庫の下敷きになり重体で陸軍病院に搬送された。
まさか、本当に死んでしまったのか?いやいや、パイロットが地上で死ぬなんて考えたくもない。
「見てこよっかぁ?」
ナナリスがピョンッと立ち上がる。
「ダメだ」
「なんでぇー!」
不服そうに頬を膨らますナナリス、直感でいろいろと危険と判断した俺、即却下だ。
コンコン。
お、帰ってきたか?扉がノックされゆっくりと開く。
「失礼します・・・」
「あ、長井ちゃん!」
なんだか恐る恐る入ってきたのは、陸軍の長井だった。水咲さんが優しく手を振る。
「どうしたの?」
なんだか暗い顔をしている。
「その、私たちの展開が遅くて被害が出てしまって・・・」
長井のせいじゃない、不可抗力だし誰にも防げなかっただろう。それなのに優しい彼女は、責任を感じているらしい。
俺は手招きして椅子に座ってもらう。
「誰のせいでもないよ、みんなそう思ってる」
チグサさん、アヤメさん、ルリさん、水咲さんに啓、みんな頷いてくれる。
「ここは戦闘機が少ないから、これから防空よろしくね」
「はい、高射の人達にキツく言っておきます!」
「偉そうに言ってるけど、俺はここの人間じゃないんだけどね!」
少しの笑いが起こる、まあ、紛争の時からいるからほぼここの人なんだけどね。
ずっと暗いままじゃダメだ、切り替えないと。
「私、レイを探してきます」
突然チグサさんが立ち上がる。
「私もぉ!」
「ナナリスはダメだ!」
「だから、なんでぇー!」
俺はナナリスの腕を掴んで引き止めて、チグサだけが待機室から出ていった。
「・・・・・・私も」
続いてルリさんも部屋を出ていく。
ナナリスも行きたそうに俺の手を解こうとするが離す訳にはいかない、どんな爆弾発言をするかわかったもんじゃない。
「なんでよ!ツルギのいじわる!」
「考えて発言できるようになったら考えてやるよ」
ぷくーっとナナリスは膨れていた。
■
9ヶ月前。1月25日。
暫定首都アルサーレ。
「君、大丈夫?」
訓練が終わり帰宅のために街を歩いていると、建物の間にひっそりと座る少年、いや、青年かな?そんな人が目に入り、なんだか放っておけなくて声をかけた。見た感じは私より年下で幼い感じがする。
「・・・・・・」
結構寒いのにボロボロのコート1枚を着てやせ細っている彼は、私の問に答えることなく、震えながら不審な眼差しでちょっと睨んでくる。あ、解放軍の制服だから警戒してるのかな?
でも、この子格好からして難民かな?でも難民キャンプはもう少し離れたところにある、なんでこんな所に・・・。
「君、どこから来たの?」
彼の前にしゃがみこんで尋ねる。
「・・・・・・イスタン、から」
「えっ・・・」
目は合わせてくれないが彼は答えてくれた。
イスタンはしばらく前に反乱軍によって制圧されてしまった、しかも距離もかなりある、そこから逃げてきたのか?生まれも育ちもアルサーレの私には想像がつかない。
「名前は、なんて言うの?」
「・・・レイ、です」
「レイくんか。行く場所はないんだよね?」
よそを向いたままゆっくりと頷くレイくん。
「来て」
私は彼の手を引いて基地に戻った。
アルサーレ飛行場。
「おいおい、チグサ、難民を連れてくるなよ・・・」
困ったように腕を組み眉を顰めているのは、私のパイロットの教官のアサギさん。
すらっとしていてモデル体型で綺麗な人なんだけど、訓練となるととても怖い。
「放っておけなくて・・・」
「しかしだな、こいつだけを特別扱いは出来ないんだよ」
レイくんを庇いながら言い訳を考える。怒られることは分かっていたけど、どうしても放っておけなかった、あんな寒空にいたのによく死ななかったよ。
「あの、やっぱり僕・・・」
申し訳なさそうにこの場を去ろうとするレイくん、私はそれを引き止める。
「あのままじゃ死んじゃうよ!」
彼は一瞬私の目を見るとすぐに逸らした。
「・・・みんな死んだのに、僕だけ生きてるのも・・・・・・」
パチンッ!
「おい、チグサ・・・」
無意識のうちに私はレイくんの左頬を叩いていた。
彼は目を点にして私の顔を見る。
せっかくあの紛争を生き延びたのに死んでしまったら意味が無い、せめてみんなのため、死んだ人のために何かして欲しかった。
「解放軍に入って・・・」
「え・・・」
彼はぶたれた頬を擦りながらわけがわかっていない様子、私も何を言ってるのか分からない。なんでどこの誰かも分からない行き倒れ寸前の青年を解放軍に誘っているのか、理解不能だった。
「それに、ここなら衣食住そろってるから安心できるよ。それならいいですよね、アサギさん」
「あ、ああ、軍に入るのなら・・・だか・・・」
全く関係ない人を面倒見れないのなら、関係のある人にしてしまえばいい、よく考えたら我ながら完璧な策だ。
「だって!レイくんどうする?」
アサギさんは何か言いたそうだったが、私は勢いのままに無視して、笑いながらレイくんに聞く。
「えっと・・・その・・・」
まあ、突然そんな事言われても困るよね、だけど君には答えは1つしかない。すごい剣幕でさらに詰め寄る。
「よ、よろしくお願い、します・・・」
やった!キラキラした瞳でアサギさんを見ると。
「あぁもう、わかったよ、大佐には言っておく。私の訓練は厳しいからな、覚悟しろよ」
アサギさんの脅しに彼は少し頬が引きつっていたようだけど大丈夫、私でも何とかなったから!
そして彼、レイ・アスールくんは解放空軍に入隊。
私の時より厳しいアサギさんに、こっ酷くしごかれる羽目になったのだけどね。




