第39話 戦線崩壊
9月10日。
何とか制空権を確保しながら、鹵獲したというSu-27がアルサーレ飛行場に到着し、格納庫で整備が行われていた。
ナナリスの機体、グレイニアの薄灰色に塗装され、主翼には放射状に広がる青い二本線の国籍マーク。
垂直尾翼にはプレートアーマーを着た人の横顔、かな?僕達の部隊マークに比べればちょっと複雑な柄だ。
そして、コールサインは・・・。
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《エレイン、フォックス2!》
一応、僕が考えた。彼女が思いつかないから考えろって煩くてね。一応意味はある、ある神話からとったんだけど詳しく言うとナナリスの他に、チグサやルリさんも煩くなりそうだから止めておいた。
ん?知りたい?小っ恥ずかしいんだよね。
ある神話に出てくる、世界で一番美しい女性の名前だよ。
黙ってたら可愛んだけどね、煩すぎるよ、まったく。
《くっ、エレイン、後ろについて》
《ウィルコ、今行くねぇ!》
彼女はなんの躊躇いもなく戦ってくれていた、みんなに信じて欲しいからなのか、元味方と戦っていることを紛らわすためなのか、僕には分からない。
援護を求めると、薄灰色のSu-27は敵機を追うのに手こずっていた僕のカバーにすぐ入ってくれる。
すると、目の前を飛んでいた敵機が突然爆発、燃え盛りながら落ちていく。
《あっ、おい!エレイン!》
《へへぇーん、詰めが甘いよぉ、ガキンチョー》
《このっ!ガキじゃねぇっての!》
もたもたしていた僕を差し置いて、後ろからミサイルを放ったようだ。アサギさんから言われるならまだしも、ナナリスに言われるとは・・・、悔しい。
《グレイ2、痴話喧嘩は帰ってからやれ》
《違いますっ!》
アサギさんに弄られる、僕じゃなくてナナリスに言って欲しい。帰ったら帰ったでルリさんに何されることやら・・・、考えてるだけでも内ももが痛い。
《ーー敵機が撤退していく、各機RTB、次回に備えろーー》
3機程撃墜すると残りは反転してバルセルへと帰っていく、ずっとこんな感じだ、よくそんなにパイロットいるなとも思う。ベイルアウトした人もいれば出来なかった人もいる、あまり考えたくないな。
《よし、帰るぞ》
僕達も反転して基地に帰る。
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アルサーレ飛行場。
格納庫では機体の補給が行われている、燃料補給にミサイル、弾薬の補充。
「ねぇねぇ、このフランカー凄いよ!ヘルメットに情報が全部出てさ!」
何やらテンションの高いナナリス、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
「え?僕のイーグルもそうだけど?」
鹵獲した機体を改造したのかな?にしても、このグレイニアのどこにそんな技術があるのか、毎回不思議に思う。ツルギさん達のF-35にも似たような機能があるそうだけど・・・、まさかね。
「は?それで、あんなに下手っぴなのぉ?」
「うっせーな、ちょいちょいディスるな!」
こんな所にいてられるか、部屋に帰る!ぷいっとそっぽを向き、背中を向けて歩き出すと。
「ごーめーんー、冗談だってぇ」
僕の腕を掴んでブンブン振る。ちょっと優しくするとすぐに調子に乗る、気をつけないと。
ゴーーー・・・。
なんだ?格納庫の外から轟音が聞こえる、戦闘機ではないかな?
外に出ると、上空に青迷彩色のC-5輸送機がいた。
主翼には白星が見える、エルゲート機だ、それが3機上空を旋回し着陸しようとしている。
「エルゲートの増援だそうだ」
アサギさんがどこからか現れて、僕と一緒に上空を見上げる。
「陸軍ですかね?」
「さぁな」
自分で言っておいてなんだが陸軍ではないだろう、バルセルに攻め込むこともないだろうし、まだ陸上戦闘も起こっていない、カルシューレにも解放陸軍1個師団が待機している。
という事は。
輸送機が降りてきた、機体横にはエルゲート陸軍の文字が。
「え、陸軍?」
まさかの陸軍機だった、輸送機が駐機場に移動してきて機体後ろの扉が開く、そこから降りてきたのは大砲のついた戦車ではなく。
エルゲート陸軍高射特科部隊。
自走式8連装短SAM発射機2両、車両搭載型近SAM2台、30ミリ自走対空戦車2両、自走式フェーズドアレイレーダー2両、パトリオットミサイル2台。
どうやらこの基地の防御を固めるために来たらしい、ここには頼りない対空戦車が4両しか無かったし、これは嬉しい増援だ。
「おー、なんかいっぱいいるな」
「援軍の2陣目かな?」
騒ぎを聞きつけたツルギさん達も集まってきた。
みんなで遠目にエルゲート陸軍が車両の準備をしているのを見守る。
「あれ?あの人・・・」
ミサキさんが誰かを見つけたようで指さす、ツルギさんケイさんと一緒にその方向を見ると、なんだかブカブカなヘルメットを被ったちっこい人が、忙しなく走っていた。
「長井かな?」
「呼んでみよっか?」
ナガイ?陸軍にも知り合いがいるの?ツルギさんどんだけ顔が広いの。
「おーい、長井ちゃーん!」
ミサキさんが声を張って大きく手を振る。
すると呼ばれたブカブカヘルメットの人は周りをキョロキョロすると、ツルギさん達の存在に気づいた。
誰かにペコペコ頭を下げると、こっちに走ってくる。
※
やっぱり長井ちゃんだった、会うのはローレニアの都市ベルツィオ以来かな?小柄な彼女は私たちの前に来ると、ヘルメットを脱ぎ可愛らしいポニーテールを露わにしてパァッと明るくなった。
「お久しぶりです。って、笹井さん生きてたんですか!?」
「おお、おかげさまで」
驚愕している彼女に、剣くんはニッと笑って答える。
「・・・・・・白崎くんは、いないですよね」
少し辺りを見回して急に暗くなって俯いてしまう彼女、思い出させてしまったかな、申し訳ないことをしてしまった。
「ごめんね・・・」
「いえ、大丈夫です!」
絶対大丈夫じゃないと思うけど、それ以上は言えない。
「また何か持ってきますね、では!」
「うん、ありがとう」
ニコッと可愛らしく笑って、以前のように彼女は駆けていった。
※
「今の人は?」
「ん?あー、通信員の長井って人、ベルツィオで世話になってね」
「ほぇ、なるほど」
あー、ベルツィオってエルゲート軍が進軍していたとこか。意外と世間って狭いなぁ。
「僚機の奴といい雰囲気だったんだけどなぁ・・・」
「あ、なんかすいません・・・」
その人も死んじゃったのか、前回の様なヘマはしない、僕は学習したんだ聞くのはよしておこう。
《ーーバルセル機接近中、方位200、グレイ隊、エレイン、ブロッサム1、出撃せよーー》
「またぁ?」
もー、なんか毎回出撃してる気がする。
まあ、F-35じゃ速度が足りなくて迎撃戦とかは難しいのかな?それで言うとSu-27も僕達F-15程は早くない、バックアップ要員なのだろう。
ちょっとは休憩したいが、そんなことも言ってられない、僕は整備の終わった機体に飛び込む。
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ボンッ!
離陸直前、目の前を進むアサギさんの機体のエンジンが突然煙を吐き停止した。
《あー、クソッ。グレイ1、エンジン故障、牽引してくれ》
滑走路脇に止まる彼女、マジかよこんな時に限って。まあでも、これまで部品も少ない中かなり酷使していた、仕方ないと言えば仕方ないのか。
《ーー了解した、グラム隊もブルー隊も整備が終わっていない。グレイ2、指揮を取れーー》
《えぇぇぇぇっ!?僕!?》
なんで!?チグサの方が向いてると思うけど。
《整備が終わるのを待っている暇はない、お前なら大丈夫だ、行ってこい》
そうは言いますけどアサギさん、フライトリーダーとか初めてだし・・・。
いやいや、僕はグレイ隊の2番機なんだ、彼女が何をしているかずっと見てきた、いつも通りやれば大丈夫。
大きく深呼吸しながら自分に言い聞かす。
《グレイ2、了解。グレイ1、待ってますよ!》
《ああ、すぐ行く》
派手に煙が上がっている、直ぐに動けないのは分かっているが僕を落ち着かせる為に、アサギさんもそう言ってくれる。
大丈夫、やれば出来る、頑張れ僕!
そして、僕、グレイ2を先頭に、エレイン、ブロッサム1が空に舞い上がり、敵機迎撃のためにいつもと違う方向、南南西に向かう。
※
ウゥゥゥゥーー・・・。
基地に空襲警報が鳴り響く。
あいつは大丈夫なんだろうか、故障箇所は大したことないらしいが、まだ、私の機体の修理は終わっていない。
《ーー敵機が防衛ラインを突破、全機準備出来しだい離陸せよーー》
大丈夫じゃないみたいだな、アヤメ達もツルギ達もまだ燃料補給が終わっていない、整備員がバタバタと燃料補給用のホースを機体から外して準備を進める。
このままだと10分もしないうちに敵機が来る、時間との勝負だ。
「レイ・・・」
私は空を見上げることしか出来ない。
※
《マジかよ、飛行場には近寄らせたらダメだ!》
会敵していざ空戦、と思ったら3機の敵機は僕達に見向きもせずにそのまま直進、最大速度でアルサーレ飛行場へと向かおうとしていた。
旋回して速度が落ちていた僕達は、徐々に離されてしまう。
僕達と戦うことを諦めて、直接基地の攻撃をしようという魂胆か・・・。
《分かってるけど、あのトムキャット速くない?》
《待てまてぇ!》
3人で必死に追うが、非常にまずい。
《グレイ2から管制、敵機が防衛ラインを突破、現在追撃中》
《ーーなにっ、グラム隊、ブルー隊はまだ準備中だ、撃墜しろーー》
《りょ、了解・・・》
撃墜しろとは言うものの、ミサイルをこの距離で撃っても当たらないだろうし、アフターバーナー全開だがなかなか距離が詰まらない。これじゃ、追いつく前に基地に着いてしまう。
《むぅ、エレイン、フォックス3》
痺れを切らしたナナリスが1発の中AAMを放つが、フレアによって躱される。
クソっ、間に合わない・・・。
敵機の向こう、山裾にはアルサーレ飛行場が見えてきた。
《グラム隊準備完了、離陸するわ》
《ブルー隊も上がる!》
最強の5人の準備が終わったようだ。
早く!と僕は焦る。
フライトリーダーとなって初めての空戦がこれなんてたまったもんじゃない、絶対に撃墜してやる。
《私はまだ時間がかかる、頼んだぞ》
アサギさんはまだか。だけど敵はたった3機だ、グラム隊とブルー隊が上がれば大丈夫だろう。と、そう信じたかった。
《やばい!》
敵機が胴体下部からミサイルを2発づつ発射、白い煙を残しながら基地に突っ込んでいく。
《敵が対地ミサイルを発射!》
《ーー近SAM展開中、間に合わんか・・・。対空戦車攻撃初め!ーー》
エルゲートから到着して早々の近SAMは準備が間に合わない、30ミリ自走対空戦車が空に各二門の砲口を向けてミサイルの迎撃を始め、空に曳光弾の光の筋が走り、地面に空の薬莢が散乱する。
ドンッ、ドンッ!
2発迎撃した、残り4発。
《行けいけ、さっさと上がれ!》
《今、上がるわよ!》
珍しくツルギさんが怒鳴り、ルリさん、アヤメさん達が滑走路を走る。
地上の戦闘機は役立たずだ、空にいる僕でさえ役立たずなのに、なんだか泣けてきた。
ドーン、ドーン・・・。
《うぉっと!》
滑走路のすぐ側にミサイルが着弾し砂埃が上がるも、その中からアヤメさん、ルリさん、ツルギさん、ミサキさん、ケイさんが現れて空に舞い上がる。
《あっぶねー。レイ、全部落とす、ぞ・・・》
ドンッ、ドーン・・・。
残りのミサイルが管制塔と格納庫に命中した。
ミサイルの直撃を受けた管制塔は砂埃と煙を上げながら倒壊し、格納庫はぺちゃんこに潰れ、中からは火が出ていた。
アサギさんの機体が修理をしていた格納庫だ。
《管制塔応答しろ!》
《ーーーー》
返事はない、クソッ!と叫ぶツルギさん。
それよりも・・・。
《アサギさん・・・》
何かの間違いで合って欲しかったけど、間違いなくあの倒壊した格納庫ではアサギさんの機体が修理していたはずだ。
《アサギさん!》
呼んでも、さっきまであった彼女の声はない。
《・・・クソッタレがぁ!!》
離陸したツルギさん達によって、既に侵入した敵機の迎撃は始まっていたが、怒りをそのままに僕もその中に突っ込んだ。




