第38話 亡命
やっぱりソラさん、じゃなかった、ツルギさんは最強だった。
彼の後ろにつく2人も最強。
むしろ正規の3機編隊になって強さがおかしい。
ツルギさんが敵機の中に突っ込んで行っては、ミサキさん達がいつの間にか敵機を落とし、気づけば彼も落としている、ホント、どうなってんだ?
《ーー敵が退いていく、各機RTB。次回に備えろーー》
敵は4、5機で飛来しては数機撃墜されると引き返すを繰り返していた。こんな消耗戦、僕達の方が有利な気もする。
●
9月5日。
アルサーレ飛行場。
今日のスクランブルは、何やら様子が違っていた。
《ーー不明機1機が接近中、グレイ隊、ブロッサム1は離陸し確認に向かえーー》
なんだなんだと僕達は離陸準備を進め、いつものように早々と離陸し西の空に向かう。
《ーー不明機の後方に目標探知、感弱い、例のラプターと思われるーー》
マジか、どうなってるんだ?
《グレイ1、ウィルコ。状況の確認を優先する》
不明機とは一体何なのか、考えても分からない、とにかく僕達は空域に急ぐ。
少しするとレーダーに不明機を捉えた、国籍が分からないし変に手出しできない、アサギさんが呼び掛けを行う。
《不明機に告げる、国籍と目的を明かせ》
返事なんて来るだろうか、すると少し間を置いて返事が来た。
〈助けて!〉
は?この声は!
《ナナリス!?》
咄嗟に叫んでしまう、嫌ってほど聞かされた声だ、間違えるわけが無い。
〈レイ!お願い、助けて!〉
《助けてってどういうことだよ!》
〈お願いだから!〉
話が噛み合わない、なに?どういうことだ、と混乱しているとナナリスの無線からミサイルアラートが聞こえる。
前方で何かが明るく光った、レーダーを見ると不明機、いやナナリスがいる方向と重なる、状況からしてフレアを放ったのか。
《ちょっと待ってて!》
〈お願い、はやく!〉
僕はアサギさんの指示を待たずにエンジン出力を上げて前へ出る。
《おい、レイ!あぁ、チグサ、カバーするぞ》
《ウィルコ!》
見えてきたのは緑色のF-4、そしてその後方にはあの純白のF-22。
そのF-22は迷うことなく再びミサイルを放つ、僕達へではなく、同じバルセル機であるはずのナナリスに向かって。
僕は一心不乱に間に割り込んでフレアを放ち、1発躱せたがもう1発がすり抜けてしまう。
ボンッ!
《ナナっ!》
〈・・・・・・大丈夫、んもー、右エンジンが・・・〉
どうにかミサイルの直撃を免れて至近距離で爆発しただけだったようだが、エンジンに破片が当たってしまったようで、彼女の機体はノズルから黒い煙を吐いていた。
《くそ、責任は取れんぞ》
《どうなっても知らないよ!》
アサギさんは怒ったようにそう言いながらも、僕のカバーの為に後ろに着いてくれて、チグサも悪態をつきながら30ミリ弾を敵機にぶっ放つ、当たるかどうかなんて関係ない、威嚇射撃だ。
《僕が責任を取ります!》
勢いで責任取るなんて言ったけど大丈夫かな・・・。
するとあのF-22は僕達の登場に観念したのか、ふわぁっと上昇反転し空域を離脱していく。
何とかなったのかな?
〈ごめんなさい、レイ・・・〉
《たく、何があったんだよ》
とりあえず僕達は、被弾し煙を吐くナナリスをエスコートするように隊形を組み直して基地に戻った。
●
基地に到着しナナリスがコックピットから降りると、彼女は真っ先に僕に飛びついてきた。
「ごめんなさいぃ」
「とわっと!」
勢いそのままに来るもんだから、よろけそうになったけど、何とか踏ん張ってナナリスを受け止める。アサギさん達、ツルギさん達も集まる。
「何、どうしたんだよ」
また会えたのも嬉しかったけど、何故彼女はあのラプターに追われていたのか、まずは理由が知りたかった。
「こんな戦争間違ってる!私はレイ達と戦えない、だから・・・、だから亡命しにきたの!」
「はぁ!?」
おいおいマジかよ、僕達と戦いたくないからって簡単に国を捨てれるか?という事は、あのラプターは亡命するナナリスを撃墜する為に追っていたのか、間に合ってよかった。
「んで、ソロアさんは?」
2人で1組のはずのRIOのソロアさんの姿がなかった。
「あいつは残るって・・・、ラナーも・・・」
僕は彼女をギューッと抱きしめて頭を撫でる。
「それで良かったの?」
「・・・うん、私はレイと戦いたくない」
「そっか・・・」
それ以上の言葉はかけることが出来なかった。
そして、アサギさんと僕とナナリスで大佐に報告に向かう。
戦時中にパイロットが戦闘機ごと亡命なんて聞いたことないし、彼女の扱いはどうなってしまうのだろうか、部屋に行くまでに不安が募っていく。
司令室。
「ナナリス・シュツットさん」
「は、はい・・・」
僕とアサギさんの前に立つ彼女は、アーノル大佐に名前を呼ばれるも、柄にもなくシュンとした感じで返事をする、正規で来ていた時は態度は横暴だったのに今は預けられたネコみたいだ。
「貴女の目的は?」
「・・・亡命、です」
淡々と答えるナナリス。
「なぜ?」
「・・・レイと戦いたくない、から」
彼女はだんだん俯いていく。
「こういうものは、忠誠心を見せろ、だとかって結局戦うことになるけど大丈夫?」
「・・・レイと一緒なら」
何故ナナリスはそこまでして僕と一緒にいたいのか、国にももっといい人はいるだろうに。そう思ってくれることは嬉しいけど、なんだか複雑だ。
「私達も人手が少ないの、貴女だけを守れないし、戦って貰うわよ」
「・・・はい」
戦うのが嫌だからって亡命したのに戦わされる、なんとも皮肉だ。ナナリスは拳を握りしめているが、僕も力が入ってしまう。
「それと、F-4の修理は出来ないわ、それにF-15の予備機は彼が被弾してないし」
なんかどさくさに紛れて大佐にディスられた、顎で指される。別に被弾したくて被弾した訳じゃないやい。
「鹵獲したSu-27に乗ってもわうわね、説明書は追って渡すわ」
「・・・はい」
マジか、フランカーに?
ずっと複座戦闘機に乗ってきていたであろう彼女に乗りこなせるのか?
まあ、僕が心配しても仕方ないか。
「アサギ・セレステ大尉、レイ・アスール少尉!」
「はっ!」
「はいっ!」
突然名前を呼ばれて、思わずビクッとする。
「ナナリス・シュツット中尉をグレイ隊の3番機に、チグサを4番機とします。何かあったら責任を取りなさいよ、私にも限界があるからね。じゃ、別れて」
僕達は敬礼して部屋を後にした。
待機室に戻る。
ナナリスは人差し指で、僕の飛行服の袖を握っている。
不安なんだろうけど、僕の方が不安だと思うよ?君が何かしたら責任とらないといけないんだから。
「ナナ?」
「なに?」
あんまり目を合わせようとしない彼女、僕は続ける。
「僕は信じてるから」
「・・・ありがとう」
袖を握る手に力が入るナナリス、変に疑うより信じてしまった方が楽だ。もし彼女が何かしてしまったらその時はその時、今考えても仕方の無い事だから。
「私の隊の3番機になるんだ、レイより下手な飛び方は許さんからな」
「ちょっと、アサギさん!」
急にディスらないで!それにナナリスも一応エース相当だ、直ぐにフランカーの操縦にも慣れてくれると思う。
そんな僕とアサギさんのやり取りを見ていた、ナナリスはちょっと笑っていた。
●
待機室。
「えぇっ!?ソラ・・・じゃないツルギ?ってエルゲートのパイロットだったのぉ!?」
少し落ち着いたナナリスに、ツルギさんの事を説明していた。
ツルギさんはソファの真ん中に座り、両隣にミサキさんとケイさんが引っ付いている。
「ごめんな黙ってて、色々と事情があって」
「それは別にいいんだけどぉ、なんで戻ってきたのぉ?」
おいおい、キミが言うんじゃない、人のこと言えないだろうに。ちょっと引いた目で彼女を見ると。
「なにぃ」
睨まれた、こっわ。
「んー、レイが心配だったからねぇ・・・。いでででで!」
ちょっと嬉しいことを言ったと思えば、無表情のケイさんに思いっきり脇腹を摘まれていた。彼女も隠す気がない、ここには怖い女性が多すぎる。
「ってのは2番目で、1番は水咲さんと啓が心配だったから!」
それを聞いて、ニッコニコな両隣の2人。本当に彼のことが好きなんだなぁ。
「あ、そうそう、チグサぁ」
「え?」
まだ、アレを言ってなかった。僕の隣に座るチグサ、どんな反応するかな。
「ナナが3番機で、チグサは4番機だって」
「へ?」
一瞬の沈黙。
「な、なんであんな奴が3番機で私が4番機なのよ!!」
「ちょっ、チグサ!き、決めたの僕じゃないって!」
激高したチグサに首を締められる、これってばいつぞやに見た光景、落ちるから離してください!
「私が3番機だもーん」
調子に乗ったナナリスが、僕の肩に腕を回して顔を近づけてくる。いや、むしろ擦り寄せてくる、耳のピアスが当たって痛い。
「ちょっと!レイから離れなさい!」
「やだよーん」
チグサに引っ張られ、ナナリスに引っ張られ、騒がしい事この上ない、出撃の前、むしろ飛んだ後に言えばよかった、ちょっと後悔。
「お前ら仲良すぎ」
いや、ツルギさんあなたに言われたくない、隙あらばミサキさんとケイさんとイチャイチャしてるくせに。
しばらく2人にもみくちゃにされていると。
「・・・・・・うるさい」
「もっ」「ぺっ」
急に静かになった、ん?と、後ろを見るとルリさんが2人にチョップを食らわせた様だ、変な声を出してチグサとナナリスは頭を摩っている。
するとルリさんはチョコチョコと歩いてソファを回り込み。
「ほえ?」
定位置こと僕の膝の上に座る。このタイミングで?
「・・・・・・レイは私の」
「っ!!」
「なっ!」
「うそっ!」
離さないぞと言わんばかりに僕のズボンをギュッと握るルリさん。か、かわいい!
「あらあら、今日のルリは積極的ね」
頬に両手を当てて、どこかの奥様みたいに興奮しているアヤメさん。
「どうなっても知らんぞ・・・」
頭を抱えるアサギさん。ちなみに、僕の方が困ってます。
「レ、レイはどうなのよ!」
「そーそー、レイは誰がいいのぉ?」
「・・・・・・」
今!?ここで決めるの?
「おっ、俺も知りたい!」
目を光らせながら、前のめりになって聞いてくるツルギさん。
「えっと・・・」
困ってキョロキョロしていると、3人に早く言えと言わんばかりにすごい形相で睨まれる。
冷や汗を垂らしながら、ルリさんをゆっくりと持ち上げて膝の上から下ろす。
よし、逃げよう。
「あっ!逃げた!!」
「まてぇ、ガキンチョー!」
「・・・・・・追いかける」
こんな状況耐えられない、僕は部屋から飛び出した。
ホント勘弁してください!
その後、直ぐにルリさんの飛び蹴りによって捕まり、再びもみくちゃにされたのであった。




