第22話 痴話喧嘩
7月3日、待機室。
「ガキンチョ!」
「ガキじゃねぇっての!」
「えぇー、でもぉ、年下じゃん?」
「そんな変わんないだろ!てか、どんな基準だよ!」
ナナリスは1度名前で呼んでくれた気がしたが、それから僕の事はずっとガキンチョ扱いだ。
「じゃぁ、大人の遊びぃ知ってるのぉ?」
「どんな遊びだよ!」
「知りたーい?」
ナナリスは人目を気にすることなく、僕に顔を近づけてきて、優しく僕の顎に手をやり、クイッとされる。それなりに可愛い顔、ルリさんの小さい唇とはまた違った、彼女の唇は非常に柔らかそうで、香水のようないい匂いがしてくる。
「あ、赤くなった、かわいぃ〜」
「んなっ!」
ムキーッ!!僕は顎にある彼女の手を弾き飛ばす、なんで僕はこんなギャル女にこうも弄ばれないといけないのか、腹が立ってきた。
「2人とも仲良いね!」
「喧嘩するほど仲がいいって言うしな」
ニグルムくんの純粋無垢な声に、嫌味たっぷりなソラさんの声。
「よくないっ!」
バンッ!と全力で否定するが。
「いいじゃんかぁ」
「寄るなぁぁぁぁ!」
ナナリスがあまーい声でニヤァと笑いながら肩を組んできた、トゲっとしたピアスが耳に当たって痛い。僕はそれを振りほどいて、部屋を逃げ回っていると。
「どうした、騒がしいなぁ」
アサギさんが帰ってきた、後ろにはアヤメさんとラナーさんもいる。
僕はドサッとソファに座る、ソラさんニグルムくんの横にムスッとしながら。
「怒ってる」
「怒ってない!」
ついにはニグルムくんまで、僕を弄ってくるようになってきたのか。おー、怖い。と言わんばかりに両腕を擦りながら少しソラさんの方に寄っていく。
「集まれ、話し合いだ」
アサギさんの一声に、みんな真ん中のソファーに囲まれたテーブルの周りに集まる。アサギさんとラナーさんは入口に近いソファーに座り。その右側にミルアとソロア。奥にアヤメさんとチグサ。左側にソラさん、膝上にニグルムくん、僕、当然のように膝上にルリさん。んで、何故か狭いのに僕の隣にナナリスが座る。
「なんでここに来るんだよ!」
「だってぇ、座るとこないしぃ」
「狭いんだって!」
「えぇ、いいじゃ〜ん」
わざとらしく身体をすり寄せてくるナナリス、僕はルリさんを持ち上げつつソラさんの方に寄る。
「せめーよ」
「す、すいません・・・」
なんで僕が謝らないといけないんだ、理不尽だ・・・。
「痴話喧嘩は他所でやれ」
「違いますっ!」
アサギさんまで・・・、ここに僕の味方は居ないのか・・・。
一悶着ありつつ(と言っても僕が弄られているだけ)結局このまま話し合いはスタート、内容はと言うと、ルリさんを追い込んだ敵機についてだ。
ラナーさんの説明によると、グリゴリ攻略自体は順調に進んでいたらしい。
しかし、どこからともなく現れた7機のSu-27によって制空権は逆転、アヤメさん達戦闘機は地上支援をする余裕もなく必死に追いつつ追われつつ空戦を繰り広げて、4機で何とか拮抗状態を保ち、陸軍の地対空ミサイルの支援を貰いながら戦っていたのだが、一瞬のスキをつかれたらしい。
ルリさんの至近距離で敵の放ったミサイルが爆発し被弾、直撃は免れたものの戦闘は困難という状態に。
「・・・・・・油断した」
ぎゅっと拳を握るルリさん、よっぽど悔しかったと思う。ソラさんに模擬戦で負けた時も悔しがっていたが、今は空戦のことを思い出したのか、その時以上にかなり落ち込んでいるように見える。
「てかぁ、7対4は卑怯だわぁ」
「言うな、それでも俺たちは勝たないといけないんだよ」
ナナリスの言うことにも一理あるが、ラナーさんの言うことの方が正しい。常に劣勢なのはわかっていたこと、だからバルセルに援軍を頼んでいるわけで、この人数で勝てないといけない。
「7機かぁ」
ソラさんがため息混じりにそう言うと、ニグルムくんを抱いてソファーに深くもたれ掛かる。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな」
「?」
気になって聞いてみても何も教えてくれない、しばらく「んー」と彼は唸っていると、ソファーにもたれていた背を起こして少し前かがみになる。
「俺たちは10人8機いる、何とかなるでしょ」
ちょっとソラさん、その自信はどっから出てきたんですか?
「しかしよぉ、あの強さは全員で掛かっても微妙だぞ?」
ラナーさんの言う通りだ、僕もそいつらを見た訳では無いが、もっと念入りに計画やら作戦やらを練って陸軍と協力した方が・・・。
「俺がいるんで大丈夫です」
へ?
「わぁ、ソラくんかっこいぃ!」
とんでもない自信に、ナナリスはわざとらしく頬に手を当てて、キャーキャーと騒ぎ、膝上のニグルムくんはキラキラとした尊敬の眼差しで見つめていた。
ソラさん充分強いけど、そんな事言っても大丈夫なの?
「それで、結果どうなったんですか?」
チグサが言う。そうだ、まだ結末を聞いていない。
ラナーさんが続ける、被弾したルリさんをアヤメさんが守りつつ戦っていたのだけど、ふとした拍子に7機は撤退して行ったらしい。理由はよく分からないがちょうどその時、陸軍が強引に前進を開始していたと、7機は敵の陸上部隊と連絡をとりあっていたのだろう。結果撃墜戦果は無し、被害はルリの被弾だけで済んだ、という事だった。不幸中の幸いか。
「対策だが・・・」
アサギさんが続ける。そして、ああでもない、こうでもないと話し合いは続いたが、結局いい案は見い出せず、とりあえずはお開きとなった。
僕はいつもの駐機場のベンチに来ていて、空を眺めていた。
雲の隙間から見える空が青くて綺麗だ。
「何してるの?」
「んー?特に・・・」
チグサが横に座ってきた、目をやるといつもの様にジッパーを胸の辺りまで開けて、そこから見える黒いインナーシャツの下にある胸の膨らみに目がいってしまう。完全に誘っているとしか思えない。
「どこ見てるのよ」
「みてねーよ!」
「うそぉー」
「ホント」
ホントは見てるけど、そんなことは言えない。彼女だって実はそんな気は全然ないのかもしれないしね、触らぬ神に祟りなしだ。
僕は再び空に目をやる。
「ソラ、全部自分が落とす、ぐらいの勢いで言ってたけど大丈夫なのかな?」
「前の戦争でなんかあったんじゃない?多分」
ソラさんは何かと秘密の多い人だ、そうとしか思えない。けど、仮にそうだとして、何故ローレニアの戦闘機がローレタラティスにいるのかが分からない。その7機のパイロットは前王派で、紛争の時にこっちに渡ってきたとでも言うのだろうか。
「まぁ、ソラさん強いし大丈夫じゃない?」
「えぇ、7機相手は無理でしょ」
「僕も頑張る!」
「なんか心配・・・」
ルリさんに一撃を与えた相手だ、僕が個々に相手してどうにかなるとは思えなかったが、超カッコよくて強いソラさんや、ルリさんの後ろについて行けば、何故かどうにかなる、そんな気がした。
「ガキンチョーーー!」
遠くでナナリスの声がする、誰かを呼んでいるようだ。
「ガキンチョーー!」
だんだん声が大きくなる、一体誰を探しているんだろう。
「ガキンチョー!!」
後ろからナナリスのでっかい声がして耳を劈く。煩いなぁ、ここにガキンチョって奴は居ないぞ?やれやれ、誰と間違えているのやら。
「無視すん、なっ!」
「ちょばわっ!!」
後ろに立っていたナナリスに思いっきり脇腹をくすぐられた、脇腹をくすぐられるとか何年ぶりだろうか、それこそ子供の時ぐらい?突然の事にびっくりして、ベンチからコケ落ち涙目になってしまう。
「なにすんだよ!」
「無視すんな!」
「じゃー、名前で呼べ!」
「やだぁ!」
「なんでだよ!」
「ガキンチョ!」
「意味わかんねぇーよ!」
話が噛み合ってるのかよくわからないが、ここで妥協したらダメだ、いつものように軽く甘い語尾を伸ばした声ではなく、何故か必死な彼女に、声大きく張り合う。
「無視すんな!」
「あーもう、ごめんって」
結局折れてしまった、ナナリスはプーっと頬を膨れさせている。
「仲良すぎでしょ・・・」
それを隣で見ていたチグサ、引いた目でボソッと言う。この状況を見て、どう判断したらそうなるのか、僕にはわからない。
もう・・・、とベンチに座り直すとナナリスは立ったまま、まだ膨れている。よし、無視されるのが嫌いなのは分かった、だけど、言動が伴ってないんだって。
仕方ないので彼女の手を引いて僕の隣に座らせる、彼女は意外にもペタンと素直に座った。
「で、何しに来たの?」
ちょっとめんどくさかったけど一応聞いておく。彼女の顔を覗いてみると、ついさっきまでどこぞのピンクボールみたいに膨れていたのに、何だか嬉しそうにニコニコしている、喜怒哀楽が激しくてついていけない・・・。
「え?・・・なんだっけぇ?」
めっちゃアホそうな顔をして僕に首を傾げる、いや、知らねーよ・・・。
「忘れたぁ」
なんだよそれ・・・。まあ別に重要そうな事じゃないし気にすることないか、ナナリスの事は忘れて再び空を見る。
「ぶちょわふっ!!」
また誰かに脇腹をくすぐられた!誰だこんにゃろーめ!慌てて飛び上がり後ろを振り返ると、そこには両手をワキワキとさせるルリさんがポツンと立っていた。何だか悪そうな笑顔をしている、目は笑っていないが僕には彼女が意図している事がわかる、弱点がバレてしまった・・・。
「ちょっとルリさん!?」
「・・・・・・楽しそうにしてたから」
「楽しくしてないですから・・・」
「えぇ、ひどーい」
悪そうな顔をしたルリさん、楽しくないと聞いて悲しそうなナナリス、それを見てまた引いているチグサ。
なんで僕の周りには個性豊かな人ばかりなのだろうか・・・。




