第23話 被弾
7月7日、グリゴリ上空。
『バルセル・グレイニア派遣部隊第1任務機甲師団』がグリゴリ侵攻を開始した。
グレイニア解放陸軍も街中に潜んでいた民兵と合流、攻勢を強めていく。
今は後方に陣取るバルセル第1長距離地対地ミサイル大隊から発射された地対地ミサイルが、空に白い弧を作りハイダイブで地表の目標に降り注いでいる。
《第4戦車大隊前へ!》
チャレンジャーとT-90の混成戦車部隊が市街地中心部へ前進を開始。
《第21歩兵中隊は戦車を盾にして進め!》
《第11重歩兵大隊は街の外周から第2戦車大隊と共に前進を開始する》
まさに一大攻勢、それぞれの部隊がそれぞれの任務に奔走している。
《グレイ1から各機、油断するなよ》
《グレイ2、了解!》
《ブロッサム1、ウィルコッ!》
《ソード、ウィルコ》
《グラム2、ウィルコ》
《グラム1、了解よ》
《スペクター1、了解》
《スペクター2、りょーかぁい》
空軍は総出、全8機による制空だ。今日はみんないる、何が来てもきっと大丈夫だ。ちなみに、ルリさんは予備機での参加、漆黒のF-15は1機だけだ。
アサギさん、僕、チグサ、ソラさんの隊と、アヤメさん、ルリさん、ラナーさん、ナナリスの隊、2つの編隊に分けて空を周回して警戒にあたる。
《目標探知、小型10機、・・・無人機かな。方位090》
スペクター2RIOのソロアがレーダー画面上に目標を探知した、急ごしらえで取り付けたデータリンクで情報を共有して行く。
《無人機か、私達が行くぞ、グレイ1交戦》
《了解!グレイ2交戦》
《ウィルコ、ブロッサム1交戦》
《ソード、交戦》
この前のように編隊の端を飛ぶソラさんから旋回して、無人機の飛来方向に機首を向ける。たった10機だ、30機以上を相手にしたことがある、それほど脅威に感じられなかった。
東の空に小さく光る全翼機を発見した、無人機に間違いないだろう。それらを確認すると、先頭を飛ぶソラさんが例の如くその中に突っ込んでいく。
無人機はブワッと散開して、また半数、5機が彼を追う。アサギさんチグサは彼を追わなかった残りの5機と交戦を開始した、僕もソラさんを追う無人機を追う。
今日もソラさんは僕が撃墜しやすいように、補足されないギリギリの旋回半径で飛んでくれている、すぐに無人機を照準に捉えてバルカン砲を発射、最後尾の1機を落とす。
(よしっ、次!)
続いて次の無人機に照準を合わすが。
ビ、ビ、ビ・・・。とレーダー照射を受ける、アサギさん達が取りこぼしたのが僕の後ろについているようだ、ミサイルを発射されるまで粘るか?一瞬のうちに悩んでいると、警報が止んだ。
《大丈夫?》
ルリさんだ、4機じゃ荷が重いと加勢してくれたのか、非常に頼もしい。振り向くと、僕の後ろにいたと思われる無人機が黒煙を上げながら落ちて行っている、さすがだ。
《来たよ、目標探知、7機、方位090》
スペクター1RIOのミルアがみんなに知らせる。おっと、お早い登場だ、無人機はまだ全部片付いていない、これは苦戦しそうだな・・・。
《レイ、無人機は任せた!》
《りょ、了解!》
ソラさんはそう言うと捻るように難しい機動で旋回して、後ろに迫っていた無人機を次々と落としたと思うと、彼はアヤメさんの後ろへと合流。僕の後ろを守ってくれていたルリさんも、僕の後ろがフリーになったことを確認すると、旋回上昇してアヤメさんの斜め後ろに付く。
《さぁて、無人機がいるのは誤算だけど、以前のようにはいかないわよ。グラムの名にかけて・・・、グラム1交戦》
《グラムの意味は『怒り』・・・グラム2交戦》
《おっかねぇな・・・、ソード、援護する》
《ミルア!しっかり捕捉頼むぞ、スペクター1交戦》
《絶対おとぉーす!スペクター2、こーせぇん!》
アヤメさん達5機は7機の敵機と対峙するように飛ぶ。グラムの意味が『怒り』と言うとは初めて知った、神話の剣がどうのこうの、という所までは聞いていたのだけど、ソラさんの言うように相当におっかない。
そして、無人機と戦う僕らの少し上空で未だかつて無い壮絶な空戦が始まった。
●
《ファントムじゃキツいよぉ》
《わかってた事だろーが!》
ナナリスの悲壮感に満ち溢れた声と、ラナーさんの怒鳴り声が無線に響く。
《無人機、あと3機!》
低空ではチグサのガンポッドが無双状態、僕が見様見真似でソラさんのように囮になり、チグサがそれを落として、アサギさんがサポートに回っていた。
《ルリさん!そっち行ったよ!》
《分かってるっ》
《後ろに付いたわ》
一方更に上空のソラさん、アヤメさん、ルリさんはエースの風格を見せつけるように、訳の分からない機動で空を飛び回り敵に迫っている、こんな状態でルリさんが被弾したんだから油断は禁物だ。
《よしっ、あと2機!》
またチグサが無人機を落とした、大口径弾の被弾により無人機は誘爆を起こし粉々になって落ちていく。
《レイ!お前は先に上がれ!》
《えっ、は、はい!》
あと2機なら彼女たちだけでも時間の問題だろう、ちょっと心配だったけど、僕が心配したところで彼女たちは僕より強い、素直に離脱して、エンジン出力を上げ上昇、上空の敵機の動きを観察する。
前方の敵機がミサイルを放つが、フレアも使わずにヒラリとバレルロールをして躱すソラさん。
《ちょっとソロア!ちゃんと捕捉してよぉ》
《んな、無茶な!》
ナナリスは自信満々にミサイルを放っていたが、惜しくもフレアを使われ敵機を逸れる。
まさに消耗戦と言った感じだ。さて、僕は誰のサポートに回れば・・・。
《レイ!来て!》
ルリさんだ、地上とは違うハッキリとした声で呼ばれる。僕はルリさんの後方目掛けて上昇していくが、彼女も絶賛ドッグファイト中だ、クルクルと旋回を続ける彼女の機動についていけそうにない。しかし、無理だ無理だと言っても何も始まらない、とその時、ルリさんの後ろに敵機が回り込もうとしているのが見えた、あいつを狙おう。
《ルリさん、援護します!》
まさか、この僕がグレイニア最強の(ソラさんを除く)ルリさんの援護に回る日が来るなんて思ってもみなかった。ちょっとの間、感傷に浸りたい気分だったけどそんな場合じゃない、上昇の勢いそのままにクルッと反転してルリさんの後ろに付こうとする敵機の後ろにピッタリと付く。
《無人機全機撃墜、チグサ上がれ!》
《了解!》
アサギさん達が無人機を全て始末したようだ、意外と早かった、僕が言うのもなんだけど。
僕はルリさんを追うSu-27に、離されないようにとピッタリくっついて飛ぶ。ついていけないことは無い、むしろ、模擬戦でアサギさんを追う方が骨が折れるぐらいしんどい、一瞬の隙をついてミサイルを放てばこの距離なら当たる、我慢だ。
僕の目の前でルリさんを追いつつ左右に敵機が回避行動をとっている。なかなか補足できない・・・、ちょこまかと逃げられ、それを追うごとに身体にGがかかり、頭から血の気が引いて足元に集まっている感覚がする。
《くそっ・・・》
苛立ちが隠せない、ついつい舌打ち混じりの悔しい声が出てしまう。
《おっ!・・・えっ?》
敵の動きが一瞬止まった、今を逃すことは無い。瞬時に捕捉し、ミサイルの発射ボタンを押そうとした。
その時。
目の前にいたはずの敵機はいなくなっていた、変わりに真上からとてつもない圧迫感を感じる。
全ての景色がスローモーションで流れた。
ちらっと頭上を見上げると、宙に静止した暗灰色のSu-27の機首が、真っ直ぐこちらを向いている、パイロットの顔も見えるぐらいだ。コブラの発展型かな?凄いな。そんな呑気なことしか考えられなかった。
※
《レイ!あの馬鹿っ!》
《レイ!》
《ガキンチョ!?》
みんなが口々にこの中で1番若いひよっこパイロット、私の教え子、レイの危機に声を上げている。
見たくないものを見てしまった、敵機のクルビットのような反転攻撃を躱すことができず、機体の背面に機銃掃射をモロに受けてしまったレイ。エンジン付近から煙が出ているが、あいつは何とか飛んでいる。
私は上昇中にレイに攻撃を加えた敵機にミサイルを発射、無理やり反転していた敵機は完全に失速しておりフレアを発射するも、私が放ったミサイルは機体に命中、敵機は火を噴き落ちていくが、パイロットはベイルアウトしていた。
《レイ!大丈夫か!?》
《・・・・・・》
《おい!》
《・・・・・・》
反応がない、無線機が壊れているのか?それとも・・・、いや、あいつはちゃんと飛んでいる、変な考えはよそう。
《チグサ!レイを先導して基地に戻れ!》
《わ、分かりました!アサギさんは!?》
《敵を落とす。頑張れよ、レイ・・・》
チグサに先導されながらフラフラと西の空へ離隔していくレイ、私はそれを見届けると歯を食いしばり、依然空戦を続ける敵機に襲いかかる。
※
自分が死ぬのはどうでもよかった。
しかし、周りの人が死ぬのは嫌だった。
自分が無茶をするとひどく怒る人がいたから、生きる為に頑張ってきたが、周りの奴がどんどんいなくなっていく。
今度はレイが被弾し、チグサさんが先導してユラユラと不安定に飛びながらこの空域から離れて行く、あいつは大丈夫だろうか・・・。
あの日と一緒だ。
今ならあいつが怒っていた理由が分かるかもしれない・・・。
《許さん・・・》
こいつらとは先の戦争で何度も戦っている、その間に何機か落とされが、俺の直属の戦闘機ではなかったし、戦争だからと割り切れていた。
しかし、弟っぽいと言われる俺より更に弟っぽいレイが、煙を吐きながら西の空へと飛んでいく。
あいつのみんなに弄られて、怒りながらも笑っている笑顔が頭をよぎる。
《落とす・・・》
俺は得意のコブラを屈指して、後ろに迫る敵機を追い越させミサイルを放つ。
目の前でそれは爆発し、黒い煙が視界を覆い、その中を突き抜ける。
《全部落とす・・・》
俺は出力全開、スロットルレバーを思いっきり倒した。
※
「ぐっ!!」
くっそ、やられた・・・。
2撃目が来るかもしれないと慌てて後ろを確認するも、僕に機銃を浴びせた敵機は、誰かのミサイル攻撃を受けて爆発四散していた。よ、よかった・・・のか?
被弾による影響なのか、エンジン出力が低下してスピードが出ない。
慌てて自己診断プログラムを起動すると、2番エンジンが停止し、アラートの赤い文字で画面が埋まる・・・。
《アサギさん!被弾しました、出力低下・・・》
隊長を呼ぶも無線にはザーっと砂嵐が鳴り響く、無線機をやられたか・・・。
「なんだよ、もうっ!」
ヒビの入ったキャノピーを叩きそうになり、寸前で慌てて手を止める。
失速して墜落しないように1番エンジンの出力を調整し、邪魔にならないよう空域から離れるように飛ぶ、自分に出来そうなアラートを解決しながら。
運良く敵機はみんなが引き付けてくれていて、僕には向かってこないがどうしたらいいのか・・・。
スっと僕の前にチグサの機体が現れた。
上下に翼を振ってバンクしている、付いてきて、という事なのか。こんなんじゃ戦えない、レーダーも点滅を繰り返していて使い物にならず1人じゃ帰れそうにないし、当然だろう。
チグサがゆっくりと西に向けて旋回していく、僕はそれにつづく。
しかし、少し落ち着いてくると何だかお腹が痛い、ストレスで胃腸がやられてしまったか?片手でお腹をさすると何だかヌルッとする。
「へ?」
見ると手袋が赤く染っていた。
さっきまでちょっと痛いな、ぐらいだったお腹の痛みが、だんだん強く激しいものになり、ドクドクと脈打つように痛む。
(冗談だろ・・・)
奥歯を思いっきり食いしばった、死なないと決めた矢先にこれかよ、傷口らしい所をぐっと抑える、めっちゃ痛い。しかし、スロットルや、ブレーキ、操縦桿、機器の操作などなど戦闘機の操縦は片手では無理だ、血に濡れた手を操縦桿に戻す。
(くそーっ、めっちゃ痛いって・・・)
痛みで目がかすみ、前を飛ぶチグサの姿が薄くなっていく。
手で押さえたくても押さえれない、何だか背中、お尻にもヌルッとした感じがする。
やばいやばい気をしっかり持て、僕!
ヘルメットシールドを上げてゴンゴンと頭を叩く。
だがしかし、それでも目はかすみ、息をする回数も多くなる、ふーふーと、肩で息をしないと肺に空気が入ってこない。
(アサギさん・・・)
それからのことは、あまり覚えていない。




