第21話 家族
前を飛ぶチグサが、翼下に搭載している30ミリガンポッドをぶっ放していた。その30ミリ弾が当たった無人機は、翼が吹き飛びヒラヒラと落ちていく。いつ見てもあの機関砲の威力は凄まじい。
《あぁっ、くそっ!》
さらに前方を飛ぶソラさんが、多数のミサイルに追われ、躱しきれないと判断したのか悪態をつきながらフレアを発射し、回避行動をとっている。さすがにあの量は彼でもフレアを使わずには避けれないだろう。
ビ、ビ、ビ・・・。
僕の方もレーダー照射を受けている。どこからだ?周りを見渡しても、敵機が多過ぎてどれから照射されてるのか判断できない。とりあえず、一旦チグサの後ろから離脱する。
《グレイ2、後ろだ!あぁ・・・、そっちへ行く!》
どこを飛んでるかわからないアサギさんに指摘されるが、後ろと言われて後方を確認するもよく見えない、どっちに回避行動を取るか悩む。すると左前方にアサギさんが大きく旋回しながら現れた、何機か引き連れ機首を僕の方に向ける。
《本気ですか!?》
《今のお前ならできる!行くぞ!》
後方にいると思われる無人機に捕捉されないように、微妙に左右に旋回しながら、アサギさんと機体の正面を向け合い近づいていく。その間に彼女の後ろに引っ付いている無人機をロック。このままじゃぶつかるぞ・・・。
《右!!》
《くっ!》
彼女の掛け声とともに、奥歯を噛み締め操縦桿をめいいっぱい倒して右に旋回、アサギさんと機体の腹と腹がすれ違ったと同時にミサイルを2発発射。
ドドーン・・・。
と、爆発音があとから後れて聞こえてくる。
《いいぞ、レイ!》
《は、はい!》
何とか上手くいったようだ、ていうか冷や汗ものだ、心臓に悪いってもんじゃない。しかし、普段褒めてくれないアサギさんに少し笑いながら褒められる、彼女も喜んでくれているのか。今日これで何度目だろうか、頬が緩み、にやけてしまう。
でも、これをさっきアサギさんとソラさんは平然とやってたんだよな・・・。そう思うと緩んだ頬を引き締めて、操縦桿を握り直す。
《地上部隊、まだか!そろそろキツイぞ!》
《管制室は制圧した、もう少しだ!》
ミサイルの残りは僅か、僕も残弾あと2発、アサギさんもあと2発、チグサはガンポッドをメインで使っているからだろうからあと4発、ソラさんは3発と言った感じだ。まだ戦えるがそんなに待てる状況じゃないし、終始体にGをかけている、体の方が持ちそうにない。
《違う、識別情報を反転させろ・・・、そうだ・・・》
地上部隊の方ではハッキングが始まったらしい、専門用語が無線の向こうで飛び交い、素人の僕たちにはさっぱりだ。
《あ、ガンポッドの弾切れちゃった・・・》
さっきから豪快な銃撃音が聞こえないと思ったらそうだったのか、装弾数自体少ないし仕方がないだろう。チグサは諦めてミサイルを発射して応戦していく。
《グレイ2、また、後ろについてるぞ》
《わかってます!》
ソラさんに指摘されるが、僕は既に回避行動をとっている、レーダー照射の警報がコックピットに響き、急降下して距離を離そうと考えるが、なかなか距離は広がらない、僕は低空で飛び地形に沿って飛ぶことにした。
しかし、降下して気づいた。
(上昇したら背中からやられるんじゃね?)
浅はかな自分に反省、高度を上げられずに無人機に追われながら低空で飛び続ける。
《あのバカ・・・》
アサギさんの、やっぱり褒めるとダメだなと言わんばかりの呆れた声。上空を見ると少し先に回り込んで1機降下して来ている。
しかし、彼女を待たずしてコックピットに響いていた警報がピタリと止まった。
《ハッキング成功ぉぉ!空軍、もう安全だぞ》
僕の後ろに付いていた無人機は高度を上げて飛び去り、残りの無人機と編隊を組んで上空の旋回を始める。
ふーっと安堵のため息をついて、一安心。僕も降下してきたアサギさんと共に上昇して、僕達も皆で編隊を作る。
《支援機から地上部隊、燃料が少なくなってきた、作戦を終了し基地に帰投する》
《地上部隊了解、制空は無人機に任せる。ありがとう、なかなかの仕事ぶりだったぞ!》
地上の人達が僕達の仕事ぶりを称えてくれる、とても嬉しい。
《ーーこちら管制、直了だ、ノースシュルツ支援隊RTBーー》
《グレイ1、RTB了解。・・・さて、帰るぞ》
珍しくアサギさんの疲れた声、今回も全員無事、僕達は制圧した基地上空を大きく旋回、南西に進路を取り、アルサーレ基地に帰投した。
●
アルサーレ飛行場。
僕はみんなとハイタッチをして喜んでいた。もちろんニグルムくんもいる、なんの事だかわかってはいないと思うが、可愛く一緒に喜んでくれていた。
「凄いじゃん、レイ!どーしちゃったの!?」
「いや、まあ、出来ちゃったというかなんというか・・・」
チグサは俺の手を、ハイタッチしたそのまま握って嬉しそうに上下にブンブンと振る、どうしたも何も出来ちゃったんだ、冗談抜きで。
「やれば出来るんだな!」
後ろからソラさんが僕に飛びつき、左肩を組んで、これでもかと僕の頭をガシガシグシャグシャしながら言ってくれる。褒めてくれるのは嬉しいけど。
「やめてって!」
そんなに激しくされると、ヘルメットでぺちゃんこになった髪の毛が、ボサボサになるので本当に勘弁してもらいたい。
「お疲れさん」
アサギさんもソラさんと同じように、彼とは反対側、僕の右肩に肩を組んで頭に手をやる。もー!と思っていたが、ソラさんによってボサボサになった髪の毛を優しく整えてくれる。
「あ、ありがとうございます・・・」
照れながら彼女の顔を見て言うと。「ああ」とニッコリ笑ってくれた。ホント、なかなか口では褒めてくれないのに、僕が上手く出来ている時の笑顔はとても可愛らしい、女の子のような顔をしてくれる。別に女性と思って接してない訳では無い、ただ、普通に可愛く感じるんだ。
僕はそんな彼女を見ると、思わず恥ずかしくなって目をそらした。
「なーに照れてんだよ」
おいおいぃ、と軽く腹パンされながら、まだ僕を掴んでいるソラさんにからかわれる。
「照れてないですよっ!」
実際照れてはいるが男として認めたくない、アサギさんにバレるのが何だか恥ずかしくて。やめてくださいー!と彼の手を弾こうとするが、構わず続けられる。
「どした?照れてるのか?」
「照れてるの?」
「??」
アサギさんとチグサに顔を覗かれる、ついでにニグルムくんにも。3人に見られると、自分で自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
「違いますっ!」
僕は両手を大きく振って誤魔化した。
それを見てソラさんを含め、4人は笑っている、僕はむーっと膨れていたけど、あまりに4人が笑い続けるもんだから気づけば自分も笑っていた。
《ーー航空機緊急着陸用意ーー》
基地放送と共にサイレンが鳴り響く。
「え?」
場は静まり返る、僕達は状況を読み込めずに辺りを見回すと、整備員たちはドタバタと走り出し、車庫に収められていた消防車、救難車が次々に滑走路横へと並んでいく。
その放送が何故掛かったのか、すぐに分かった。
轟音と共に彼女達が帰ってきた、先頭に漆黒のF-15、続いて緑のF-4が2機、さらにやや遅れて漆黒F-15、しかし、最後尾の機体のエンジン付近から黒い煙が漏れていた。
「あれは・・・、ルリの機体だな・・・、降りてこれるか?」
「え・・・?」
どこから持ってきたのだろうか、双眼鏡を覗くアサギさん、機体番号がルリさんのものだったようだ。僕は気づけばアサギさんの腕を握っている。
「心配するな、あいつは私より上手い」
とは言うものの、かなりフラフラと飛んでいる、心配で見てられない。ソラさんはニグルムくんを前に抱えて彼の目を隠そうとしているが、ニグルムくんはその手をどけてルリさんの機体をじっと見つめている。
いくら彼女がグレイニアいちのエースだと言っても、どう見てもただの幼女(年上)だし、何をするにもいちいち可愛いルリさん、心配するなと言われても心配しかできない。
「大丈夫だ、車輪は出てる」
何がどう大丈夫と言うのか。ダメだ、ムリ!見てられない!チグサも手を合わせて祈るように空を見上げている。
先に無事の3機が降りてきて、早々と駐機場に機体を停め、コックピットからそれぞれ降りてくる。
「アヤメ!何があった?」
「ごめんなさい、油断したわ・・・。大丈夫かしら、あの子・・・」
油断?一体何があったのだろうか。アヤメさんもアサギさんの隣で心配そうに空を見上げる。
ルリさんの機体がゆっくりと降りてきた、機体は斜めになって飛んでいて、ちゃんと着陸出来るだろうが、ドキドキしながら見守る。
そして、片輪を先に地面に付け勢いそのままに着陸、荒く機体は揺れていたが滑走路の中程にきてようやく止まった。
消防車がすぐに機体のそばにつけ、地上救難員が降りてきたと思うと、すぐにキャノピーが開いて小柄なルリさんをヒョイッと持ち上げて助け出していた。なんという早業。
ルリさんがほかの車に乗って安全なこちらに運ばれてくる。その直後、エンジンがボンッと火を噴いて消火活動が始まる。泡に包まれて、白くなる漆黒のF-15、まさに間一髪というところか。
車が目の前に止まり、ルリさんはちょこんと車から降りてこちらに歩いてくる、よかった怪我とかはしていない様子。
「・・・・・・ごめん、油断し・・・っ!」
彼女が言い切る前に、僕は思わず抱き抱えていた。
「怪我してないですか?」
「・・・・・・う、うん」
「どこも痛くないですか?」
「・・・・・・大丈夫」
ほんの10センチ20センチ先にあるルリさんの、ジトっとして蒼い目と、可愛らしい鼻に、小さな唇、出撃前と何も変わらい彼女に安心して、強く抱き締めていた。
「よかった、もー、心配したじゃないですか」
ルリさんは無事だ、安心して少し笑った変な声でそう言っていた。
「・・・・・・ごめん、なさい」
また、一際強く彼女を抱きしめる、飛行服越しにも体温が伝わってきて暖かく、生きている事を実感させる。
「・・・・・・苦しい」
「あっ!すみません!」
我に返った僕はすぐに彼女を降ろす、ついつい、安心しきってしまって変なことをしてしまった・・・、恥ずかしい・・・。
「・・・・・・ありがとう」
ルリさんはニッと口角を上げてそう言い、アヤメさんの元へと走って行く。ちょっと、いろんな意味でドキッとしてしまったのは内緒だ。
「よかったね、無事で」
チグサに背中を小突かれて言われる、ちょっと声のトーンが低い気がする、機嫌悪い?なんで?
「・・・もし私がああなっても心配してくれる?」
「・・・え?何言ってんの?当たり前じゃん」
なに変なことを聞いてくるのか、不謹慎だよ!でも、あえて一言加えてやる。
「みんな大切な家族だからね」
「家族・・・」
チグサは感慨深いのか少し口を瞑る。
「レイが弟かぁ・・・」
「なんで弟なんだよ!」
顎に手をやって放ったチグサのボソッとした弟という声に、本能に従ってツッコミを入れる。しかし、彼女は、顔を赤くし目を丸くして「え?」と僕の方を見つめる。
「へ?」
チグサとの間に沈黙が走る。
えーとー、なんで顔を赤くしてるのかな?怒ってる訳じゃ、ないよね?んん?
訳が分からずにアワアワしていると。
「行くぞ」
アサギさんに呼ばれて声のする方を向くと、みんな隊舎に向かって歩き出している。あ、報告に行くのか。
僕とチグサは駆け足でみんなを追いかけた。




