第20話 ノースシュルツ強襲
ノースシュルツ上空。
既に戦闘は始まっていた。
開幕と同時に、アサギさんがレーダーアンテナの様なタワー型の建物に爆弾を投下。爆発倒壊を合図に、ヘリボーン部隊が基地に突入を開始。
《無人機はなるべく攻撃するな、管制室を探せ!》
第141特殊作戦大隊特殊部隊はヘリから降下すると、素早く付近の建物から順次制圧していく。
《こちらA2-1、D-B地点にて激しい抵抗を受けているっ!》
《了解だ、A2-1。B2-5を向かわせる、持ち堪えろ》
無線越しに、激しい銃撃戦による銃声が聞こえてくる。地上では、僕たちパイロットには想像できない、激しい戦闘が繰り広げられているようだ。
さて、次は僕達の番。
地上のコンテナから無人機が6機射出され、上空にいる僕達に襲いかからんとする。
《来たぞ、各機交戦許可。グレイ1交戦》
《了解!グレイ2、交戦!》
《ウィルコ、ブロッサム1、交戦!》
《ソード、交戦》
上空で待機していた僕達は、右端を飛んでいるソラさんを先頭に、右にロールし背面から降下、左端にいる僕はそれに最後尾で続く。後ろから見ると、実にそれっぽい光景だ。
僕とアサギさんは爆装のため、ソラさんとチグサがメインで空戦を戦う、があくまで予定、臨機応変にだ。アサギさんは主翼下にAAM8発、それと胴体下部に通常爆弾を4発、1発落としたから3発か。僕は主翼下にクラスター爆弾2発、胴体下部にAAMを4発積んでいる、戦えないことは無い。ちなみに、クラスター爆弾の用途は、無人機が鹵獲できなかった時の破壊用の予定。
先頭のソラさんがグルグルと回りながら、無人機の中に突っ込んでいく、考えがあるんだろうけど無茶な人だ。
《俺のケツについたヤツを落とせ!》
そう言うと襲いかかる無人機から発射されたミサイルを、フレアも使わずにヒラリと回避、素直に凄い。
そして、彼の思惑通りなのか、無人機3機がソラさんの後ろに引っ付いて上昇していく。
《続きます!》
距離的にはチグサの方が近かったが、出力を上げて僕がソラさんを追う無人機を追う。もう既に誰が制空担当なのか忘れていた。
3機続く最後尾に照準を合わせる。そして、射線にソラさんが被らないように僕は調節。追われている彼は、僕が狙いやすいように補足されないギリギリの旋回半径で宙を舞う、どうやったらそんな飛び方が出来るのだろうか、とても狙いやすかった、無人機を捉えると躊躇なく引き金を引く。
バラララララッ!
最後尾の無人機に命中、バランスを崩すと火を噴きながら落ちる。そのまま次の無人機に照準を合わせて、続けてバルカン砲を放つ。
バラバラに砕けながら、無人機2機は呆気なく落ちていく。
《グレイ2、ブレイク!》
ソラさんに言われるがまま、彼が旋回する反対方向に旋回し離脱すると、次見た瞬間にはソラさんはいつの間にか僕の後ろにいたはずの無人機の後ろに付いて、バルカン砲を浴びせていた。
ビ、ビ、ビ・・・。
おっとレーダー照射を受けている、だから散開させたのか。僕は回避行動をとるが、警報はすぐに聞こえなくなった。
振り向くと、後方で爆発が起こっており、無人機だった何かが、黒い煙とともに粉々になって散っている。
《どうよ?私のサポート》
《ありがとう!》
ドヤ顔をしている顔が容易に浮かぶ声で、チグサが後方から僕の隣にスっと機体を寄せる、彼女が落としてくれたみたいだ、僕は言葉短くお礼を言うと、すぐに左右に散開する。
アサギさんは!?
彼女を探し見つけると、ちょうどバルカン砲で無人機を落としていた、後ろから迫ろうとする無人機を、正面から腹面と腹面ですれ違ったソラさんがミサイルで落とし、クルクルと回って破片を躱している。
(カッコイイ・・・)
6機の無人機はものの数分で落ちる、僕達強くない!?
覚悟が違うだけでこんなにも違うものか、くよくよせずに早く覚悟を決めていればよかった。
周囲を確認し、再びフィンガー・フォーの隊形を作って、上空をゆっくりと旋回しながら地上の様子を伺う。
《A1-1この建物は制圧した、他を探せ》
《C2-2了解、おっと地下への階段を発見した、制圧に向かう》
《C2-3了解、そっちに行く》
特殊部隊が血眼になって無人機管制室を探している。
制圧その物は上手くいっているようで、時間の問題だろう。
《ん?あれは・・・》
右端を飛んでいるソラさんがなにか見つけた様だ。
《車両が接近している、地上部隊見えるか?道路を走ってるぞ》
《地上警戒班視認した、あー・・・装甲車だ、2両いる。空軍、支援爆撃要請》
《グレイ1、ウィルコ。私が行こう》
先頭のアサギさんが降下して編隊から離れていく、彼女が抱いている通常爆弾で十分破壊は可能だろう。
アサギさんが目標補足したのか、データリンクで共有されてレーダーに攻撃ポイントのマークが映る。彼女
は相変わらず仕事が早い。
そして、外さないように彼女は少し角度をつけて降下、走行車の大体の速度を計算して、少し前に爆弾を投下する。
ドンッ!バーンッ!
地上で大きな炎と砂埃が上がり、音速を超えた爆風で装甲車は吹き飛び、赤い炎と黒い煙がキノコ状になって地表付近を漂う。
《目標撃破、ナイスだ空軍!》
こんなことは朝飯前だと言わんばかりに、堂々とした感じでアサギさんは上空を旋回する僕達の先頭につく、マジでカッコイイ。
《ーー山頂レーダー目標探知、2機だ有人機と思われる、そちらから方位090、距離20キローー》
おいおい、レーダー施設から200キロ近く離れてるのに探知できるとか反則じゃない?まあ、気候条件にもよるらしいが。
《グレイ1とブロッサム1は地上部隊の支援を続ける。ソード、グレイ2を頼むぞ》
チグサは例のごとく30ミリガンポッドを持ってきている、爆弾を使うまでもない地上支援ならもってこいだ。僕のクラスター爆弾も使うとしたら最後、いっちょ空戦といこう。
《ソード、ウィルコ。よっしゃぁ、俺に続け!》
《グレイ2、了解!ソードに続きます!》
編隊の両端にいるソラさんと僕は同時に上昇し、編隊を離れてエレメントを形成する、ソラさんが1番機で、僕は2番機だ。
《様になってるじゃん》
《はい!》
ちょっと嬉しかった、僕の口は多分にやけていると思う。
レーダーに敵機のアイコンが表示され、その方向に機首を向ける。
《なぁ、レイ》
《なんです?》
《有人機はさっきみたいに甘くないぞ》
《わかってます!》
《それならOKだ、行くぞ》
僕達は出力全開、アフターバーナーをつけ敵機の迎撃に向かう。
敵機が見えてきた、正面が向き合った状態。
多分Su-27だろう。
2対2の空戦、作戦は無い、ほとんどソラさん頼みだ。だけど僕もやれることはやる、操縦桿を握る手に力が入る。
ビ、ビ、ビ・・・。
レーダー照射を受けている。しかし、慌てることは無い、敵は正面に見えている、レーダーを見ても他に反応はないし、目で見渡しても何かいる気配もない、正面の敵に集中だ。
距離がだんだん近くなり機影も大きくなってくる。
ビーーーー!
敵がミサイルを発射した、ソラさんは無言のままだ。
ミサイルが迫ってくる、ソラさんはまだ避けない、彼の声を聞き逃さないように集中する。
《ブレイク!》
ソラさんは左下へ、僕は右上に急旋回して回避。ミサイルはかすりもせずにどこかへ飛んでいく。
《っち、イーグルじゃ難しいか・・・》
ソラさんは何かをしようとしてできなかった様子、ハッキリとした舌打ちが聞こえてきた。何をしようとしたんだろうか、それに他の戦闘機の操縦経験があったのか?
しかし、そんな事を考えている場合では無い、敵機の後ろにつこうと旋回すると、目の前で敵機と交差する。暗灰色のSu-27で主翼に薄灰色の二つ星が一瞬だがハッキリ見えた、間違いなくローレタラティス機だ。
奴の後ろに付くために、すれ違った方に機体を回転させ操縦桿を思いっ切り引っ張る。だが、また目の前で交差する。座学で習った、完全に左右に位置が入れ替わり続けるシザース状態だ、強いGが体にかかり頭から血の気が引いていく。
しかし、僕より奴の方が前にいる、どうにかしたら後ろにつけると思うけど・・・。
ちょっと閃いた、僕はエンジンを吹かしたまま背面にあるエアブレーキを展開し、旋回すると見せかけてクルッと回りすぐにエアブレーキを元に戻す。
目の前に敵機が飛んでいた。
迷わずバルカン砲を発射。
バラララ、と銃弾が次々に目の前の敵機に当たりパーツが剥がれ、ボンッと火を噴いた。
僕は燃えながら落ちるパーツを、ソラさんみたいにクルッと避けながらその場から離脱。身を乗り出すように後ろを覗き込むと、その機体はもう一度、バーンと爆発し空中に黒い煙を漂わせて地表に落ちていく。
僕は何度も何度も、ガッツポーズを繰り返えした。
ソラさんの方を見ると、ちょうどキレッキレなコブラマニューバを決めて、ミサイルを発射、容赦なく撃墜していた。
他に敵機影無し、僕は大きく旋回してソラさんの斜め後ろにつく。
《よぉ、レイ!お前カッコイイよっ!》
《あ、ありがとうございます!》
嬉しかった、すごく嬉しかった。それはもう泣いてしまいそうだったけど、もう泣かないと僕は決めている。ただただ頬が緩み、ニヤケているように思えた。
《アサギさんの所に戻ろう》
《了解!》
旋回するソラさんを追い、作戦空域に僕達は戻る。
《C2-2、管制室を発見した、これより制圧する》
《A1-1、了解。取り掛かれ》
《C2-2、了解。よし、突入するぞ!》
空域に戻ると、今から最終段階と言った感じだ。無線の向こうで1回の大きな爆発音が響き、銃声が聞こえる。
ソラさんと僕は、上空を旋回するアサギさんの後ろにつく。
《お疲れ様。レイ、カッコよかったらしいじゃないか》
《私も見たかったー》
無線を聞いていたみたいだ、僕はちょっと恥ずかしい。
《いやぁ〜・・・》
ヘルメットで掻けない頭を掻いていると、地上部隊から慌ただしく通信が入る。
《C2-2、無人機の射出ボタンを押された!空軍、注意しろ》
特殊部隊の忠告と同時に、地上のコンテナから次々と無人機が射出される。全部出たんじゃないだろうか、小さな機体がキラキラと鱗のように光り、勢いそのまま僕達のいる上空に迫る。
《空軍!管制室を制圧し、無人機をハッキングする、持ち堪えてくれ!》
《早くしてくれ、数が多すぎる!》
特殊部隊を急かすアサギさん、彼女の言う通りすごい数だ。ミサイルも足りないし、銃弾の残弾も微妙。
《何機いる?俺は数えるの諦めたぞ》
《ざっと30機ですかねっ!》
《もっといるでしょ!》
ソラさんは冗談なのか本気なのか、そんな事を言う。数はだいたい40機いないぐらい、と言った所か、そんな大編隊が真っ直ぐこっちに向かってくる。
《破壊しとけば良かったか・・・。ソード行け、各機、ソードを援護しろ》
《はいはい!ソード、ウィルコ》
僕のクラスター爆弾でさっさと破壊しとけばよかったか?しかし、後の祭りだ。アサギさんの指示に編隊の右端を飛ぶソラさんが、旋回離脱。再び無人機に正面を向け合い、ミサイルを2発発射しながら突っ込んでいく。
それを少し遅れて僕達は追う。
(カッコイイって言われたけど、ソラさんの方が100倍カッコイイよ・・・)
無人機の大編隊の中に単機で切り込んで、放ったミサイルによる爆発の中、編隊を乱して通り過ぎ、半数近くを自分に引き付けて上昇して行くソラさん。チグサと僕でそれを追う。




