第18話 二面作戦へ
7月2日、朝、ブリーフィングルーム。
アーノル大佐から次回作戦の概要を聞くために、僕達はここに集まっていた。スペクター隊の4人は、まだ来ていない。
僕とアサギさんは、最前列の真ん中に座っている。
「次の作戦ってグリゴリの奪還ですよね?市街地戦闘って僕達、戦闘機の出番ってあるんですかね?」
話によると、グリゴリでは陸軍による対ゲリラ戦が行われているらしい、あそこはアルサーレ程ではないがそれなりに大きな街だ。前線基地トモパーレから敗走した、ローレタラティス軍に逃げ込まれて、そこに住んでいた人々を盾に使われ、思うように作戦を進められていないと聞く。
酷い話しだ、どうやって作戦を遂行するのだろうか。
「まあな、対地攻撃は基本的にコブラがやるだろうが、RPGかスティンガーで何機か落とされたらしいし、戦闘機の火力でドッカンといきたいんじゃないのか?ビルの攻撃とかヘリじゃ厳しいだろ」
ドカンとやって大丈夫なのか?大佐が来るまでアサギさんと、どんな話がされるのか予想する、ここの会話も「らしい」ばっかりだったけど、大佐が来るまで正確な情報は分からない。
「というか、レイ、制空って大事な任務があるだろ」
「あ、そうですね。いてっ」
頭をコツンと小突かれる。
制空かぁ、足でまといにならないといいけど。なんだかんだみんな気にかけてくれて、危ない時は助けてくれる。申し訳ないし、少し不安だ。
ブリーフィングルームのドアが開く、強面大柄なラナーさんが大股でドスドスと入ってくる、それにチャラチャラフワフワと続くナナリスに、全くの無表情のミルアとソロア。
「あ、ガキンチョ、おはよー!」
「おはよぅ・・・って、ガキじゃねぇっての!」
一瞬普通に返事してしまったけど、僕は唾を散らしながら否定する。ナナリスと目が合うと彼女はふわぁっと踊るように、目の前に来て満面の笑顔でそう言われた、煽ってんのか?
むーっ!と膨れると、彼女は悪そうに二ヒヒっと笑ってラナーさん達と一緒に部屋の端っこの席に座った。なんだなんだ?悪気がないなら尚更タチが悪いぞ?
僕は機嫌悪く腕を組み、眉間にシワを寄せてムスッとしていると、隣からクスクスと笑いを堪えているようで堪え切れていない、そんな声が聞こえてきた。
アサギさんの反対、僕の左、その席を見ると、チグサが涙目で口を抑えていた。こんにゃろー・・・。
苛立ちの眼差しで、彼女を凝視してやる。
「ごめん、我慢できなくて・・・」
プププッと、まだ笑いながら言うチグサ、どこがそんなにツボなのやら、失礼にも程がある。
「気にするな」
と、アサギさんに優しく宥められる、それでもまだ肩を震わすチグサ。僕はプイッと目を逸らし、気にするのをやめて大佐を待った。
待つこと数分。
「待たせたわね」と短く言いながら、アーノル大佐がブリーフィングルームに入ってきた。手には色々と書類のような物を持っている。
「改めて、スペクター隊の4人。ようこそ、自由グレイニア解放空軍アルサーレ空軍基地に」
大佐の歓迎の声に、ドカッとイスにもたれるラナーさんは腕を組み、顔を顰めたまま動じず。ナナリスは金髪の長い方の前髪を、特に興味無さそうにクルクルと弄り。ミルアとソロアだけが全くの同じ動きで、小さくお辞儀をする。
(なんだよ、あいつら・・・)
ホント、感じの悪いパイロットだ。RIOの双子は表情無いけど、まともそうな人なのに。
「さて、次の作戦の概要よ」
大佐が大型モニターのスイッチを付けて、ノートパソコンの前に立ち、作戦概要を保存してあるであろうフォルダをクリックし、それを画面全体に表示する。
『グリゴリ奪還作戦・ノースシュルツ強襲作戦』
でかでかとモニターに映し出される作戦名。
次は二方面作戦か・・・。
「グリゴリに関しては主任務は制空権の確保及び、陸軍への火力支援になるわ。問題はノースシュルツ強襲」
大佐は説明しながら次々にスライドを動かしていく。
グリゴリ奪還作戦の概要は、大して難しい話ではない。
下山しトモパーレを奪還したばかりの解放陸軍第1機甲師団が、隣街のグリゴリ前まで前進、第1戦車大隊第1部隊と第11重歩兵大隊、第31装甲車大隊が市街地に進行。各個抵抗する目標を撃破しつつ、先行して偵察している第101空挺偵察大隊所属のチームを回収、重要目標に空爆を行うと言う手筈だ。そして、何かしらの問題が発生したら、バルセルの援軍部隊に加勢してもらう。
問題は大佐の言うように、ノースシュルツ。
ここからだいたい北東に直前で250キロほど離れた、以前は小さな街だった。そこがエルゲート偵察衛星の情報によると、街の外れに未舗装の小さな滑走路が作られ、何やら大量の物資コンテナが置かれているらしい。
「無人機発着場と見ているわ。昨日、ソラ大尉達とラナー大尉達が迎撃した無人機の飛来方向からして、そこから発射されたと見ていいわね」
スライドに基地の衛星写真が表示される。戦闘機がギリギリ離着陸出来るであろう長さの滑走路の横に、黒っぽいコンテナの様なものが多数置かれていている。次のスライドには、コンテナを積んだトラックが、何台か行き来しているような写真もある。早めにバルセルの山頂レーダーが使えるようになっていて良かった、もしこの前の大編隊が探知できていなかったと思うと悪寒がする。
しかし、肝心の無人機射出機や、無人機その物が見当たらない、確証が持てなかったそうだ。
そして早速、今日の深夜、バルセルの無人偵察機を発射させノースシュルツの偵察を強行。偵察機は貴重な情報をバッチリ撮っていた、望遠赤外線カメラで捉えたのは、コンテナの蓋がガバッと開き射出される無人機。偵察機はその後すぐに迎撃されたが、その情報だけで十分だ。
「さっきの動画を見る通り、可能性と言うよりほぼ確定ね。ここから次々と無人機による攻撃を受けるわけにはいかないわ。それに、私たちに基地の存在がバレたと知られたでしょうから、早く攻撃に移さないとね」
そこで、第1空挺旅団第141特殊作戦大隊と合同でこの基地を強襲破壊又は占拠、可能であればある程度の無人機を鹵獲するとの事。戦闘機の役目は、道中のへリボーン部隊の護衛と指定された目標への空爆だ。
「各方面に参加する隊は・・・」
大佐が資料をペラペラと捲り、名簿のページを開く。僕はどこに行けばいいのだろうか、合格発表のように緊張し、生唾をゴクリと飲んでそれを待つ。
『グリゴリ奪還作戦支援飛行小隊』
「グラム隊」
アヤメ・シエル大尉
ルリ中尉
「スペクター隊」
ラナー・ロベルト大尉
ミルア・レニア中尉
ナナリス・シュツット中尉
ソロア・レニア中尉
『ノースシュルツ強襲作戦支援飛行小隊』
「グレイ隊」
アサギ・セレステ大尉
レイ・アスール少尉
「ブロッサム1」
チグサ・カエルラ少尉
「ソード」
ソラ・アオイ特務大尉
自分が思うのもなんだけど、無難な選択だろう。アヤメさんたちは、ラナーさん達と面識があり数ヶ月訓練を共にしているし、グリゴリは大規模な戦闘が予想される。グレイニアのアグレッサー、彼女達エースが赴く戦場には持ってこいだ。
僕の行くノースシュルツも、ソラさんがチグサが、そしてアサギさんもいる、大丈夫だ。
出撃時刻は12時30分、作戦は13時に同時に発動される。
待機室。
ここは元パイロット当直室だ、家に帰れない僕達や、スペクター隊が増えたことにより部屋の配置が変わった。
ソラさんたちの部屋だった隣の部屋に、ベッドを移して、計7床のベッド。さらに向かい側の部屋を整理し、4床のベッドを用意してスペクター隊の部屋にした。そして、当直室を待機室兼団欒場所として、使ってないソファーや、椅子をかき集めていた。
今は、四角く囲うように置かれた2.5人掛けのソファー4つの内3つに、僕、ソラさん、の間にニグルムくん。左前にチグサ、アサギさん。右前にミルアとソロア。他、ルリさん達は窓際の椅子でテーブルを使って何か話していた。
「あーるあいおー?って何する人なんですか?」
僕とソラさんの間にちょこんと座るニグルムくんが、ミルアとソロアに興味津々に聞いていた。
この部屋に来て、初めてニグルムくんを見たバルセルの4人からは。
「なんで子供がいるんだよ」
「ガキンチョ2号!」
「「可愛い・・・」」
ラナーさんには、ちょっと嫌そうな感じで言われた、ソラさんが慌てて事情を説明するが。
「傭兵に子供、ここはどーなってんだ」
嫌味たっぷりに言われていた、色々訳ありでね!とソラさんは笑い飛ばしいたが、よくあんなこと言われて平然としていられる、僕にはよく分からない。
そして、ニグルムくんの言ったRIOの質問に、メガネっ娘のミルアが少し前かがみになって答える。
「レーダー技術士官と言って、簡単に言うと、レーダーの操作と敵機の補足、ですかね」
不器用にニコッと笑ってニグルムくんに言う彼女。普段笑わないのかな、目が引き攣っている。
「でも、ソラたちのイーグルは1人で乗ってますよね?」
子供らしい何故なぜ攻撃、それにはソロアが答える。
「ファントムは古いからね、1人じゃ全部出来ないんだよ」
コーヒーをすすりながら言う彼、ニグルムくんは大きく頷いている。
「へぇー」
ミルアとソロアは、パイロットの2人と比べると意外といい人そうだ、次々にくるニグルムくんの質問に、簡単に分かりやすく答えてくれていた。僕もF-4を見るのは初めてなので色々と勉強になる、一緒になって聴き入る。
「じゃー、ソラたちは1人で全部やってるから、すごいんですか?」
まあ、機械の助けがあるから1人でできる訳なんだけど、本当の事を言っても夢がないしなぁ。なんと言ったものか。
「ええ、ソラさん達は凄いですよ」
気を利かせてくれたのか、ミルアがまたぎこちなく笑いながら言ってくれる。うん、ちょっと表情がぎこちないのが怖いけど、この人はいい人だ。
「すごい!」
その言葉にニグルムくんは、目をキラキラさせながら僕達を見上げている。ヤバい!ピュア過ぎて少年の目を見てられない!
その尊敬の眼差しに、ソラさんは微笑みながら少年の頭を撫でていた。
「何が凄いだ・・・」
少しイラついたような低い声が部屋に響く、ラナーさんだ。
「ちょっとぉ、ガキンチョ2号相手に言ってるんだからぁ、いいじゃなぁい」
ナナリスがそんな彼にまあまあ、と言って宥めてくれてくれているが、彼の嫌味ったらしい口は閉じることなく続く。
「国ひとつ守れない奴らなんて、すごかねーよ!」
部屋に静寂が走る。
「それはぁ言っちゃダメでしょ」
彼女があーあ、と引いた目をして怒ってくれていたが、もう遅かった。
「なんだよ」
僕は気がついたら、横暴で上から目線で嫌味ったらしいの彼の前に立っていた。
「取り消してください」
「あ?事実だろ」
握った拳に力が入る、別に殴りたい訳じゃない。
「ちょっとぉ、喧嘩はダメだってぇ」
ナナリスさんが軽く甘い声を慌てさせ、彼を止めようとしてくれている、口は悪いが案外いい奴なのかも。しかし、僕は止まらない。
「取り消してくださいっ!」
「おいおい、弱いのにプライドだけは1人前だな」
彼の煽りに、頭の中でプチッと音がした。
「みんな平和に暮らしてたのにっ!突然戦争に巻き込まれて、国を奪われて、親も奪われて、兄弟も奪われて、みんな奪われた!でも、生き残った人達はみんなの為に生きて・・・、死んだ人達の為に必死に生きてるんだ!僕だって下手かもしれないけど、必死に戦ってる、みんなを守りたいから、平和に暮らしたいから。さっき来た他の国の軍人にバカにされたくない・・・。嫌なら・・・嫌なら帰ってもらって結構です!・・・・・・僕達の国は僕達で取り返す」
声は震え、脚は震え、息は荒くなり、心拍数も上がっている。
僕はここにいるのが嫌になって、部屋を飛び出した。




