第17話 愛情
アルサーレ空軍基地に帰投した。
最後の輸送機の離陸が終わり、全員着陸するとアサギさん達に心配されたが今回も何とか無事、それに1機撃墜した、成長していると思いたい。いや、してないな、助けられてばっかりだ。
「ソラさん!」
「ん、どした?」
謝っとかないと、また下手な飛び方してたし、バルセルのスペクター隊が来てなかったら、やられていたかもしれない。
「すみませんでした」
「んー?あー、次、頑張ろうな」
彼はニッと笑って僕の頭をガシガシと撫でる。
「ちょっと!」
慌てて髪の毛を押さえると、さらにソラさんは笑う、それにつられて僕も頬が緩んだ。なんでここの人はこんなに優しく、長い目で僕を見てくれるのだろうか、僕はただの足でまといなのに。
すると、緑の機体色、先程のF-4が滑走路に降りてきた。
垂直尾翼には骸骨が妖気を纏って宙を舞っているかのようなエンブレム、彼らの部隊マークか、趣味が悪い。
どんな人が乗っているのだろう、僕の周りにみんなが集まってくる。
駐機場、僕の機体の横に2機は並んで停止して、キャノピーが開く。F-4は複座戦闘機、中はからは2人づつ降りてきた。
その4人は少し、辺りをキョロキョロして、僕達を見つけるやいなや、こっちに向かって歩いてくる。僕は何だか嫌な予感がしてアヤメさんの後ろにスっと隠れた。アサギさんは自己紹介とかするだろうし、体格の同じで、僕より背の高いアヤメさんが最善との判断だ。
「バルセル空軍第9飛行隊スペクター隊1番機パイロットのラナー・ロベルトだ。ここのリーダーは?」
角刈り強面で、どこぞやの大工の棟梁と言った感じのラナーという人、見た目は30歳前半と言ったところかな。この人が偉そうに喋って、ソラさんを無視していた人だろう。
「リーダーというか、戦闘機隊の隊長は私だ」
アサギさんが1歩前に出る。
彼女なら大丈夫、めっちゃ怖いし、負けず劣らず対等に話し合えるだろう。
「ああ、バルセルから命により援軍に来てやった、スペクター隊だ、こいつらは・・・」
あくまで命令で来たと強調するラナーという人、しかも、「来てやった」なんて抜かしてやがる、やっぱり好きになれそうにない。次に、後ろに並ぶ人が紹介する。
「スペクター隊1番機RIOのミルア・レニアです」
「スペクター隊2番機RIO、ソロア・レニアです」
RIO?あ、レーダー技術士官か。めちゃくちゃそっくりな2人の男女は言葉ほぼ同じく言う、双子かな?ちなみに、ミルアの方が女性で、ソロアの方が声が低かったから男性だ、多分。それとミルアさんの方がメガネを掛けているから見間違う事はなさそう。
何だか物静かな2人は髪型は一緒でやや赤毛のラフショート、体格もチグサや僕とほぼ同じ、しかし、表情は無くロボットみたいに感じられた。
あともう1つ見分けれそうなところが、2人ともオッドアイでミルアは右目が緑眼、左目が青眼。ソロアは右目が青眼、左目が緑眼だ。なんだかとても惹き付けられる魅惑的な目、覚えられるかな?
「2番機パイロットのぉ、ナナリス・シュツットよぉ。ナナでよろしくぅー!」
甘ったるく語尾を伸ばして何だか抜けた、例えるならギャルぽい喋り方で言う彼女。さっき空で《無策過ぎ》と言っていた人だ、この人も好きになれそうにない。
声もギャルっぽかったけど様相もそうだ、顔はまあ、それなりに目もパッチリして可愛い感じだったけど、チグサよりも明るい金色のセミショートヘアは耳の上は刈り上げられ所謂ツーブロックで、トップはアシンメトリーで片側がやけに長がいし、耳や下唇にはピアスをしていた。偏見かもしれないが、こんなやつがパイロット・・・、信じられない・・・。
「下手っぴなぁ、イーグルのパイロットはぁ?」
下手っぴ!間違いなく僕の事を言っている、アヤメさんの後ろにスススっと目に止まらないように僕は隠れる。見つかったらなんと言われることやら・・・。
ソラさんが恐る恐る手を挙げている。いや、ソラさん冗談でも下手じゃないから。
「んー、君じゃないでしょ」
速攻見破られていた。雰囲気からして強者のオーラを放っているソラさん、見た目は可愛いのにそれはそれは反則だった。違うと言われた彼は、ハハハ、と笑っている。
「あっ!」
ちらっと覗くと彼女と目が合う、ヤバいバレた!ナナリスに、アヤメさんの後ろに隠れる僕は、彼女に覗き込まれた。何だか、蔑んだ目をされる。
「って、ガキンチョじゃん」
「ガキじゃねぇーし!」
アヤメさんの後ろから飛び出して、声大きく威嚇する。確かに背もそんなに高くないし、子供っぽいとかよく言われるけど、こんな生意気なギャル女に、舐められたくないし、言われたくもない。
「えぇ、歳はぁ?」
「20です!」
「ガキンチョじゃん」
「ちがーーーーう!」
お前とは大して変わらないはずた、僕は両腕をブンブン振り全力で否定する。
「でもぉ、下手じゃん?」
「うっ・・・・・・」
さすがに、それは否定できなかった。ブンブン振っていた腕を、ぶらーんと垂らし下を向いて立ち尽くす。
「よくそんなのでパイロット出来るよねぇ。てか、よく死ななかったね?てかてか、こんなのが飛ばないといけないってヤバくなーい?」
「・・・・・・」
何も反論できない自分が腹立たしかった、俯き唇を噛み締めて、ナナリスの嫌味を聞くことしか出来ない。
「・・・・・・レイを、いじめないで。ナナ」
「・・・え?」
いつの間にか、目の前にルリさんが立っていた、自分より背の高いナナリスを、眼光鋭く見上げている。
しかし、ルリさんは彼女をナナと呼んでいた、知り合い?そうだ、この前までバルセルに訓練に行っていた、その時に会っていたのだろうか。
「・・・・・・レイはよくやってる、いじめないで」
ルリさんは僕を擁護してくれる。会ったばっかりのギャル女に本当のことをズバズバ言われる、ルリさんはそんな僕を彼女から助けてくれる、申し訳なくて泣きそうだった、こんな弱い僕を・・・。
「んー、ルリが言うなら・・・。ごめんね、ガキンチョ!」
「ちょっ!」
ナナリスの謝罪は軽く甘ったるいもので、全然気持ちはこもってなかった、まだ、ガキンチョって言ってくるし・・・。しかし、彼女は僕の頭を皆と同じようにガシガシと手荒く撫で、二ヒヒと悪そうに笑いながら、ピアスをキラッと光らせて僕の側から離れていく、僕はボサボサの頭でその背中を見ていた。だからなんで、みんな頭を触るのさ!
そして、アサギさんが4人を連れて隊舎へと行ってしまった、アーノル大佐に挨拶に行くと。
それを見送り、僕達はいつものベンチに座っている、真ん中にチグサ、左右に僕とソラさん、僕の膝の上に相変わらずルリさん、どこからか箱を持ってきて僕の隣に座るアヤメさん。
目の前ではバルセル陸軍の荷降ろしが終わり、各隊の移動準備が行われている。
「なんかすいませんでした、ルリさん」
僕の膝の上に座るルリさんが、チラッと僕の顔を見るとすぐに前を向いてしまう。
「・・・・・・レイは、よくやってる」
それに続き。
「そうそう、頑張ってるよ!」
「頑張ってると思うわ」
「危なっかしいけどな」
ルリさんとチグサ、アヤメさんは僕を励ましてくれる、ソラさんにはちょっと弄られたけど、嬉しかった。
「でもさー!」
チグサがバッと立ち上がる。
「あのー、ナナリスって人?初対面の人に無礼過ぎない?しかも、レイをガキンチョって・・・」
そう言うとチグサは僕の方を見て、プププッと笑いをこらい切れずに吹き出しそうになっている。
「なんで笑うんだよっ!」
「だって・・・」
まだ、笑うか!本当、ナナリスといいチグサといい、失礼なやつだ。
「まあでも、初対面のルリさんにも下手くそって言われたけどね」
ちょっとずり落ちそうだったルリさんを抱え直して、少し前に言われた事を思い出して言う。そう、アヤメさんとルリさんが帰ってきて、僕がチグサと模擬戦をしてコテンパンにやられたのを、たまたま見られた日の事だ。
「・・・・・・」
「いでででででっ!」
無言で内太ももを抓られた、あまりの痛さにルリさんを投げ飛ばしそうになってしまう。
「ルリさん、痛いって!」
涙目で訴えるが、膝の上の彼女は、またチラッと僕を見るとプイッとそっぽを向いてしまった。
「・・・・・・うるさい」
なんで怒ってんの?どっか不機嫌になる要素あった?どうしようと悩んでいると。隣の箱に座るアヤメさんが、ルリさんに一言。
「ほんと、レイのこと好きなのね」
しばしの静寂、アヤメさんはニコニコと笑い、チグサは笑っているが笑っていない、静かに元の僕の隣に座る、前を向くルリさんの顔は伺えない。えぇっとー・・・。
すると、また、内ももに激痛が走る。
「いって!!なんで抓るんですか!?」
「・・・・・・別に」
「膝に座らせませんよ」
「・・・・・・ヤダッ」
ヤダ、だけすごくハッキリ聞こえた、彼女はここは動かないぞ、と言わんばかり僕のズボンの布をギュッと握る。どんだけここを気に入ってるんだよ・・・。まあ、可愛いからいっか。僕はルリさんを少し抱き寄せる、彼女の背中から体温が伝わってきて、暖かくて落ち着く。
「ところでルリさん、アヤメさん?」
「・・・・・・?」
「何かしら?」
さっきから弄られっぱなしで、なかなか聞けなかったことを2人に聞いてみる、スペクター隊についてだ。聞くと、やっぱりバルセルで訓練をしていた時、一緒に飛んでいたらしい。
「あー、根はいい人達なんだけどねぇ、格下には容赦ないのよ」
「・・・・・・私たちは、強いから」
俺は格下だから舐められている、直訳すればそんな感じだ。悲しい!泣きたい!
「じゃー、舐められないように、もっと早く強くなんないとな!」
ソラさんがチグサ越しに、僕の肩を叩いてくる。
そろそろ、皆に心配かけないようにしたいし。あんな、生意気なギャル女に舐められてたまるものか、ルリさんを抱く手に力が入る。
「・・・・・・苦しい」
「わっ!すいません!」
思ったより力が入ってしまったみたいだ、慌てて抱いている手を離して、両手をベンチに置く。
「あらあら、相思相愛ね」
アヤメさんがこちらを見て、ニコニコと笑っている。悪気はないのだろうけど、回答に困る話をふらないでほしい。別にルリさんが嫌いとかでは無い、僕はみんなの事が好きだからだ。
「・・・・・・うるさい」
小さな声でボソッというルリさん、彼女は恥ずかしいのか僕の方を向いてくれずに、僕の足を大きく跨ぎ、僕の膝に両手をついて、前のめりになって輸送機の様子を見ていた。
こらこら、いくら飛行服着てるからって女の子なんだからそんな股開いちゃダメだよ。なーんて言うとまた内ももを抓られるに決まっている、変なことを言うのはよそう。
ひた・・・。
僕のベンチについた右手に、何か暖かいものが触れる。
ん?と見るとチグサの掌が僕の右手を覆っていた。少し近づいてきていて、他の人に見えないように、さりげなく触っている。少し汗ばんだ、彼女の手のひらが暖かい。
どうしたんだろう?ソラさんに話しかけられて、えらく喜んでいたから、てっきりそうなのだと思っていたけど・・・。
チグサの顔を伺おうにも、彼女も車両の方を真っ直ぐ向いていて、こっちをチラリとも見てくれない。
変なの。
僕は気にするのをやめて、一緒に整列し綺麗に並んび移動準備を続ける車両達を眺めていた。




