第12-3話
考えている間にも安全な空間が狭まっていく。
とりあえず攻撃してみるしかない。
近づけば飲み込まれるので剣を投げつけようかと思ったがそれは最後の手段だ。効果がなかった場合に武器を失うのは痛い。
となると、このウサギ達を投げ込んで――。
いや、だめだ。逆に俺が投げられる未来しか見えない。
他に投げれそうな物は、と探っていると洞窟に入る直前にハーディからもらった石を見つける。
効果があるかはわからないが破れかぶれになった俺はその石をおもいっきりスライムの壁に投げつけた。すると、
パーン!
石がスライムに当たった瞬間そこがはじけ飛んだ。
俺の剛速球のおかげか、と頭を過ったがその可能性は低いだろう。なにせ山なりに放られたのだから。
何故かはわからないがあの石がもっとたくさんあればここを切り抜けられそうだ。
「ハーディ、さっき集めた石を全部出して!」
「なんで?」
「こいつらに投げつけて倒すんだ! お願い!」
「えー、やだー」
まさかの拒否にコケそうになってしまう。
「な、なんで」
「だってせっかく集めたのに」
なんて単純な理由なのだろうか。しかしこの状況を打破するには説得するしかない。
「外に出たら俺も一緒に集めるからさ。ほ、ほら、石投げ大会しよう! 石をこいつらにぶつけたら爆発して楽しいよ」
子供を釣るにはより楽しいことを与えるしかない、というのは親戚の子供の世話で学んだことだ。
「うーん」
「いいんじゃね。俺も石投げたいしハーディもやろぜ」
ナイスアシストだガーディ!
「仕方ないなあ。あとで一緒に集めてね」
ハーディがそう言うや否や、手をかざした床に、小山をつくるほどの石が現れた。どれだけ集めていたんだ、と呆れそうになるほどだが今はありがたい。異空間とやらに溜め込んでいたらしいが、このウサギ達のすることだし深くは考えないでおこう。
俺はすぐに石をひとつ拾い上げてスライムに投げつけた。先ほどと同じようにはじけ飛ぶ。
「よーし、俺達もやろうぜ」
「うん!」
それを見た二人も石を投げ始めた。スライムの群れで作られた壁は少しずつ瓦解する。
「あはは、楽しいね」
「俺が一気に吹き飛ばしてやるぜ!」
ガーディが振りかぶって投げた石は昨日の枕投げを彷彿させる勢いでスライムに襲いかかった。そして言葉通りいっぺんにスライム達を吹き飛ばしてしまった。
「あっ、私もやるー」
ハーディも石をものすごい速さで投げた。面白いようにスライム達が破裂音を残して崩れ去っていく。もう俺はなにもしなくて良さそうだ。
山積みになっていた石がなくなるとスライム達も姿を消していた。その代わり床がその死骸と言っていいのか、大量の粘液でベトベトである。これに飲まれようとしていたのかと思うとゾッとしてしまう。
「リュート君達じゃないか! 無事かい?」
そこへハルバさんが兵士をつれてやってきた。皆粘液でヌラヌラとしている。
「破裂音がたくさん聞こえたから駆けつけたんだ。三人の仕業だったんだね」
「はい、囲まれてしまったんですがこの石を使って倒すことができました」
俺は残っていた石をひとつハルバさんに手渡した。
「ふむ、魔鉱石の一種だね。ここの鉱山でよく採れるものだよ」
「へえ、俺の世界では聞いたことない鉱石ですね」
「俺達もまだ研究段階で詳しいことはわかっていないんだけどね。それよりリュート君、昨日に続いてだからわかっていると思うけど」
「……はい、また勝手に行動してすみませんでした」
すぐにまた同じ過ちを犯してしまい、俺は素直に反省の弁を述べた。昨日以上に怒られることも覚悟であった。
「ちゃんと理解してくれているみたいだね。まあ、これだけの戦果も出してくれたのだし、今回は不問だ。よくやってくれたね。でも次こそ気をつけてくれよ」
「――はい、気をつけます」
あまり怒られなかった。それどころか褒められてしまった。本気でもうハルバさんには心配を掛けないようにしようと心に誓う。
「じゃあ引き上げようか。もうこれだけ倒せば大丈夫だろう」
「はい」
ハルバさんが撤収の指示を出す。今度こそはぐれないように先頭のハルバさんの後ろについて行こう。
「ねえねえ、リュート。石はー?」
「あっ、そうか」
ハーディと石を集めると約束したんだった。
「どうしたんだい?」
「実は外に出たらさっきの石をもう一度集めるってハーディと約束してまして。なのでハルバさん達は先に戻っていてください」
それを聞いてハルバさんは少し困ったような顔をする。
「そうなのか。でもこの辺りは結構危険な地区でもあるんだ。魔物がたくさん出るから町を強固な城壁で囲わなければいけないほどにね。だから三人だけで残るのは許可できない」
「そうなんですね……。ごめん、ハーディ。町に帰ったらデザートでも食べさせてあげるから――」
「えー、やだやだ! 石が欲しいのー!」
ハーディが駄々をこねだしてしまい、ハルバさんがさらに困った表情に変わる。俺はそれを見て申し訳なさしかなかった。
「んー、じゃあ特別だよ。リュート君には転移能力とやらがあるしね。危なくなったらそれで逃げてくること。いいね?」
「わかりました。ありがとうございます」
「ハーディちゃんもわかったかな?」
「わかったー」
「ガーディ君も二人を頼むよ」
「あいよー」
ハルバさんは子供の扱いも上手いようだ。ウサギ達には俺にも素直であってもらいたい。
無事に洞窟から抜け出すとハルバさん達を見送って石探しを始めた。
しかしこれがなかなか見つからない。
「おっ、またあったぞ」
「わーい、そこに置いておいて」
ウサギ達は次々に見つけてスライム退治に使った分ほど集めていた。
「リュートー、ちゃんと探してるのー?」
「う、うん、探しているんだけど見つからなくて……」
「リュートはどんくさいからなあ。またみっけ」
見つからないこととどんくさいことに関係はあるのだろうか。というより俺はどんくさくない――、はずだ。
しかし、結局俺はひとつも見つけることができず、ウサギの姿に戻った二羽になじられながら岐路に着くことになった。
そこまで言わなくていいのに、と思ってしまうほどの悪口を散々言われしょぼくれていると、町までもう少しといった所でうずくまる人影を発見する。
「キミ、大丈夫?」
それは俺の世界で言えば小学生低学年ぐらいの男の子であった。俺に気づいた男の子が顔を上げるとその頬には涙が流れていた。
「うえええん……。ぐすっ……」
「お父さんとはぐれたの?」
「うん……」
しゃくり上げる男の子に優しく訊ねると弱々しく頷いた。
「そっか。じゃあ一緒に町に帰ろう。歩ける?」
「うん……」
お父さんも探しているだろうけど、まずはこの子の安全を考えて連れて帰ることにした。手を繋いであげ、改めて岐路に着いた。
町の入口となる城門には人の長い列ができていた。町に入るための検閲待ちの列である。
俺達はその列の横を通って城門の兵士に軽く挨拶をして町に入った。国の兵士ということで顔パスである。なんか得した気分になるなあ。
さて、男の子を家まで送ろうと思ったのだが、
「ありがとうお兄ちゃん! もうあとはひとりで帰れるよ」
男の子は俺の手を離してそう言うと雑踏の中へ駆けて行ってしまった。
本当に大丈夫だろうか。まあ町に入ったのだし危険はないだろう。
俺はその足で男の子を外で見つけたことを役所に連絡した。男の子の特徴も伝えたからこれで大事にはならないはずだ。必死に捜索しているであろうお父さんにも伝わると思われる。
ハルバさん達とはぐれてしまうという失敗もしたが、魔物退治や子供を助ける仕事もした。トータルとしてはプラスということにしておこう。
少しいい気分になりながら一度兵舎に戻り、もう乾いてしまっているがスライムの粘液を落とすためにウサギ達と三人で銭湯に向かった。




