第10-1話 兵士の仕事をしよう
様々な声をした小鳥達のコーラスと、茶色い道の両脇にある緑の葉をたくさん付けた木々が風に吹かれてメロディを奏でる。そんな自然の楽曲に割って入るように、ガラガラといくつものタイヤの音が鳴り響く。
時刻は昼頃だろうか。見上げると、青と白が織り成す空の中で太陽が俺達を照らしている。
太陽から見れば緑で染まる山の中、茶色い線の上に空よりも濃い青が数十の点々となって連なっているのだろう。あと、馬車についてる幌の白もいくつかあるな。
今回の兵士輸送作戦は、四日間に掛けて行われる。行きが二日、帰りが二日だ。
行きは村などの拠点に着くたびに人が減り、帰りは拠点に着くたびに人が増えることになっている。つまり、行きは拠点に駐屯する兵士を置いて次に、を繰り返し、帰りは城に帰る兵士を拾って次に、を繰り返すということだ。既に、一回の輸送は済ませてあるが、あと何回あるのかは知らない。
俺は四日間歩くだけの簡単なお仕事だ。例のボーナスもたくさんもらえるので一石二鳥である。しかし、お金の受け渡しは、ハーディがいちいち俺に報告するのが面倒だと言い出したので、馬車に積んである俺のカバンの中に都度放り込んでくれることになった。職務をもう少し全うして欲しいものだが、他の人達もいる手前で『パンパカパーン!』を毎回やられるのを考えると最善かもしれない。
「リュート君、まだ元気かい? もうすぐで次の村に着くよ」
「あっ、はい。服は重いですけど歩くのは慣れているので平気です」
「そうか、それなら良いんだ。もし、疲れたら馬車で少し休んでも良いからね」
「はい、ありがとうございます」
輸送隊の先頭を歩くハルバさんが兵士として初めての遠出をする俺を気に掛けてくれる。別に俺だけに優しいのではなく、他の兵士にもしっかりと気を配っている。兵士達にもその気遣いは浸透しているようで、ハルバさんが慕われているのがよくわかる。
本来なら街から山の中に配属されるのだから、仕事とはいえ嫌な気分だと思うが、ハルバさんがそれをしっかりとケアしている。それもあって隊長という職を任せれているのだろう。剣の腕も立つらしく、クルジュと違って悪いところが全然見つからないすごい人なのだ。
二ヶ所目の村に着くと、昼食も兼ねて休憩することになった。村の広場で皆が馬車から慣れた手つきで鍋や食材を取り出して調理に掛かる。
俺も勇気を出して手伝おうとしたのだが、人手は足りているらしい。別に嫌われてるから断られたのではない、と自分に言い聞かしながら古ぼけた小さな木造の建物が並ぶ村の中やその周辺を人間の姿をしたウサギ達と一緒に散歩することにした。
山間にある小さな村なので特に見所もないが、ぶらぶらと歩いていると、どこからか水が流れる音が聞こえてきた。大きな音ではないが川でも流れてるのだろうか、おそらくそちらに続く下り道が覆い茂る木々の間にぽっかりと空いている。
「こっち行ってみようぜー」
「探検だー!」
意気揚々と二人はその道を降りて行こうとしている。
振り返ると昼食の準備をする兵士もいれば、立ち話をしていたり木陰でくつろいでいたりと思い思いに過ごしている兵士もいる。少しぐらい離れても大丈夫だろうと判断して俺は二人の後を追うことにした。いつも二人の前を歩いているので少し新鮮さを感じるが、気の抜けそうな鼻歌はなんとかならないものか。
百メートルほど下ると五メートルほどの幅で簡単に歩いて向こう側に渡れそうな川があった。川というより沢と言った方が正しいかもしれない。透き通った水が緩やかな斜面をさらさらと流れている。上流も下流も遠くの方まで見えるが木や葉っぱばかりだ。
「見て見てー! つかまえたー!」
そう言ってハーディの手に摘まれていたのは小さなカニだった。突然の魔の手から逃れようと足をバタバタさせているように見える。
「おっ、良いなあハーディ。俺も探して捕まえるか!」
「こいつ食べれるかなあ?」
「どうだろう、食べるところはあんまり無さそうだけど……」
そもそもそいつを食べ物に見てしまうのが俺はすごいと思う。
ガーディはというと透明な水の中を覗きながら、どんどんと上流の方へと行こうとしていた。
「おーい。あんま遠くに行ったらダメだぞー」
「ちょっとだけー!」
やれやれ。敬語を使わなくなっても特に文句は言われないけど、言うことをあまり聞いてくれないのは変わらない。まあ、主人があんないい加減な奴だから仕方ないのかもしれない。




