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第9-3話

 昨日に引き続き、この国で一番素晴らしい景色が見える場所にやってきた。少なくとも俺の中ではそうなっている。ウサギ達はこの景色より城を探検したいと言って、二羽で仲良く行ってしまった。なるべく近くにいないといけないというのは何だったのか。友達ができたのでそれは必要なくなった、というのは考えすぎかな。


 昨日と同じように椅子に座って、クルジュとハルバさんに今日やったことと感想を話した。もちろん、市場でたくさん食べ歩きをしたのは内緒にして。

 二人は笑いを交えながら俺の話を聞いてくれた。これも昨日に引き続き、とても居心地の良い時間を過ごす。


 俺の話が終わると今度はクルジュの愚痴が始まった。目に通す書類が多い、元老院議員や領主達のおべっかが鬱陶しい、食事中にマナーについてうるさく言われるなど、やはり皇帝も大変なようだ。マナーはしっかり守れよと思うが、俺が思っている食事マナーより遥かに複雑なのだろう。


 空が茜色に染まり始めた頃に一通りの愚痴が終わり、クルジュが今日最後の話題を出してきた。


「リュート、お前が良ければ明日からハルバに同行し、クーフ地方に行ってみないか?」

「クーフ地方?」

「ここから西にたくさんの山が見えるだろ? あれより向こうがクーフ地方と言って、高い山から低い山まで揃っている山地で、羊などの家畜を飼育していたり、木材や鉱物などの天然資源がたくさん採れたりする所なんだよ。もちろん、村や町があってそこの人達が日々働いてくれているんだけど、採れた物をこちらに運んでくる途中に山賊や、たまに人間以外の奴に馬車が襲われるんだ」

「えっ? 〝人間以外〟というと?」

「んー、化け物だな。そんなに種類は多くないけど、まとめて〝魔物〟と呼んでいる」


 魔物だと。冗談で言っているわけではなさそうだし、そんな物騒そうなものがこの世界には存在しているのか。


「まあ、商人達をそんな奴らから国が守らないといけないという話だ。商人達は独自で護衛をつけたりしているが、国が何もしないわけにはいかないだろ?」

「そりゃ……、そうだな……」

「だから、村などの各所に拠点を置いたり、被害が続くようであれば討伐隊を編成したりと色々してるんだ。今回は、その拠点にいる兵士の配置換えをするので、山道の警備も兼ねて行ってみないか?」

「えっ? 俺、山奥に飛ばされるの?」


 さっきから訊ねてばかりだが、俺の今後を左右することなので仕方ない。


「はっはっは、違う違う。行きと帰りを引率する者が必要になる。ハルバとお前は言わば付き添いのようなものだ」

「な、なるほど……。でも、何で俺も?」


 今日、兵士になったばかりで、山賊や魔物なんかと戦えるわけもないので当然の疑問のはずだ。


「お前に、この国をもっと知ってもらおうと思ってな。もし、戦闘になってもお前は馬車の中にでも隠れておけば良い。お前がその気なら戦っても良いがな、はっはっは!」

「うーん……」

「リュート君、嫌なら嫌で断っても良いんだよ? クルジュの思いつきに無理に付き合う必要もない」

「失礼な、思いつきでこんな提案をしているわけではない! 俺は、リュートのためを思ってだな――」


 ハルバさんは、ああ言ってくれているがどうしようか。たしかに、街でのんびりと暮らしたいというのもあるが、この国、この世界を知ってみたいという気持ちもある。今までの俺ならそんなことを思うことなんてなかったはずだが、こうやって俺のことを考えてくれる人ができて色々と変わったのかもしれない。

 クルジュの演説をハルバさんも呆れ気味に聞いているし、止めに入るとするか。


「クルジュ」

「だから、決して――、ん? 決まったか? リュート」

「ああ、ハルバさんについて行くよ」

「そうかそうか! 良い男になって帰ってくるんだぞ!」

「まったく、調子の良い奴だ……。リュート君、本当に良いのかい? 正直、危険も多いよ」

「はい。よろしくお願いします、ハルバさん」


 今回はクルジュの提案だが俺の意思で決めたんだ。

 逃げずに自分の力でレールを敷く。

 それを支えてくれる友達だっている。

 十八年間、俺と居た俺と決別するんだ。


「そうか……。わかったよ、こちらこそよろしく頼む」

「大丈夫だって! 何かあってもリュートには転移能力があるからな! 危なかったらお前だけでも逃げて来い、はっはっは!」

「たしかに部隊が全滅するより、一人でも生き残って情報を持って帰る方が良いが……」

「いや、みんな無事に帰ってきましょうよ……」


 まあ、上に立つ者は常に最悪の事態を想定しなければいけないと聞いたことがある。クルジュはその辺りも考えて俺を同行させるつもりなのだろうか。


「おお、ハルバの言うことにも一理あるな。そういう訳だ、頼んだぞリュート、はっはっは!」

「…………」


 本当にただの思いつきなのかもしれないな。

 しかし、その思いつきが俺のプラスになれば良いだけの話だ。

 空もすっかり暗くなってきた。明日に備えて市場で買い物をしてから、ご飯を食べてしっかり寝るとしよう。

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