第9-2話
まずは身なりから。
城の中に入って、武器庫のような所に案内されると、大きな木箱の中に無造作に入れられた鎖帷子や胸に模様が入った袖付きの青い外套を渡された。
「これ、け、結構重いですね……」
「そうだねー。小さい子供ぐらいの重さだからね。鎖を編み込んで作った頭巾もあるけど、いるかい?」
「い、いえ、上に着る分だけで大丈夫です!」
これだけでも十キログラム以上あるのにさらに重いものを被ったら潰れてしまいそうだ。
「はっはっは! まあ、街にいる兵士は誰も被ってないしね。戦場に出るならその上から、これまた重い鎧を着るんだけど、それはそのうちのお楽しみだな」
戦場なんて所は行きたくないので、そんな日が来ないことを祈ろう。
「あと、下はそれで良いとして……、ブーツがいるね。そこの木箱にあるからサイズが合うのを適当に見つけてくれ」
「は、はい!」
「あとは、剣か。うーん……、使い古されたのしかないけど、まあ街中で剣を抜くことなんて滅多にないしこれでいいかな」
適当に選ばれた刃の長い剣を革の鞘に入れ、両手で抱えている荷物の上にさらに乗せられた。これも重い。
「あと、ベルトはこれね! 全部ボロボロだから、後で市場に行って色々買い揃えた方がいいかもね。この城は財政的には潤っているはずなのに、兵士の備品とかに無頓着でねー。申請してもなかなかもらえないから自分で買った方が早いんだよ。店の人に何をいくらで買ったかを書いた紙をもらって、それを申請すればお金は返ってくるよ! そういえばキミは、昨日の大会で賞金で千リラも手に入れたんだっけか。俺も剣を新調したかったし立て替えてもらおうかな? あはは!」
「は、はあ……」
捲くし立てられて、俺はたじろいでしまう。まあ、事務的にされるよりはよっぽど良いが。それにしてもこの人、楽しそうである。
一度、借りている家に戻り、渡された物を全て装備して再び家を出た。城にロッカールームのような自分の物を置くスペースがないので、他の兵士達も家からフル装備で城に行くらしい。
「うん! あんまり似合ってないけど良いと思うよ!」
「あ、ありがとうございます……」
爽やかな笑顔で親指を立てられた。俺もコスプレをしているようで変な感じだ。
次は、そのまま街の巡回。
昼前なのでピーク時に比べたら少ないが、それでも人が多く行き交う市場へとやってきた。
着慣れない重い服を身に纏って、リーエンさんの後ろをついて行く。
「おっ? リーエン君じゃないか! どうだい、焼きたて食って行かないかい?」
「食べまーす!」
「丁度良いところに来たね、リーエン君! 蒸しあがったばっかりの熱々を食べて行かないかい?」
「食べまーす!」
「また来やがったな、リーエン! 大盛りサービスしてやるから食って行け!」
「食べまーす!」
「…………」
次々と屋台のおっちゃんやおばちゃんから声を掛けられて、そのたびに手に持つ食べ物が増えていっている。食べ物は俺にも渡されて、こちらも、もう持てないほど持たされた。巡回中にこんなことして良いのだろうか、と俺は困惑しているが、目の前の先輩様はいつもの事のようにムシャムシャと食べながら市場を回っている。
「おい、お前らだけそんなに食べてずるいぞ。俺らにもよこせよー」
「よこせー」
そんなわけで人間の姿になったウサギ達にも食べ物を渡して、リーエンさんを先頭に一列になって市場を巡回した。もう満腹だ。
次は武術の練習。
街の農地の一部が城の兵士の修練場になっているようで、木刀や先端に布を巻いた槍を使っての模擬戦や、レスリングのような近接格闘の組み手をする。
「おっ? 結構、やるじゃないか!」
「ちょっとだけやっていたので!」
リーエンさんと木刀を使っての模擬戦をやっていると褒められた。学校の授業で剣道を三年間もやったのがここで活きるとは思いもしなかったが、レスリングでは倒されまくった。下に藁が敷いてあるとはいえ、結構痛い。
その間、ウサギの二人は色々な武器を手にとって、木で作られたカカシをボコボコにして遊んでいた。
また街を巡回をして、太陽が西の連なる山々の向こうへと沈もうとする時間になると、今日の勤務は終了した。そのまま、家に帰っても良かったが、クルジュやハルバさんに挨拶がしたかったので、リーエンさんと一緒に城まで戻ることにした。
道すがら話を聞くと、他にも街の門での見張りや、城内を巡回する仕事もあるが基本的に街にいる兵士は今日やったことの繰り返しらしい。言わば、警察のようなものだ。この街は色々な地域や国から人や物資が集まるので、気を抜くとすぐに治安が悪くなるそうだ。
この間、財布をカツアゲされた話をリーエンさんにすると笑われた。市民が強盗に遭ったというのに酷い反応だ。せっかく、兵士になったのだから次会ったら捕まえれば良いと言われたが、女の子だけならまだしも、見た目から極悪なオーラを出している男達を捕まえれる気などしない。
城に着くと城内の案内がてら、リーエンさんがハルバさんが居そうな所を一緒に探してくれた。今日、一日同行して思ったがリーエンさんもとても良い人だ。仕事ぶりや言動からは計れない面倒見の良さがある。
おかげで、ハルバさんに出会うこともできた。丁度、〝皇帝陛下〟からお呼びがかかったらしく、これから向かうのだと言う。
俺はリーエンさんに今日一日の礼も含めて感謝を伝えると、
「なあに、いつでもお安い御用さ! 朝言った剣を新調する話もよろしく頼むよ!」
変わらない笑顔でそう返された。俺がリーエンさんの剣を買うのは決定事項になっているようだ。ハルバさん曰く、「あいつの言うことは話半分で聞いておけば良い。この城に関わる人達は皆そうしている」とのこと。それで良いのかリーエンさん、と強く言ってあげたい。




