表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/76

三叉路

「ちょっと、ここで待ってて」


水戸街道みとかいどう日光街道にっこうかいどうに向かう道が分かれる三叉路さんさろに差し掛かった時、大蔵おおくらは使用人の久吉ひさきちに声をかけた。

「へえ」

久吉ひさきちが歩みを止めると、大蔵おおくらは枝分かれする道の少し手前にあった小さな社の鳥居をくぐって境内けいだいに駆けていった。


大蔵おおくらはそのまま無造作むぞうさにおやしろの扉を開け放つと、床の片隅かたすみ羽目板はめいたを引きはががした。

そこには、まだ少年の大蔵おおくらには不釣り合いな、長刀が隠してあった。

大蔵おおくらは、満足げにそれを腰に帯びると、宝物を守ってくれた御神体ごしんたいに手を合わせた。


刀は、父が郷目付ごうめつけだった頃の屋敷から持ち出せたもので、唯一残った財産だった。

もっとも、無銘むめいのこの刀に如何いかほどの値打ちがあるのか、大蔵おおくらは知らない。

しかし、子供の頃から美しいものに執着しゅうちゃくした大蔵おおくらにとって、その刀身のなまめかしい光は、今まで目にしたどんな大業物おおわざものよりも魅力的だった。

生活費の工面にきゅうして、次々と私財を切り売りせねばならなかった鈴木家にあっても、これだけは手元に残しておかねばならない。

それが、残された幼い当主なりに考えた末の結論だった。


御神体ごしんたい謝意しゃいを述べて面を上げたその時、大蔵おおくらは、初めて此処ここ筑波山つくばやま神社の分社である事に気付いた。


何年か前、父と、琴と、三人で筑波山つくばやまに登った時の事が、何故か頭を過ぎった。

拝殿の前に立って、父、専右衛門せんえもんは言った。

「あれが男体山なんたいさん、あっちが女体山にょたいさん。それぞれイザナギの命とイザナミの命がまつられてる。一緒に生まれた、国産くにうみの神様だ。なんだか、お前たちのようだな」

あの時、父が何を言いたかったのか、大蔵おおくらにはよく解らない。

あるいは、深い意味は無かったのかも知れない。

「琴には分かってたのかな」

大蔵おおくらは少し顔をしかめてそうつぶやくと、やしろを出て静かに扉を閉じた。


「行こうか」

大蔵おおくらは駆け戻ってくると、久吉ひさきちの肩をポンと叩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=782026998&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ