第7話 裏で笑う者たち
副団長室は薄暗かった。窓を背に置かれた机、壁に掛けられた騎士団旗。棚には幾つかの勲章が飾られており、権威を誇示するための部屋だ。
その中央で、ブルーノは椅子へ腰を掛け、薄ら笑う。
「見たか? あいつのツラ」
机の上で足を組み、のけぞりながら大声を出す。
「理由を伺ってもよろしいでしょうか? だとよ。ご丁寧に聞かれなくても、お前の悪事なんて言いふらしてやってるのによ。滑稽な奴だぜ」
机の脇に立つ側近。細身の男は、紙束を整えながら口元だけを緩める。
「バカがよく見せる『理解できましぇん』という間抜け面は久しぶりに見ましたよ。思い出すだけで笑えて来ますね」
「へっ。団長が止めに来ると思ってたんだろうな。いつもみたいによ」
ブルーノが鼻で笑う。酒瓶を掴み、グラスに注いだ。
「だが、来るわけねぇ。その書類を作成しろってオレ達に指示したのは団長なんだから、当たり前だよなぁ?」
側近は紙を一枚取り出し、指先で軽く叩いた。
「はい。しかし、追放は正規の処分です。以後、あいつが何を言おうと犯罪者の戯言にしかなりません」
「哀れだなぁ。団長に散々可愛がられてたと思ったらこれだ。……まあ、オレとしてはなんの文句もねえけどよ。実力もねえくせに部隊長やってた奴が野垂れ死ぬ。王都は金もコネも実力もねぇ奴が生きていけるほど甘くねぇ」
ブルーノは酒を煽り、豪快に息を吐き出す。
「第三部隊の連中もすぐに気づく。隊長は逃げ回るのが得意なだけの腰抜けだったってな」
「気味の悪い影魔法したからね。影が伸びたり姿を消したり」
「思い出すだけで虫唾が走るぜ。騎士らしくもねえ。騎士団にそんなのがいるのがそもそも間違いだったんだ」
ブルーノが大雑把に笑う。
「あいつはもう哀れな浮浪者だ。どんな死に方をしたって知ったこっちゃねえ。……機会があれば、オレ様が殺してやってもよかったがな」
「それは名案です。演説の際にあいつの公開処刑をすれば、盛り上がったかも知れませんね」
その一言で、ブルーノの顔が少しだけ引き締まった。
「王位継承の演説か」
「はい。国の未来を示すのにふさわしい余興になり得ました」
側近は机の上に紙を広げた。隊列配置、警備線、騎士団の持ち場。文字は整っている。
「近日中に民衆を集め、第二王子殿下が前置きを語り、そして姫殿下が王位継承を宣言する」
「姫殿下、ねぇ」
「アリス様は民衆の支持も厚い。『若いが聡明』『民想い』『剣も魔法も使える』『魔法化学にも精通している』。彼らの頭の中では既に次の王です」
「『私が継ぐ』って言えば、民は泣いて喜ぶだろうよ。王都はこれで安泰だ」
二人は小さく笑った。
笑ったが、目は笑っていない。
「騎士団も新たな王と足並みを揃える必要があります。不穏分子を排除し、統制を示す」
「だからラズを追放した、ってわけか?」
ブルーノが豪快に言うと、側近は否定も肯定もしない顔で口元を緩める。
「上の人間が何を考えているかはわかりません。しかし、そう考えるのが妥当かと」
ブルーノは顎に手をやりなにかを考える。
「レイが戻ってきたら第三部隊をまとめさせる。そうすりゃ全ては解決だ」
「はい。あれはあれで、問題児ではありますが」
「団長に任せりゃいい。オレ達が変に口を挟む必要もねえさ」
「その通りです。邪魔者が消えた今、レイを制御できるのは団長だけですから」
ブルーノは窓の外を見やり、満足そうに笑った。
「……本当に、哀れなガキだったな。ラズ・グレイヴナイト」
「哀れすぎて酒が進みます」
グラスを一気に煽る側近。
「ああ、それに……。王位継承が楽しみだ。大広場で国が新しくなる瞬間を見られる」
そう呟き、ブルーノはにやりと笑みを浮かべた。




