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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第53話 ヴァルトの次の手

 城内の円卓は、今日も薄暗い。


 席に座るのは第二王子ヴァルト、騎士団長、暗部の長。そして王位を継ぐアリスとして椅子に座る第五王女アウローラ。


 皆が難しい表情を浮かべ黙り込む中、アウローラが机を叩く。


「ブルーノから報告がないんだけど? どうなってるのよ」


 答えは誰もがわかっている。わざわざ言う者がいなかっただけで。


 暫しの沈黙が流れた後、騎士団長が口を開いた。


「報告が途絶えた。同行した騎士達も戻らない。ブルーノは望んだ成果を得られなかった可能性が高い」


「望んだ成果? 可能性? はっきり言いなさいよ!」


 アウローラが声を荒げる。


 ヴァルトが誰にも気づかれぬように歯ぎしりをし、口を開く。


「少し黙ってください」


 短い言葉。


 しかしそれだけでアウローラは黙る。


 ヴァルトは円卓を見回した。


「ブルーノは失敗しました。が、第一陣としての役割は充分に果たしています」


「と、いいますと?」


 暗部の長が慎重に問う。


「偽者のアリスとバステリオンが反逆者だと公になりました。アリスだけでは半信半疑だった民も、バステリオンという大きい街が騎士団に反逆したとなれば、敵視しやすくなります」


 言いながら、ヴァルトは次を指を立てた。


「丁度いいタイミングです。民の不満が限界に近い。ですから、恐怖を用意しましょう。恐怖が迫れば力なき民は王都に縋ります。縋らせれば支配できる」


 暗部の長が、薄っすらと笑う。


「恐怖は便利ですからねえ。弱者は強者に従うようになります」


 騎士団長が紙束を一枚抜き、淡々と読む。


「王都近郊の村が魔物に襲われ、住民が王都へ避難」


 それを聞き、アウローラが目を丸くする。


「王都近郊の村が魔物に? な、なにそれ……」


「ボクが襲わせました」


 ヴァルトが何の躊躇もなく言い切った。


 部屋が一瞬沈黙する。


 アウローラがそれぞれを顔色を窺い、そのどれもが驚いていない。


 暗部の長が口を開く。


「魔具は正常に動作しています。魔物の誘導は容易です」


「強さも申し分ない。予め準備しておけば騎士団で始末できる」


 二人の報告に、ヴァルトが頷く。


「王都の外で魔物被害を増やしましょう。村を襲わせる。逃げた民を王都が受け入れる。王都が守るという形を作る。次の段階へ進むのです」


「検問へ出していた騎士団を呼び戻す。反逆者がいつ来てもいいように準備しなくてはな」


「魔物の補充も急がせます。まだ森に潜ませたルーガルほどのモノが出来ていませんゆえ、なかなかうまくはいきませんが」


「どちらも急いでください。民の誘導、そして支配。反逆者への対応。バステリオンへ向かった騎士団が戻らないところを見ると、取り込まれている可能性が高い」


 会話に置いて行かれたアウローラは、焦った様子で身を乗り出す。


「あ、あたしは! あたしは何を言えばいいの?」


「言うことは三つ。魔物は騎士団が倒す。反逆者が魔物を呼んだ。守るために王都に集まれ。それ以外は喋らないでください。余計な言葉は不満を増やします」


「反逆者って?」


 確認するかのような問いに、ヴァルトが答える。


「バステリオン。ラズ・グレイヴナイト。そしてアリスです」


 アウローラの口角が僅かに上がった。自分がアリスでいる限り、外の方が偽物になる。民からすれば反逆者はあちら側だ。


 暗部の長が静かに言う。


「原因はアリスに擦り付けましょう」


「ええ。王都にさえ集められればこちらのもの。守られたという恩を与えれば、弱者は都合のいいように考える。簡単な嘘でもそれに支配されるものですから」


 騎士団長が確認を取る。


「ある程度、魔物が溜まれば英雄は作ることが出来る。王都を守った英雄をな」


「英雄ならレイよ! 光の英雄! 実力は確かなはずよ!」


 その言葉に、ヴァルトが首を捻った。


「そういえば彼女はどうしたんです? 北から招集をかけ、随分と経ちましたが」


 視線が騎士団に集まる。


「寄り道が好きな奴だ。もう少し待て。仮にこなければ、オレがやる」


 腕を組み、顎を引いて暗闇を睨みつける騎士団長。


 その圧に、納得しないものはいない。


「貴方を失うわけにはいきません。まずはレイを優先してください」


 ヴァルトの言葉に、騎士団長が頷く。


「それでは、速度を上げましょう。民を集め、恐怖で縛るのです。王都が守っている恩を売り、反逆者を敵として作り上げる。そうすればもう、我々の勝ちなのですから」


 命令に、それぞれが動き出す。


 王都もまた、止まるつもりはさらさらなかった。

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