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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第37話 反攻の下準備

 バステリオンの工作班が拠点としている武器屋の一室。灯りは最小限で窓は閉じられ薄暗い。


 アリス、イオリ、工作班の班長は余計なことを喋らず沈黙が続いている。普段は口数が多いイオリと班長がいても重い雰囲気なのは、本物の第一王女であるアリスを間近にしているからだろう。


「イオリ」


「は、はいっ!? なんでしょうか、アリス様!?」


 椅子から飛び上がり背筋を伸ばすイオリ。


「い、イオリ。なにか失礼でもしましたでしょうか!?」


 ガチガチに緊張している彼女に、アリスはゆっくり首を振る。


「そんなに緊張しないで」


「そ、そんなこと言われましても……」


 助けを求める視線が班長へ向けられたが、浮かべられたのは苦笑い。助け船は出なそうだ。


「こっちに来て」


「で、でも」


「いいから」


 うぅ~、と涙目になりながら椅子に座るアリスの前にイオリが近付く。


 暫く見合い、アリスは不意にイオリの腰を掴んで持ちげる。


 そしてそのまま、自分の膝の上に置いて腹部に腕を回して抱きしめた。


「あ、アリス様!?」


「ずっと抱き心地よさそうだって思ってたのよね」


 ぎゅっと抱きしめる力が強くなると、イオリが跳ねる。


「ぎゃー!?」


「イオリ、静かにしろ。拠点がバレたらどうするんだ? 責任とれるのか?」


「で、でも……」


「いいから静かにしてろ。これは命令だ」


 班長に理不尽に叱られ、肩を落とす。恐る恐る振り返ると、笑みを浮かべるアリスの顔がすぐそばにある。


「い、いいんですか?」


「私がしたくてしてるんだから。みんなが来るまでこのままでいましょう」


「うぅ……。師匠、シグレ様。早く来てください……」


 嬉しそうに抱きかかえているアリスと、怯えて涙目になっているイオリ。


 それを見て、どこか嬉しそうにしている班長。


「意外ですね。王女様って、もっとお堅い人だと思ってたんですが」


「私はそういうタイプじゃないのよ。貴方もそんなに緊張しないで。気を遣われると逆に疲れるわ」


「そういうことなら。オレ等もお堅いのは苦手でね」


 会話の途中、扉がノックされ班長が開くとシグレ、ラズ、キースが部屋に入る。


 シグレとラズは椅子に座る彼女たちを見て。


「あらあら。イオリ、アリス様と随分仲良くなって」


「仲を深めるのはいいことだ。暫く一緒に行動することになるからな」


 怯えているイオリを他所に、肯定的な二人の意見。


「ここからは真剣な話になるから、さすがにこのままはまずいわね」


 とアリスがイオリを開放する。


 イオリはすぐさまシグレの背中に隠れた。


「……何があったかわからんが、まずは自己紹介だ」


 ラズが言うと、キースは一歩前に出て、軽く頭を下げた。


「王都騎士団、元第三部隊でラズさんの部下をやっていました。今はパウザリアの詰所で見張りをやっているキースです。よろしくお願いいたします」


「よろしく頼む。それじゃあ早速話しを進めよう」


 各自が頷くと、ラズが次を促し自己紹介は終わりになった。無駄がない。それが第三部隊の空気だ。


 シグレが手を上げる。


「工作班。まずは近況報告を」


「特に変わりはありません。規制と検問で民は嫌気がさしています。騎士団もいきなり検問を指示され不満がたまり、それをぶつけるように商人たちから物資を奪う。国全体がギスギスしてますね」


「なるほど。セレスティアはどうなりました?」


「あそこは変わらねえようで、評議会が王都の命令を突っぱねてます」


 その報告に、アリスが胸を撫でおろす。


「研究の邪魔をするなら他の国に寝返るとさえ言ってるみたいですぜ」


「ふふっ、随分と強気な街ですね。実現したら面白そうですが」


「それが、ただの虚勢ってわけでもなさそうで」


「というと?」


「セレスティアはノースホルム王国と繋がりを持ってるって噂を聞きました」


 その言葉に、緊張が部屋に流れた。


「現在、ノースホルム王国が故郷の境に兵を敷いて、王都騎士団と睨みあってるみたいです」


「理由は?」


「継承式で偽者が『隣国に先制攻撃を仕掛ける』だかなんだか言ったでしょう? あれがノースホルムに届いたようで、その報復でしょうよ」


 その言葉に、アリスが口を挟む。


「ノースホルムとアルゲンティアは良好な関係を築けていたわ。対話でどうにか出来ると思うけど」


「王女が偽者じゃまともな対話は望めないんじゃないですかい? むしろ、火に油、なんてことになりかねませんぜ」


 その言葉に、アリスは「そうね」と短く返す。


「そんなこともあってか、王都に手を貸さないセレスティアとノースホルムが繋がってるんじゃないかって噂が流れてて。セレスティアは魔具の契約関連で他国と頻繁にやりとりしてますから、ノースホルムに偽王女の話しを流したのもセレスティアなんじゃないかってね。確実な情報じゃないんで、気に掛ける程度にしてください」


「わかりました。有益な情報をありがとうございます。他に何か変わったことは?」


 シグレの問いかけに、班長は首を横に振る。


「では、先ほどの報告を踏まえて今後の事を話し合いましょう。まずは工作班が何をするかから」


 シグレの声掛けに、アリスが手を挙げる。


「民はもう今のやり方に不満を抱えているわ。規制、粛清、略奪、戦争。そこに原因を問いかけて、違和感の正体に気付いてもらいましょう」


 言いながら、アリスは指を立てる。


「今の王女アリスは民に対してなにかしてくれたのか?」


 二つ目の指を立てる。


「何かあった時、民を助けてくれるのか?」


 そして、三本目。


「王女は我々が知るアリスなのか?」


 周りを見てからアリスが続ける。


「大事なのは偽者探しの方向を変えること。王都は外に偽アリスがいるにしたい。そこをなんとか、偽者は王女なんじゃないか? という方向にしたい」


 アリスの提案に、一同が頷く。


「王都側は偽アリスが捕まえられないから規制をしている、という流れを作るわ。ここで重要なのはスピードよ。如何に早く内側に疑問を抱かせるか」


 その言葉に、シグレが班長を見た。


「工作班は市場、宿、治療所。人が疲れた顔で集まる場所を中心に問いかけを広めてください。直接、民に問う必要はありません。漂わせるだけで充分です」


 黙っていたラズは、一言添える。


「バレたら暗部によって晒し者にされる。ゆっくりでいい。焦りは禁物だ」


 三人の言葉に、班長が頷く。


「了解しました。各街の工作班に伝令を出します」


 ここで、キースが一歩前に出た。硬い顔のまま、手を挙げる。


「ならオレもそこに混ざります。詰所や検問所の兵の口は、噂が回りやすい。第三部隊の古い顔なら」


「ダメよ」


 即答したのはアリスだった。


 冷たさが混じるその声に、部屋が静まる。


「なぜです? オレたちも騎士に対して疑問を抱かせた方が」


「噂を回すのは工作班がやるべきよ。貴方達には違うことを任せる」


 アリスの声が少しだけ強くなる。


 キースの目をしっかり見据えて、ゆっくりと、しかし、力強く言葉を伝える。


「民を、支えて」


 真っ直ぐな言葉に、キースが息を呑む。


「今、この国で一番つらいのは力を持たない民よ。国に縛られ、騎士団に略奪され、不満すら零すことを許されない。そこに手を伸ばして、助けて、支えてあげて」


 声が微かに震える。怒りでも恐怖でもない。悔しさだ。


「噂で王都を揺らすのも必要。でも、民が今日を生き残れなきゃ、私たちが取り返す国に誰も残らない」


 キースの顔が、少しずつ変わっていく。


「もし貴方が民を守りたくて騎士になったのなら、支えて欲しい。本来の任務を全うして欲しい。未来の国を守るのが、騎士団の仕事よ」


 アリスの瞳が悔しさに滲む。


 感情まみれのその言葉を、キースは正面から受け止める。


 そして、改めて実感する。


 彼女こそ本物のアリストリッド・アルゲンティアその人なのだと。


 キースは膝を付いて、頭を下げる。


「承知しました。民の事はお任せください。必ずや、支え切って見せます」


 顔を上げて見上げる瞳には、強い使命感が宿っている。


「お願いするわ。キース」


 アリスが差し出した手を、取ろうか悩む。


 瞳がラズの方へ向き、頷く彼を見て、キースはアリスの手を握り立ち上がる。


「各地に散った第三部隊に情報を共有していいですか? 勇士に呼びかけて騎士団の威厳を取り戻します。民を痛めつける野蛮なことはするなと」


 ラズがすかさず言葉を返す。


「アリスの名前は出すな。上手い言葉で言いまわせ。それと、『部隊の資金を横領した裏切者が意地を見せろと偉そうに言っていた』とでも伝えておいてくれ」


 その言葉に、キースが噴き出す。


「ははっ。そのまま伝えますからね?」


「ああ。その方が気合いが入るだろう」


 軽いやり取りに、シグレが付け足す。


「くれぐれも声を掛ける相手は慎重に。いま出所を探られるのは厄介ですので」


「はい」


 キースの返事は硬い。だが、揺れていない。


「まとめるわ。工作班が問いかけ、違和感を現王へ向かせる。キースは民を支える。そして、私達は戦力を揃える」


 言葉は少ない。


 だが、この三つが揃えば、王都の足元は確実に崩れる。


「決まりましたね。内容を鑑みるに、ゆっくりしている暇はないようです。我々はこのままセレスティアへ向かいます。ルーガル・ファウンダーが身に着けていた魔具の解析と、ノースホルム王国との繋がりについて確認に行きます」


 シグレが締める。


 イオリが小さく頷き、影の中で拳を握った。


 作戦が決まり、彼等は一斉に動き出した。

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