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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第36話 部下との合流とシグレ

 久々にきたパウザリアは前と何も変わっていなかった。


 宿場町。飯屋。荷車。馬。人。


 バステリオンがどれだけの激戦を魔物と繰り広げ、傷ついたとしても、他の街は目もくれない。それが今のアルゲンティア王国だ。


「すぐに合流する」


「わかりました、師匠! ささ、アリス様はこちらへ」


 イオリがアリスを連れて、先に工作班が滞在している武器屋へ向かう。


 その背を見送ってからラズは騎士団の詰所へと向かった。


 そして、そのすぐ後ろにはシグレ。


「いいのか? アリスとイオリの二人にして」


「なにかいけないことでもありますか?」


 はて? と首を傾げるシグレ。


「何かあったらどうする」


 それは不安か心配か。それを聞いたシグレが微笑む。


「ふふっ。ラズ様は意外と過保護なんですね」


「過保護というか、アリスは旗だ。失うわけにはいかない。それにイオリも対人となると不慣れでだな」


「大丈夫ですよ」


 確信めいた、芯のある言葉。


「ラズ様が思っているほど、アリス様は弱くありません。イオリもです」


 そんなことより、とラズを促す。


「詰所が見えました。私はこっそり見極めますので、これにて」


 言いながら、シグレは人混みに紛れて姿を消した。


 ラズは一息ついてから、詰所で警備している元第三部隊の部下、キースを一瞥する。一日に何時間も立たされる仕事のはずだが、気を抜かず、真剣に辺りを見渡し続けている彼。


 王都にいたころと変わらない、生真面目な性格は変わっていないようだ。


「キース。元気にしてたか」


「たっ!」


 いきなりの訪問に、目を見開いて驚くが、すぐに咳ばらいをして言葉を飲み込む。


「だから指名手配されてるんですって。少しは隠れてくださいっ」


「フードを深く被ってる」


「それだけじゃないですか。ここには暗部の人間もたまに来るんですから」


「五日に一回だろ?」


 その返事に、キースが呆気にとられるように黙る。


「街の角にある酒屋の裏口。月が天辺に上がる頃、瓶に報告書を入れてその場を去る。受け取るのは王都契約局の人間だ」


 それを聞いたキースは、溜息を吐いて首を横に振る。


「そんなところまで……。隊長に喜んでもらおうと必死に調べましたのに。そこまで辿り着けませんでしたよ、オレは」


「そう落ち込むな。暗部がここに来てることに気付いただけでも見る目はある」


「そう言ってもらえると嬉しいですが」


 キースは全く喜びを顔に出さずに続ける。


「それで、今日はどうしたんです?」


 ラズは一度、辺りを見渡してから声を掛ける。


「国を引っ繰り返す準備に入る。手を貸してもらえるか?」


 キースが微かに息を呑む。


 直ぐには答えず、考えてから口を開いた。


「隊長たちはなにをするんです? どうしたいんですか?」


「本物を王座に就かせる。それからは、彼女次第だ。真面目なお前なら、本物がどんな人間かは知ってるだろ?」


「……少なくとも、今のような無茶苦茶はしません」


 言いながら、キースが目を向けたのはパウザリアの入り口。


 数名の騎士が検問しており、不当に商人から物資を奪い取っている。


「オレが知るアリス様は誰よりも民のことを考えてた。そのために騎士団に入団して、セレスティアで魔法化学を学んで、小さい村にも小まめに視察に行ってました。自分の目で見て、肌で感じたことが全てだって」


「キースは随分と詳しいんだな」


「騎士として当然です。情勢に興味がない隊長とレイさんが異常だったんですよ」


「それを言われると言い返せないが」


 素直に認めるラズに、キースは呆れの溜息を吐く。


 そして、人混みを見つめながら続ける。


「今の王はオレの知るアリス様からはかけ離れています。それに、オレは今でも隊長のことを信じています。だから、隊長が本物といるというのなら、オレは出来る限りのことをしたいです。それは、前言った時とかわっていません」


 キースが振り返り、ラズを見る。


「協力させてください」


 決意の固まった瞳だ。


「厳しい戦いになるぞ」


「承知の上です。騎士団に入ったその日から、民を守って死ぬ覚悟は出来てます」


「ふっ。お前は本当に真面目な奴だな」


「隊長とレイさんが不真面目なだけです」


「それを言われると言い返せない」


 懐かしいやり取りに、お互いに口元を緩ませる。


「数時間後に交代します。詳しいことはそれからでいいですか?」


「ああ。影でキースを追いかけておく。覚えているな?」


「影を踵で叩くサインですよね? 当然ですよ」


「じゃあまた」


 言って、ラズは歩き出す。


 詰所から工作班の武器屋までの距離なら影を繋げておくことは可能だ。


 その場を離れて人込みを進んでいると、道の端に植えられた木に寄りかかっているのはシグレ。片方の手には家畜の串焼き、もう片方の手には焼き野菜が握られていた。


 近付くと、モグモグと頬を膨らませて咀嚼しているのがわかる。


 目が合った状態で、ごっくんと口の中のモノを飲み込んだ。


「どうだった?」


「美味しいですよ?」


「いやそっちじゃなくて。キースの件だ」


「あー……」


 シグレは考えるように瞳だけをどこかへ向けて。


「いいんじゃないでしょうか?」


「ならいいが」


「はいっ」


 返事をしてすぐにシグレは串焼きを頬張る。


 ラズはその姿を暫く見つめ。


「……見てたよな?」


「なにをでしょうか?」


「俺とキースのやりとりだ」


「はい?」


「シグレが言ったんだろ。仲間にするかどうかは自分の目で見て決めるって」


「あぁ……」


 生返事の後に、思い出そうと遠い目をするシグレ。


 答えが出ないまま焼き野菜を一口食べて飲み込んでから。


「合格です、素晴らしい部下様ですね。……そんなことより久々のパウザリアを楽しみましょう。皆様にも美味しいものを買って行ってあげないと。バステリオンでは魔物の硬い肉ばかりですから」


 言って、シグレは歩き出す。


「イオリ達に合流しなくていいのか?」


「キースさんはもう暫く見張りをしてるんですよね? それが終わったらキースさんを連れて合流しましょう。ささ、ラズ様。それまで美味しいものを食べ回りましょう」


 そのままシグレは近くの屋台で串焼きを買って頬張り始める。


 ラズは暫く呆然とその姿を見つめた後。


「俺が知らなかっただけで元々ああいう性格なのか? バステリオンを出てはしゃいでるだけなのか? まああの若さで領主だからな。故郷を出て羽目を外したくなる気持ちもわからんでもないか」


 誰にでもなく言い訳を始めるラズ。


 ただ言える事は、イオリの面倒を見てたのは間違いなくシグレだろうという事だった。

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