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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第34話 王都の闇狩り

 演説の熱が広場を包んでいる間、街の裏側は冷えていた。


 城壁の陰。柵の影。荷車の影。そして、門の近くにある小さな抜け道。普段は工房の出入りに使う脇戸。


 そこに、行商の格好をした男がいた。背負い袋に気弱そうな目。だが、足運びが静かすぎる。周囲を確認する癖が、生活者のそれではない。


 男の少し後ろに静かすぎる者が二人。三人一組。距離の取り方が揃いすぎている。


 脇戸の影から、イオリが顔を出した。


「……あれ?」


 イオリは首を傾げ、行商の男へ声をかける。声は明るい。何も考えていないような、警戒心が薄い子の声。


「こんなところで何をしてるんですか? 広場、いま凄いですよ! 大盛り上がりです! 乗らない手はないですよ、この盛り上がりには!」


 男が一瞬だけ固まった。


 背後の二人が、同時に動いた。


「えっ?」


 イオリを襲う鋭く振るわれた銀線。


 彼女は咄嗟に後ろに引いて、それを躱す。


「あ、危ないじゃないですか! なんですかいきなり!」


 逃がさない、と追い打ちをかける男。


「残念でしたー!」


 イオリはからかいながら剣が届く前に影へと沈む。


 その瞬間、影が跳ねた。


 地面の影が縄になって立ち上がり、三人の足首を同時に絡め取る。次の瞬間、上半身へ。腕へ。喉へ。関節へ絡みついていく。


「今度こそ逃がさないぞ」


 イオリが消えた影からラズが姿を現す。


 三人が同時に体勢を崩し、声もなく倒れる。暴れるも、動くことすら叶わない。むしろ身体に力を入れるほど、影は強く身体を締め付ける。


 その瞬間だった。縛られた暗殺者の一人の首元が皮膚の下で光りかける。


「それももう見た」


 ひゅん、と細い、空気が切れる音。


 目には何も映らなかった。だが、暗殺者の首筋に走ったのは銀。


 シグレの刀だった。


 確かに切断した首には傷一つできず、体内に刻まれた術式だけを狙い、正確に断つ。まるで紋様を削ぎ落とすように。


 光りかけた術式が、ぷつりと途切れた。


 他の二人も同じだ。同じ位置に同じ刻印。発動しかけた瞬間を、同じ角度で刀により断たれる。


 三人の目が見開かれる。死ねない、という恐怖の目。


 シグレが丁寧口調のまま言う。


「お粗末な術式。これが暗部の実力ですか」


 シグレが転がる男に足を乗せ、見下すように睨みつける。


「お里が知れますね。王都の闇も、この程度の実力ですか。魔物よりも遥かに弱い」


 音もなく現れた側近が兵を連れ、無言で男達を運び出す。

 

 それをラズは見送り。


「本当に術式だけ斬れるんだな。刀で斬る奴は初めて見たぞ」


「私も驚きました」


「はぁ?」


「アリス様からやり方を教わっただけですので。やってみると意外と簡単でしたね」


 何事もないように言うシグレに、溜息を吐くラズ。


 術式を斬るなんて聞いたことがない。しかも生きた人間に刻まれたものは一生ものの呪と称されることもある。それもこうも容易く、実戦でやるとは。


「領主様は伊達じゃないな」


「今更ですか」


 ラズの視線を受け、満足げに微笑むシグレ。


「……もういいですか?」


 影から顔だけ出すイオリ。


「よくやりました。イオリ」


「シグレ様、怖かったです! 本当に死ぬかと思いました!」


 飛びついてきたイオリを受け止め、頭を撫でるシグレ。


「なんですかこの作戦、危なすぎですよ!」


「提案は貴方様の師匠です。文句はそちらへお願いします」


 シグレが言い、イオリがラズを半眼で睨む。


「師匠の弟子不幸者!」


「そう言うな。あいつらの自害する術は術式だけじゃない。確実に身動きを止める必要がった」


「だからって!」


「イオリにしか頼めなかったんだ」


 ラズはイオリに近付き、背中を軽く叩く。


「腐っても相手は暗部。他の奴なら最初の一撃で殺されてた。お手柄だよ」


 そう言ってラズは暗殺部隊を連れて行く側近の後を追う。


「むぅー……。それでも許しません! 危なすぎます!」


「なんて、文句を言いますが、笑顔が隠し切れないイオリなのでした」


「な、なんですかその言い方!」


「まあまあ。私達も行きますよ」


 広場では旗を得て、バステリオンは次に準備を整える餌を手に入れた。


――――――――――――――――――――――――


 ラズ、アリス、シグレが城の大広間で待機していると、側近が現れ淡々と報告した。


「捕縛した者たちの件です。尋問は済ませました」


「聞き出せた情報は?」


「まずは報告方法を。定期報告は五日に一度。場所はパウザリア。決められた日時、決められた場所に報告の置手紙をするそうで、それを王都契約局が拾う手はずになっているらしいです。……手渡しはしないようです」


 アリスの眉が僅かに動く。


「王都契約局。あいつら……」


「恨み言は後だ。すぐに動くか?」


「パウザリアに行くの?」


「ああ。工作班に伝えて定期報告を細工するべきだ。そうすればアリスの居場所とバステリオンの動きを王都に悟られずに済む」


「そうね。今の状況を王都に知られるのはまずいわ。暗部の報告がないことで怪しまれたくない。早急に動きましょう」


 その言葉に、シグレが頷いた。


「門封鎖は解除しますが、監視は増やします。定期報告の時期を詳しく吐かせなさい」


「承知しました」


 側近がすぐさま地下へと走る。


「パウザリアに行くのは私とラズ。それと、どうする?」


 イオリが影から顔を出し、ラズとシグレを交互に見上げる。


「イオリも行きたいです!」


「シグレ、どうする?」


「いいですよ。しっかり勉強してくださいね、イオリ」


「べ、勉強は苦手ですけど……。イオリ、頑張ります!」


 そう言ってイオリは影に潜って姿を消した。


「さて、それでは早速、行きましょうか。パウザリアへ」


「シグレも来るの?」


「ええ。ラズ様の元部下が信用なるかはこの目で見ないとわかりませんから」


「ラズの元部下がいるの? パウザリアに?」


 首を傾げるアリス。


 なぜその情報を知っているのか、なぜラズが仲間に引き入れようとしているのを察したのか。その理由はわかららない。


 だが。


「きっと力になってくれる」


「ならいいのですが」


 二人のやりとりに、アリスは面倒事を断ち斬るように口を挟む。


「急ぎましょう。迷ってる暇はないわ」


 その言葉で、四人はすぐさま行動に移った。

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