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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第2話 王家の暗殺部隊

 王都は昼前から人で溢れていた。市場の呼び声。焼き菓子の甘い匂い。荷車の軋む音。行き交う人々の笑い声。


 賑やかな街を進みながら、ラズは注意深く辺りを観察していた。


 背中に刺さる視線は門を出た瞬間から消えない。むしろ、増えている。


「二つ。いや、三つか」


 騎士団の嘲笑とは違う。冷たく、殺意が含まれた、しかし居場所を悟れない気配。


 ラズは足を止めないまま露店の並ぶ通りを曲がり、裏道へ入った。


 人通りが減る。建物の影が濃くなり、空気が薄く、冷たくなった。

 

 角を二つ曲がったところで、ラズは地面の影に手を着いた。その瞬間、身が沈むように落ちていく。数秒とかからぬ間に、その場から彼の気配は消える。


 裏路地に静寂が流れ、数息後、足音が響いた。


 規則正しい、躊躇がない、誰かに合図を送る小さな金属音。三人が互いの距離を一定に保ち、左右に散って路地を包囲している。


「手練れだな。尾行に慣れてる。全くこんな時になんだってんだ」


 影の中で表の世界を眺めながら、ラズは呟く。


 ラズの後を追って来たのは三人。動きが無駄なく揃っている。服装は町人のふりをしているが、歩幅も、重心も、視線の配り方も、整い過ぎて、それが不気味ですらある。


 彼らの顔には仮面がかかっている。目の部分だけが切りぬかれ、他は黒く塗りつぶされていた。街中でも付けていたのか、或いは路地に入ってから付けたのか。


「見たことがない仮面だな。だが」


 ラズは息を殺したまま影の中で指を動かした。石畳に伸びる影が糸のように細く伸びる。それはまるで意思を持っているかのように幾つも伸びて、追手の足元へ。


「絡みつけ」


 追手の踵に影が絡む。


 先頭の男が、わずかに体勢を崩した。


 声にならない声が漏れる。次の瞬間、二人目も同時に足を取られた。


 ラズは影から滲み出るように現れ、最も外側にいた一人の背後を取った。相手が振り向くより早く、首筋へ手刀を落とす。


 どさりと地面に倒れた。


 音を聞いて残りが振り返る。遅れて刃が抜かれる気配。が、それは叶わない。既に剣には影が纏わりつき、抜くことを許さなかった。


「っ!」


 抵抗を見せるが、足を縛っていた影が引っ張られて、重心を奪う。ラズはその隙を縫うように、一人の首元に手刀を落として意識を奪う。


 最後の一人。既に影から抜け出した追手は迷うことなく拳を繰り出す。


 ラズは首だけを動かしそれを避け、相手の首を掴み、締め上げた。


 相手の全身に影の糸を張り巡らせて動きを封じる。動きが弱まったところで手を離すと、地面に落ちた。


 派手さはない。光も炎もない。ただ、暗がりで行われる無音の処理。


 数十秒も経たないうちに、路地には倒れ伏す影が積み上がった。


「動きに無駄はなかったが、強くはなかったな」


 最後の一人が、膝をつきながらも意識を保っていた。呼吸は荒く、手は震えている。だが、目だけは死んでいない。訓練された目だ。


 ラズはその男の喉元へ、拾った短剣の刃を添えた。


「何者だ? なにが目的だ?」


 男は笑った。嘲りでも恐怖でもない、空っぽの笑い。


「聞いてどうする?」


「聞いてから決める」


「遅いんだよ、バカが」


 男は口の端を引き上げたまま、歯を噛みしめるような仕草をした。


 次の瞬間、男の表情が崩れた。眉間に皺が寄り、喉がひくつく。身体が一度だけ跳ね、力が抜ける。


「っち」


 ラズが肩を掴む。しかし、男はもう言葉を返さない。死んでいる。


 周囲を見回す。倒れている他の追手たちも、同じように、静かに動かなくなっている。


「こんなヤバい奴等に狙われる覚えはないんだが。横領ってそんなに罪が重かったのか?」


 自害を命じられている。捕虜になるくらいなら死ね、と。


 騎士団でもそう習いはする。情報を敵国に流すぐらいなら自害しろ、と。だが、実際に自害する騎士はほとんどいない。口に毒を仕込ませておくなんてもってのほかだ。


 それほど調教された相手が、なぜ自分を追う?


「いきなり追放されて、殺し屋に狙われたとなると。……知らないうちに、面倒事にまで巻き込まれたか」


 ラズは疑問を抱きながら、倒れた男の仮面へ手を伸ばした。


 紐を切り、引き剥がす。


 露わになった顔に見覚えはない。


 だが。仮面の裏側に刻まれた小さな刻印には見覚えがあった。


 十字に刻まれた血の紋。


 王都の影。王家の汚れ仕事を担う殺し屋。かつて任務で対峙したことがある。


「王家の暗殺部隊か」


 いざ口に出すと喉が冷える。


 彼らの存在を知る者は少ない。その存在は秘匿とされ、騎士団ですら一握りの人間にしか知らされていない。部隊長であるラズですら、その存在を知ったのは事故のようなものだった。


 王家を影で守る、決して表に姿を現さない汚れ役。


 故に、彼らの実力は折り紙付き。道理で手練れなわけだ。


「だが、なんで暗殺部隊が俺を?」


 たかだ横領でこんな連中が出てくるはずがない。彼らが動くのは王家にとって不都合があった時だけだ。


 副団長、ブルーノの私兵ならまだ分かる。ブルーノは前々からラズのことを目の敵にしていた。ラズは騎士団長のお気に入りだと。


 だが、いま目の前に転がっているのは王都の影。それがなぜ自分を狙う?


 ラズは周囲の路地へ視線を走らせた。だが、答えが見えない。


 ただ一つだけ分かるのは、自分は何か大きな問題に巻き込まれているということ。


 その時だった。


 遠くから悲鳴が聞こえた。

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