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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第15話 次の行き先

 ヒルデの研究室、場所は大部屋。


 ラズは壁際に背を預け、影を外へ薄く伸ばして辺りを警戒している。


 アリスは椅子に腰を掛けて天井を見つめている。


 これからの事を考えているかのように。


 奥の扉が開いた。


「いやはや。思いのほか時間が掛かってしまったが」


 ヒルデが二人がいることを確認しながら部屋の中央へと進む。


「終わりましたか?」


 すぐにアリスが駆け寄り、ラズは姿勢を変えないまま視線だけを向けた。


 机の上に、結晶板を一枚、紙束を一つ、そして小さな瓶が二つ並べられる。

 

「結論から言おう、アリスくん」


 その言い方だけで、部屋の空気が変わり、アリスが呼吸を挟む。


 彼女の準備が整ったのを見てから、ヒルデは口を開いた。


「キミが持ってきた治療薬は毒だった」


 アリスの視線が床に落ち、手が胸元で強く握られる。


「微量投与で細胞の動きを鈍らせ身体機能を弱らせる。衰弱としか思えないゆっくりとした速度で、しかし確実に身体を蝕む混合毒。……これを服用し続ければ、確実に人は死ぬ」


 アリスの蒼い瞳が、薬瓶に向けられた。


「……やっぱり」


「残酷のようだが。キミの読みはあっていたようだね」


 言いながら、ヒルデは紙束を持ち上げる。


「鑑定書は作った。わたしの術式署名付きだ。嘘だと言わせない形にしてある」


 彼女はそこで言葉を区切り。


「だが、これはあくまで証明だ。王の死が衰弱ではなかったということの。これがあるからと言って、キミたちが今すぐ王都に突っ込んでも、潰されて終わりさ」


 口を開かないアリスの代わりに、ラズが短く言う。


「セレスティアが協力してもですか?」


「セレスティアといえど王都と。いや、アルゲンティア王国と真っ向から衝突したらただじゃ済まない。例え真の第一王女がいたとしても、その現実は変わりやしないさ」


 特許都市と言えど、国と事を構える訳にはいかないという事だ。


 事情が故に口を閉ざした二人に、ヒルデが告げる。


「だが、これを使って仲間を増やすことは可能だ」


「というと?」


「本音を言えば評議会で出したいところだが、商会と王都契約局。あの二席は王都の息がかかりやすい。金と契約で首が締まるからねえ。だから、信用に足る人物にのみ事実を説明し、聞き入れてもらう。アリスくんとラズくんがよければだが」


「私はそれで構いません。ヒルデさんを信じています」


 アリスはすぐに頷いた。


 ラズも、その返事に同意するように頷く。


「わかった。後で彼らを紹介しよう。どこまで力になってくれるかはわからないが、協力はしてくれるはずさ」


「いえ、ヒルデさん」


 アリスはヒルデの提案に、首を横に振った。


「その件はお任せします。私は次に行かないといけないので」


 ヒルデが呆気にとられたように瞳を広げ、すぐに笑う。


「あっはっは! 元気いい子だ。だが、キミの身体はまだ万全ではない。疲れも抜けきっていないだろう。焦りは禁物だと思うがねえ」


「時間がありません」


「セレスティアで協力者を作るのにも、キミが直接話した方が間違いないと思うが」


「ヒルデさんになら任せられます」


「任せられると言われてもねえ……」


 呆れる様子のヒルデと、一歩も引かないアリス。


 そこへ、ラズが横から短く添える。


「暗部がいる。ここに長居するのは得策じゃないな」


「ラズくん。キミも意外とやんちゃなようだね」


 ヒルデは口を閉じ、数秒だけ二人を見た。


 そして、小さく息を吐く。


「次の行き先は?」


「バステリオンに行きます。あそこなら、王都をよく思っていないですから」


 ヒルデの笑みが消えた。代わりに、理解の顔になる。


 防衛拠点バステリオン。


 アルゲンティア王国の南に位置しており、すぐ隣には魔物が出現する死の森が広がっている。そのせいもあり、常に魔物と戦いを繰り広げている武力の街だ。防衛拠点と呼ばれているが、そこに騎士団は滞在していない。


 ただの住民が戦い続けている特殊な街。


「なるほど。あそこを取り込むつもりか」


「危険すぎて王都は騎士団を貸し出さない。頼っているくせに助けない、国に見捨てられた街。だから住民は王都を良く思っていないはずです」


「味方に付けるならうってつけの街ではある。それに、バステリオンはキミが以前に訪れている街だね」


 ヒルデが言うと、アリスは一瞬だけ目を伏せた。


「あまりに過酷だったから……。私はヒルデさんにお願いして、攻撃用の魔具の多くをバステリオンに回す政策を作った。あの街には、それが必要だったから。本当は騎士団の派遣を要請したんだけど」


 それは、王により却下された。


「俺もバステリオンには行ったことがある」


 そこでラズが口を挟んだ。


「魔物がバステリオンに攻め込まれたと、たまたま聞いてな。第三部隊を率いて、あそこの住民と共に戦ったことがある」


 ヒルデが思い出したかのように手を叩き、ラズに視線を向ける。


「あの時の英雄はキミだったのか。バステリオンの知り合いがしつこく語ってきたからよく覚えているよ。光と影が全ての魔物を焼き尽くしたってね。スケールがでかすぎて御伽噺かと思ったが」


「ほとんどレイの功績だ。俺の影じゃ魔物は焼けない」


「焼き尽くしたというのはただの表現だが……。いまそれを議論するのは時間の無駄かな?」


 ラズは確認の視線を無視し、余計なことを言わずに続ける。


「俺を覚えてる奴がいれば協力は出来るかも知れない。それにあそこは武力の街だ。強さが全ての証明になる」


「そうね。ラズには悪いけど、頑張ってもらうことになるかも知れないわ」


「アリスもアリスで頑張らないと意味がない。連れが強いだけじゃ、あの街では認められることはないからな」


 二人のやりとりを聞き、ヒルデは、そこでようやく察する。


 バステリオンを動かすということは、王都と対立する覚悟を固めたということだ。毒の確定証拠を握った上で、次は武力へ繋ぐ。穏便に物事を進める手ではない。正面からぶつかり合う選択肢。


「……ふっ。いやはや、なかなかどうして」


 ヒルデは小さく笑い、言葉少なく頷いた。


「キミの覚悟は理解した。わたしが止める話ではない」


「ヒルデさん……。すいません」


「なぁに、キミがわたしに謝ることはなにもないよ? アリスくん。……ただし」


 ヒルデは一瞬だけアリスを見た。


「もう後戻りはできない。バステリオンを巻き込んだその瞬間から、戦争が始まるようなものだ。あそこも王都には少なからず因縁がある。きっとキミをも利用しようとするだろう」


 まるでそれは最終勧告。


 今なら引き返せるという意味にも取れる。


 アリスは、ヒルデの目を見て力強く頷く。


「私は父の無念を晴らして王座に就く。……覚悟はもう、出来ています」


 暫く睨みあい、後にヒルデが表情を緩める。


「ならいいさ。……ラズくん、アリスくんを頼むよ」


「やれるだけのことはやる」


 ヒルデが「あっはっは」と笑いかけて、けれどすぐに咳払いで誤魔化した。


「よろしい。では行くといい。時間がないのだからね」


 その言葉に、ラズとアリスは準備を整え研究棟の出口へ向かう。


 扉の前で、アリスが一度だけ振り返った。


「ヒルデさん、ありがとうございました。……また、会いに来ます」


「おうだとも。今度はゆっくり、お喋り出来ることを願っているよ」


 ヒルデは手を振らない。小さな身体で背筋を伸ばし、ただ立って見送った。


 二人の背中が扉の向こうへ消える。


 閉まる音がして、部屋に静けさが戻った。


 ヒルデはしばらく動かなかった。


 弟子の背中が、もう子どもではないことを今さらのように思い知る。


 守られる側だったはずの少女が、国を守るために歩いていく背中。


「……大きくなったねえ。わたしの背中から離れなかったあの子が」


 ぽつりと漏れた声は、誰にも聞かせるためじゃなかった。


 ヒルデは机の上の結晶板を取り上げ、鑑定書の束を整える。


 笑顔を作る。いつもの大声の準備をする。


「さて。ここからが本番だ」


 扉へ向かう足取りが、いつもより少しだけ重い。


 それでも止まらない。


「わたしにできることをしなければ、ね」


 ヒルデガルド・ヴァイスハイトは、評議会を動かすための準備を始めた。

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