130.
ギデオンはミシェルの部屋へ赴き、開口一番、不満をぶつけた。
「俺も行きたいぞ、妖精郷へ」
「馬鹿ですか貴方は」
「フッ……そうだとも」
「はぁ……」
執務机の前で書類に向かっていたミシェルは、こめかみにそっと指を当てた。
「ギデオン。貴方は一応この国の主要人物なのです。死なれては困ります」
「俺が死んでも国は回るだろう? ミシェル、おまえが居ればな」
(……まあ、それはそうなのだけども)
ギデオンはこの国の中枢にいるわけではない。
居なくなったところで、実務上の支障はほとんどない。
だが……。
「そんなことはありません」
口をついて出た言葉に、ミシェル自身が驚いていた。
いつもなら、事実を包み隠さずにギデオンに伝えていたはずだ。
けれど、とっさに出たたのは否定の言葉だった。
「……皇帝が、国のトップがいなければ、国は瓦解してしまいます。貴方がいなくては、マデューカス帝国は終わりなのです」
それらしい言葉を重ねながらも、言ってる当人でさえ薄ら寒さを覚えた。
嘘をついている自覚があった。
(……なに? もしかして、私がギデオンが居なくなったらさみしい、とでも思ってると?)
まさか、あり得ない、ミシェルはそう自分に言い聞かせる。
「おお! ミシェル! 俺がいなくなるとさみしいとでも思ってるのか?」
「!? ば、ば、馬鹿! そんなわけないでしょうっ!」
自分でも、そしてギデオンすらも驚くほどの大きな声で、否定をしてしまった。
……なぜだか顔が赤く、そして熱くなっている。
「ふっ……ミシェル」
「黙れ」
「可愛い奴だ」
「おまえは、もう黙れ」
なぜだかギデオンに一枚上をいかれたような、手玉に取られたような気がした。
それが猛烈に恥ずかしくミシェルは執務机に視線を落とすしかできなかった。




