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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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105/139

105.

 グレースによる、軍人たちの強化が始まった。

 鑑定眼持ちである彼女には、その個人個人の適性がランク付けして見えるそうだ。


 剣術(A)、騎乗(B)等。


 場所は鍛錬場。一列にならぶ、若き軍人達(マルコー含む)。

 グレースが鑑定を行い、ティルがその結果を書き込んで、後にミシェルが処理しやすいように形を整える。


「解せんな」


 その様子を、ミシェルと一緒に見ていたギデオンがつぶやく。


「私も解せないです。なぜ……カイウスは貴方に肩車されているのですか」


 隠し子カイウスは、現在ギデオンが肩車している。その表情は明るい。


「ぎでおん、たかいですっ」

「ふふん、そうだろう」


 ミシェルの眉間に、更に深いしわが刻まれる。


(カイウスが流ちょうに言葉をしゃべれるようになったのは良いこと。ただ……それがギデオンの手柄なのが……いや、いけないな。こんな感情を抱いては)


 カイウスが元気にしゃべっている。それでいいではないか。

 誰が功労者とかどうでも良い、と自分に言い聞かせる。


「で、何が解せないので?」


 ミシェルはメガネをくいっ、と上げる。

 最近視力が落ち始めており、メガネをかけるようになった、ミシェル。

 だがずっとかけてはおらず、たまにコンタクトレンズ(八宝斎はっぽうさいに作らせた)を身につけている。


「俺たちは幼い頃に、加護の診断をするだろう?」

「そうですね」


「そこでなんの加護を受けているか調べれば、おおよその、そいつの適性がわかるのではないか?」


 鑑定で適性を調べるまでもないだろう、ということらしい。

 あまりものを深く考えない良い質問だった。

 だが、ミシェルは少しばかり、ため息をついてしまう自分がいることに気づく。


「ど、どうした?」

「いえ」


 いつもならば流してしまうだろう。

 だが、ミシェルは冷たい声音で、言うのを止められなかった。


「加護の有無と、その人の出来不出来は必ずしもイコールではない。他でもない貴方なら、わかってくれると思っていた私がバカでしたよ」


 つまりは、ミシェルのことを言っているのだ。

 ギデオンも最近忘れがちだが、ミシェルには加護というものが存在しない。

 だが、加護がなくとも、ミシェルは有能だと……ギデオンならわかってくれる。


 そう思っていた。期待していたのだ。


(期待……? 他人に期待……か)


 今世でも前世でも、ミシェルは他者に何かを期待することはほとんど無かった。


 自分の力で問題を解決する。


 誰にも寄りかからず、生きてきた。


 それが自分であり、生き方を変えるつもりも、変えたいと思ったこともなかった。


 ところが、ミシェルは他者に期待を寄せている。


(なんなんですかね、この心境の変化は……)


「おお、そうだったな。ふっ……俺としたことが、間違えてしまった。おまえがいたな」


 ぐいっ、と片腕を伸ばし、抱き寄せてくる。カイウスを乗っけている状態でだ。


「危ないですよ、カイウスが」


 素っ気ない口調。だが、彼女が口をついた言葉は、拒絶ではなかった。

 そのことに誰よりも驚いているのはミシェル自身であった。


 前は、鬱陶しいからと、彼を遠ざけていたはずなのに。

 寄りかかることに対して、何の拒絶心もなかったのである。


「ふっ……この俺がミシェルの大事なカイウスを落とすわけないだろう」

「……バカですねほんと。なんの根拠もない」


「確かにミシェルの言う通りだ。加護と適性は必ずしも一致するわけでない。調べることに意味はあるな。オマエの言う通りだ」

「……そうでしょうとも。まったく、もっとよく考えて口を動かすことですね」


「ふっ……その生意気な口を俺が塞いでいたたた……」


 ギデオンの唇を、ミシェルはつまむ。

 甘い雰囲気が、醸し出されているのに、二人は気づいていない。

 そんな二人の様子を、ティルが恨めしそうに見ていた。


「わたしが働いているのに、この仕打ち。うう……ひどいですぅ~……」

「なにか? 言っておきますがこのあとの情報の精査は私がやるのです。貴方にもやってもらいますか?」


 とんでもない量の情報を精査し、捌くのと、この場で目の前にあるものをただ書き写す。

 どちらが楽かなんて自明だった。


「へいらっしゃい、次の方どうぞぉでぇすぅ~」


 半泣きのティルを見て、カイウスは口を開いた。


「ギデオン。てぃる、あわれ?」

「おお、難しい言葉をしゃべるな。その通りだ。アレは哀れだな……ふっ……」

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