知らぬ間にそんなことに
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
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放課後。澪と紗々羅は非常に遅い昼食を、すっかりぬるくなったイチゴミルクとコーヒー牛乳と一緒にとっていた。
「さっさと食べちゃおうぜ~。ゴタゴタしててお昼食べらんなかったもんね~」
「うん、ごめん…」
「別に澪が悪いわけじゃないでしょ?」
「そうなんだけど… …ねぇ紗々羅、二人にあんなこと頼んじゃってよかったのかしら?」
「代之宮のこと? まぁアソコがヤバイってのはあのコたちも分かってたみたいだから、大丈夫じゃね? それでウチらじゃ分からん情報持ってきてくれればラッキーだし、ってか、澪にまとわりつかなくなればアンタも落ち着いてられるでしょうが」
「うん、そうなんだけど、あの子たちが無理しなければいいんだけど…」
「まぁごちゃごちゃ考えてても仕方なくね? とりま食っちゃわないと帰れないよ?」
「うん… いただきます…」
と、弁当箱の白いご飯に澪が箸をつけたところで
「ねぇ白鷺さん。あなたのとこの後輩が来てるんだけど」
クラスメイトの声に振り向けば出入り口で陽菜がペコペコしながら不安げに立っていた。
「おー、成瀬ー。なんか用かー? とりまこっちおいで~」
紗々羅の呼ぶ声に陽菜はしずしずと教室へ入ってきた。
「成瀬、なにビビってんの?」
「あの、やっぱり上級生のクラスはなんか怖くて」
「まぁそれもそっか。で? なんか分かったん?」
サラッと尋ねる紗々羅。しかし澪はピタッと動きを止め、しっかりと聞き耳を立てている。
「あの、神代先輩、今では代之宮の頂点に君臨しているそうです」
「は? なにそれ。どゆこと?」
「クラスの子から聞いた話で、どこまで本当なのか分からないんですが、代之宮のヤンキーというヤンキーを全部ブチのめして、伝説級のボスまでブチのめしちゃって、今では代之宮の守護神、って呼ばれてるそうで…本当なんでしょうか?」
「アハハハ。やるねぇ、さすがひろっち。他にはなんか聞いた?」
「いえ、今のところそれだけで… …あの、あの子はもう来ましたか?」
「ツナ? まだだよ」
紗々羅の言葉に陽菜はホッと胸を撫で下ろす。
(紗々羅ってば、もうあだ名呼びしてる…)
「それでは、私はこれで」
「陽菜ちゃん、ありがとう。また何かあったら教えてね。でも無理はダメよ?」
微笑みとともに送られたその澪の言葉に陽菜は
「はぁぁぁぁ… ハイッ! それでは失礼しますっ!」
と、来たときとは裏腹に、意気揚々と帰っていった。
その後ろ姿を見送った澪、向き直るや、唐揚げにブスッと箸を突き刺し丸ごと口へ放り込んだのを皮切りに、掻き込むように弁当を食べ始める。
「ん? どったの? 澪」
「なんでもない!」
(もう! 心配して損した! なによアイツ、結局ケンカが好きなだけなんじゃないのよっ!)
◆
(うーん、神代って人がすでに代之宮の番を張ってるって話くらいじゃあの子も掴んでるだろうから、なんかこう、もっとインパクトのある情報じゃないと澪様に会わせる顔がないっていうか…でもそんな話、どこで手に入れればいいってのよ⁈ そんなお題を出して私を澪様に近づけないって魂胆なんじゃ…見かけによらず、やるわね、あの白ギャル!)
「乙菜ちゃん、今日はずいぶんおとなしいね。おとなしい乙菜ちゃんか。ガッハッハ!」
「…神宮さん、めっちゃオヤジギャグですよ、それ」
夕方。乙菜は空手の道場にいた。精神と肉体の鍛錬、護身術を兼ねて、親の勧めで小学生低学年の頃からずっと通っている。高校生になってからは一般の部へ移って年上の人たちと稽古するようになり、今も周りは大柄な男たちばかり。フルコンタクト系でないにしても避け損なえば体躯の小さな乙菜ゆえ吹き飛ばされることも多々あるのだが、その体躯のわりには頑丈なので大きなケガもせず、アザをつくりながらも自分より大柄な大人たちへ怯むことなく挑んでいる。
そんな乙菜が道場の隅っこで普段と違ってしょぼくれた様子だったので、指導員の神宮が声を掛けたところだ。
「何か悩みかい? 乙女の悩みはおっさんの俺が聞いてもどうにもならんかもしれんけど、道場でボヤっとしてると危ないぜ?」
「すみません…悩みというか…あの、神宮さん、代之宮って今どんな感じになってるんですか?」
「代之宮? 高校の?」
「はい」
「どうって、ガラが悪いくらいしか知らないが、代之宮がどうかしたのかい?」
「あの、み…いえ、知り合いから代之宮の神代って人がどんな感じなのか知りたいって頼まれて、でも直接代之宮に行くことは禁じられてて、どうやって情報集めたらいいのか分かんなくて」
「ははは、それはなかなかの難題だな。 ん? …神代…聞き覚えがあるぞ? 五代君、ちょっといいかな?」
「押忍! 神宮さん、なんか用っスか?」
「君、代之宮の神代って生徒のこと、知ってたよな?」
「押忍! 代之宮歴代最強と言われる田所をブッ倒したとかで、廣塚のウラ界隈じゃ超有名人っス!」
「ほほう。他に何か知ってることはないかな? こちらの姫君が情報をご所望だ」
「神宮さん、姫とかそんな…」
「乙菜ちゃんがっスか⁉ おおっと、それならそれこそスペシャルな情報じゃないと…あ、そうっス! 直接神代の話じゃないっスが、代之宮界隈だとこんな話があるっスよ!」
五代の話を聞き、乙菜は愕然とした。
(これは…早く澪様にお知らせしないと!)
◆
翌朝。
「澪様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
HR前、談笑していた澪と紗々羅の元へ真っ青な顔の乙菜が駆け込んできた。
「な、何かしら…?」
また散歩中の大型犬のごとく飛びつかれては、とさりげなく澪は紗々羅の後ろに隠れ、ひょこんと顔を出して乙菜の様子を伺った。
「大変! 大変なんです!」
「ねー澪、なんかマジっぽいよ、コレ。どったの? 話聞こか?」
「それがですね!」
乙菜が走ってきたせい、慌てているせい、混乱しているせいで話のまとまりがないので要約すると、『近日中に代之宮に大規模な殴り込みがある』とのことだった。しかも。
「その連中が魔導を使うらしいんです!」
「魔導を?」
「乙菜ちゃん、そこのところを詳しく」
魔導と聞いて他人事とは思えなくなった澪が聞き正す。
「私、魔導のことってよく分からないんですけど、その人たち、こういう、この、えっと、こういう風になってる音楽聴くヤツ」
「骨伝導イヤホン?」
「そう! それです! そういうのを着けてて、スマホを操作すると電気か火とかが出るって! それで県内あちこちの高校に現れてはシメて回ってるって! 50人くらいの大集団で!」
「それって…」
「間違いない。『違法魔導』ね。それで、それがいつなのかというのは分かるかな?」
「3日後の6月26日だとか…」
「そう。ありがとう、乙菜ちゃん。でもね、魔導が絡むとなればとっても危険だから、絶対に近づいたりしちゃダメよ? これより先は私たちが考えるから、あなたは教室に戻って。もうすぐ1時間目が始まっちゃうし」
「はい…それでは失礼します…」
と、乙菜は頭を下げるとすごすごと自分の教室へと戻っていった。
◆
昼休み。いつもなら教室で昼食を摂る澪と紗々羅の二人の姿はそこになかった。ぼんやりとした梅雨空の下、人目を避け、中庭に面した校舎の壁に寄りかかり並んで座っていた。
「どうすんの? 澪」
「うん…」
「いくら代之宮の連中がガラが悪くてケンカ好きでも相手が魔導、しかも違法魔導使うってなったら不利なんじゃね?」
「うん…」
紗々羅の問いかけに、澪は俯いてお弁当を見つめながら弱々と返事をするだけだった。
「ひろっちがいくらメチャクチャとはいえ、50人も魔導使うのが来ちゃったらヤバくね?」
「うん…」
「で、それ知っちゃったウチらは何もしなくていいの?」
「うん…私も何かしなくちゃって思うけど…」
「それならさ。人を集めて助けに行かない? とりま2-Bのみんなに声かけてさ。それで」
「あのっ!」
にわかに顔を上げ澪は紗々羅を見つめるが
「うん? なに?」
「…明日。明日返事をするから…少しだけ待って…」
再びお弁当へと視線が落ちた。
「…そっか。うん。分かった」
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




