チビスケ
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
https://x.com/HanashioKikei/status/2069390019262120191?s=20
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明くる朝。
「…やっぱりか…」
昨日の朝と同じように人垣がグラウンドへと続いていた。ただ違うのは…
「オハヨウゴザイマス!」
と一斉にあいさつをされた点だ。
「ございます…て…」
なにしろ並んでいる中には昨日ブッ飛ばした同級生や上級生も混じっているのだ。昨日までの殺気立った空気とは一変した状況に大樹は言葉がない。
さて、その先へ進めばやはり昨日同様田所が腕組、険しい顔つきで待っていた。
「アンタ、身体の方はいいのかい?」
「アレくらいなんてことねぇ。さすがに堪えたがな。ンなことはどうでもいい。神代。昨日の返事を聞かせてもらおうか」
「せっかちだな。まぁ、いっか。それでだ。オレが戦うのはまぁいい」
「おおっそうか!」
それを聞いた田所は喜びに顔を崩した。だが大樹の表情は冴えない。
「…せっかちだな。どんな奴らが来るんだか知らねぇが、人数集めてやってきたら、オレとアンタの二人ががんばったところでタカが知れてんだろ」
「うっ…そ、その通り、だが…」
「だからオレから提案がある。そこに並んでるヤツら、全員オレが鍛えてやる!」
◆
時は遡り、先週末。大樹はバイト先で段ボールを片付けながら考え事をしていた。
(殴り込みに備えるったって、田所とオレだけでなんとかなるもんじゃねぇだろ…人数集めて襲撃されたらどうするつもりだ? かといってケンカ道場でもやるってのか? 誰がやんの。オレ? いやいや、そんな面倒なことに付き合ってられっかよ…そういや、前に白鷺を『迎えに』行ったとき、アイツを攫ってったヤツらの中で一発オレに入れたヤツがいたな。ありゃ気が付かなかった。まぁ前に二人いりゃそうかもしれねぇけど… …オレってばもしかして背後からの攻撃に弱い? 大挙してきたヤツらに囲まれて、後ろからやられたら防げねぇってことか。そりゃマズい。 …うーむ… …そうか!)
◆
「今日。今から。いつどこでだろうと構わねぇ。オレを不意打ちしてみろ!」
大樹は悟った。自分が背後からの攻撃に弱いことを。だったらその弱点の克服に、この連中を使えばいいのでは?と。連中を鍛えるだけではなく自分の鍛錬にもなる。一石二鳥だ。
「はぁ?」
「何言ってんだ?」
「そんなヒキョーなことやれっかよ!」
普段の行いを棚に上げて非難轟々である。が。
「なにカッコつけてんだ! 正面からやり合ってオレに勝てるとでも思ってんのかよ!」
「いや…そりゃ無理だけどさぁ…でもよぉ…」
「デモもストもあんか! お前ら、ケンカなんてのは勝たなかったら負けだぞ? それでいいのかよ!」
「う、うう…」
「学校を守るために、負けたくないんだろ? それなら手段なんか選んでらんねぇだろが。どうだ田所。アンタはどう思う?」
「…うむ、卑怯な手を使いたくないってのはコイツらと考えは同じだ。だが、オメェの言う事にも一理ある。確かにまずは勝たなきゃ話にならねぇ。よし…オメェら! ワシは神代に乗る! まずは代之宮を、ワシらの居場所を守るのが先決だ! どうなんだ、オメェら!」
「ウオォォォォォォォォォォォツ!」
無数の雄叫びが朝の校庭に響き渡った。
◆
そしてそれは早速始まった。グラウンドでの『集会』が解散になって、昇降口へ入った刹那。
「神代!」
「ムンッ!」
背後から襲った者の腹へと回し蹴りが1発。
「ガァッ⁈」
「お前バカかっ⁈ 襲い掛かるのに名前叫んじまったら不意打ちにならねぇだろうがっ!」
「お、おう…」
◆
バキィッ
「イッテェっ⁈」
廊下を歩く大樹の背後からホウキの柄で殴りかかったものが1人。それは見事に決まった。
「オッシャ!」
とガッツポーズ。
「コラァっ! 後ろから殴りかかるなんて卑怯なことをするんじゃない!」
ちょうど近くを通りかかった教職員が大樹との間に入る。
「いや、だってよぉ…神代がやれって言ったんだからよぉ…」
と、普段は先生の言う事なんか聞きゃしない不良が困惑しながら言い訳。
「そんなわけが」
やはり普段の行いか、その言葉を信じてもらえない。教師の顔には明らかに「ウソをつくな」と書いてある。
「いいんだよ、先生ぇ…オレがそう頼んだ」
「な? 俺悪くねぇじゃんか」
「いや、しかし…」
当惑する教師だったがそれをヨソに
「いい攻撃だったぞ」
「お、オッス!」
立ち上がるや否や肩を叩いて褒め称える大樹。
「…なんだこれは…」
教師の当惑は深まるばかりであった。
◆
こんな調子で廊下を歩けば後ろから殴られ、トイレで用を足していれば後ろから殴られで、大樹は気の休まるヒマがない。もっとも自分で言い出したことではあるのだが。
5時間目。大樹は腕組をしながら難しい顔をしていた。
(うーむ。やっぱ後ろからだと気が付きにくいな。しかも結構痛い)
ここまでの『戦況』は3勝7敗。負けはすべて背後からか待ち伏せでの襲撃だった。
(問題は相手の気配が分からないってことなのかな。それが分かれば避けるなり反撃するなりの対策ができるかもしれん。うーむ…)
多分、普段勉強しているよりも脳を動かしているだろう。
「ウォッシャー! 神代に1発カマしたゼェ!」
「いってぇ…」
この調子で、放課後校門を出るまでの本日のリザルトは4勝11敗であった。
◆
翌日。朝から早速襲撃が始まり、行く先々で殴られ蹴られと散々な状況。不良ドモでもさすがにそれはマズいと思ったか刃物などを持ち出されない分、マシともいえるが。
こんな調子で6時間目が終わり放課後。今日もバイトがあるためさっさと帰途に就きたい大樹だったが…ふと教室出口を見る。
(おそらくそこ、右左どっちかに隠れてんだろうな。両方かもしんねぇけど…気配とか分かりゃいいんだけどなぁ…)
カバンを持って出口へ向かう。が、すんなり出ずに数歩手前で立ち止まった。確認しようと頭でも出そうものなら叩かれるのは必至。見ずにどうにかならないものかと、目を閉じて精神を研ぎ澄ます――――と不思議な感覚に包まれた。
(なんだ…この感じ…)
乱雑な机とイス。教室の壁。開け放たれた戸。その向こうには左右に伸びる廊下。廊下のガラス窓の向こうは外の空気。この辺一帯の空間が自分と一体化しているように感じられる――――そんな感覚が『そこにある』と気付いた。空気すらも自分の一部のように。そしてその中に感じる異物感。
(…何かいる…)
それは目を開けても変わらない。進行方向右、開け放たれた戸の向こう側に『ヒト型の塊』が空気を押しのけそこに在る。
(…しかも…ホウキを上に振りかぶって… オレが出たところを、って魂胆…なのか? 自信はないが…よし…)
意を決して一歩二歩と足を進める。ちょうど右足が廊下へ出たところで
ブンッ ガッ
ズドォッ
「ガ…あ…」
振り下ろされたホウキの柄をカバンで受けた。同時に放った左回し蹴りは襲撃者の右脇腹へと入り、彼は戸へビターンッと叩き付けられ、溶けるように崩れていく。
「な…反撃あんのかよ…」
「当たり前だ! 自分たちだけやり放題ってわけじゃねぇぞ! やるからにはやられる覚悟で来いっ!」
と、説教している背後から忍び寄る者が1名。
ドスゥッ
「ガアッ⁈」
仕掛ける前に右回し蹴りが腹へ入って吹き飛ばされた。
(なんか今のは分かったぞ? なんというか、半径2mくらいなら誰かがいるってのが感じられる…)
他にも数名周りにはいたのだが、目の前で立て続けに2人やられたことを受け、ジリッジリッと間合いを取った。
(これがオレの『なわばり』ってことなんかな? これ極めれば殴られなくても済むんじゃね?)
大樹の顔には微かに余裕の笑みが浮かぶ。
(…いるな…)
「ゴハッ⁈」
曲がり角で待ち伏せた者を先回りで殴り倒す。
「ゴオッ⁈」
靴箱の陰にいた者も出会いがしらで一撃。
(うむ。これはイケそうだ。あまり痛い思いをせずに済みそう…)
「ギャァッ⁈」
昇降口のドアの陰に隠れていた者も一蹴。
「…なぁ…神代のヤツ、なんだかスキがなくなってきてねぇか?」
「ああ…まるで先読みされてるって感じだ。今朝までとは全然違ってんぞ。ヤベェな、俺達…」
「ヤベェのはアイツの方だぜ…何モンなんだ、アイツ…」
校門を出るまで続けざまに3人を撃退。大樹は悠々と門を抜けた。
◆
翌日。
ドゴォ ズル…
さっそく校門裏に待ち伏せた者が堕ちた。それだけではない。襲い掛かる者すべてが次々と撃墜されていく。
ゴガッ ドス…
昼休みを過ぎた頃にはすでに大樹は無敵となっていた。何人たりとも指一本触れることすらできず。
放課後。ちょっとした異変が起こる。
バシィッ
「痛ッてェッ⁈」
無双状態の大樹へ一撃を加えた者がいた。昇降口へ向かう大樹の背後へササッと忍び寄る小さな影。それは間髪入れずホウキの柄で殴りかかり、見事脇腹へ。
殊勲を上げた小さな影の周りに推移を見守っていた不良たちが集まって来た。
「やった! スゲェなチビスケ!」
「よくやったチビスケ!」
チビスケと呼ばれるこの少年。名を小川幹輔というが通称「チビスケ」と呼ばれている。身長153cmと非常に小柄なことからそうあだ名されたのだが、その体格からケンカをすることもなく、校内では学年関係なくナメられている、という立場と言っていい。だが田所の幼馴染ということで付き合いが長く、いつも一緒にいることから手を出されることはなかった。そもそも1年のときに田所が上級生すら相手に戦い代之宮をシメたのは、彼らがチビスケにちょっかいを出したから、というのが発端なのである。
「っツぅぅぅ… 今のはマジで気が付かなかった」
「神代君。僕の勝ちだね」
「ああ。だがまだまだだ。これからも頼むぜ」
「いいよ。いくらでも殴ってあげるよ」
物騒な会話である。だがその言通り、翌日も朝一番からチビスケの攻撃はことごとく大樹を捉えていった。
「ア痛ッ⁈」
「へへっ、また僕の勝ちだね」
「ああ…まいったな…」
ホウキの柄で叩かれ背中がヒリヒリしつつもそこまで手が届かない大樹はチビスケに苦笑いで応える。
「よう神代。なんでお前チビスケにやられてんの? ちっこいからって手ぇ抜いてんのか?」
「違ぇよ。分かんねぇんだ、チビスケだけは。アイツだけは思いもよらないところから来る。ステルス塗装でもしてんのか?」
「んなわけねぇだろ」
一方のチビスケ。
「スゲェじゃねぇかチビスケ! お前だけだぜ、神代に一発噛ませるのってよぉ」
「お前、ケンカなんかやりたがらなかったじゃんか。どうしちまったんだよ」
普段と態度が違う人だかりに当惑しつつ、頬を赤らめ照れ臭そうに言った。
「うん…こないださ、真人とアイツがタイマン張ったじゃん? どうみてもアイツと真人じゃ体格なんか全然違うじゃんか。でもアイツ、怯むどころか正面から向かって行ってさ、そんで勝ったじゃんか。アレ見てさ、なんか、僕にもできることがあるのかなって。僕は体格がこんなだからさ、アイツみたいに正面からなんて無理だけど、それでもやれることがあるならやってみよう、って。やってみればやれるもんだね。へへっ」
背丈が10cm以上違う不良たちが囲む輪の真ん中で、チビスケは後ろに組んだ手をモジモジさせながらも誇らしげだった。
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




