消えない言葉
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
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一方その頃。神代大樹は代之宮高校の教室にいた。扱いは転校生。すなわち高校生としての籍がこの学校にある、ということだ。代之宮は県内で『逆頂点』を争う高校。ガラの悪さから毎年定員割れ、女子には敬遠され実質男子校状態。しかも登校してくる生徒がロクに居らず、現在大樹がいる教室は27ある座席の半分ほどしか埋まっていない。同時に、見渡す限り、まるで女性の水着売り場のごとき色とりどりのTシャツかアロハ、制服として原形を留めているのはズボンだけ。白い半袖開襟シャツをラフに着ている大樹ですらまじめそうに見えてしまう。
その、机もイスもすべてが明後日の方向を向いた教室で、一部の生徒が教師に絡んでいた。
「数学なんか役に立たねぇんだからけぇれよ」
「マジ役立たねぇ。キャハハハハハ」
「ンだよその目。俺たちにたてつくっての? 教育委員会に言いつけちゃうよ? んン? いいの?」
直接絡んでいるのが3人。踊っているのかじゃれ合っているのか判断に困る挙動をしているのがその周りに2人。残りは黒板前のできごとに興味もなく、みな後ろを見てるか横を見てるか。小学校の学級崩壊の図体の大きい版と言っていい。
「教師とか公務員だべ? ここに立って独り言言ってりゃ金になるんだから楽なもんだべよ」
「マジ楽じゃん。キャハハハハハ」
まるで興奮したサルのような甲高い笑い声。それを圧し潰すように、一人の生徒が声を上げた。
「なぁ先生。授業始めようぜ」
ずっと目を瞑って座っていた大樹である。目を見開き、腕組をしながら憮然としている。
「あん?」
「ああ?」
彼らは冷や水でもぶっかけられたように態度を変え、大樹の周りへと集まって来た。無関心だった他の生徒も、教室内の空気が変わったことに気付き、そちらに目を向けた。
「なにイイ子ちゃんしちゃってんだよ、転校生」
「あ? なんだテメェ。新入りがチョーシっくれてんじゃねぇよ」
「オマエ望陵から来たんだってな。こないだ火事で丸焼けになったとこだろ? クソダセェ。キャハハハ」
おおよそ自分が優位にあればそれをカサに上からの態度をとるような連中だ。
「どけよ。前が見えねぇ」
「ああっ?」
「黒板が見えねぇからどけよ」
さっきまで目を瞑っていたヤツが何を?ともいえるが――――
望陵にいた頃は授業中に寝ていようものなら次の休み時間には澪がすっ飛んできてこってりと絞られたものだ。机に伏せてるところ、耳を引っ張られ
「神代君! また授業中寝てたでしょ!」
「ノートはちゃんと取ったの?」
「シャキッとしなさい、シャキッと。姿勢を正して!」
こんなことを、何度も。最初は聞き流していたものの、それこそ態度が改まるまで何度も何度も何度も何度も――――諭されるものだから、さすがの大樹も従わざるを得ない。おかげで授業中に机に伏せない程度には『真人間』となっていた。
(そういや…いないんだよな…)
授業中に不審な行動を取ろうものなら、いるはずのない澪の言葉が聞こえてくるような気がした。
しかし望陵へ転校する以前も含め、これほど教室内が雑然としているというのは初めての経験、それゆえこの『サル山』化したクラスを大樹は快くは思っていなかった。
「ちょい立てよ転校生。この学校の礼儀っての教えてやんよ」
少々ガタイのいい赤いアロハの男が眉間にシワを寄せて大樹を煽る。
「…また礼儀か…」
めんどくさそうにつぶやきながら、大樹はゆっくりと立ち上がった。立ち上がればその体格差は歴然、どうみても赤アロハよりも大樹の方が一回り以上は大きい。
赤アロハはその体格差に一瞬怯むも
「どうしたよ、やるんじゃねぇのかよ」
なおも煽る。
「図体だけで見掛け倒しだろ? 望陵だもんな。キャハハハ」
紺と黄色のボーダーTシャツを着た男は大樹と目線を合わせずユラユラと立って奇声を上げた。
「望陵のお坊ちゃんじゃ大したことねぇよ。使ってみればいいんじゃねぇの? 魔導ってヤツをよォ」
大樹の左眉がピクリと動く。
「…オレは魔導が使えねぇんだ」
「マジかよ⁉ 望陵で魔導が使えねぇとか、ちょーザコじゃね? だからって手なんか出したらボコっちゃうよ? 俺ら」
モスグリーンのTシャツの男は下から舐めるように大樹を見上げる。
この言い様でお分かりだろうが、この連中の『戦法』は相手が先に手を出せば『正当防衛』を理由に集団で暴行を加えるというものである。仮に負けても、街中なら「アイツが先に手を出した」と交番へ駆け込むくらいの知恵はある。
「1対5で勝てると思ってんの? 土下座付けば許、あっ⁉」
なおも煽るモスグリーンに、じゃれ合っていた片方がよろけて当たり、モスグリーンは大樹へと突っ込んでしまった。モスグリーンに――――人一人ないし二人がぶつかっても微動だにしない、しかしながらそれを不快と感じている相手の空気が読み取れればよかったのだが。
「…なぁ。オレって平和主義者なんだ」
「アアンっ⁈ それがどうしたよ。図体ばかりで手も出せねぇクセによぉ」
大樹の眼下直下のモスグリーンは、顔を大樹の顔の真ん前まで寄せ、つまりガンを飛ばして煽る。
「そりゃそっちの話じゃねぇか? さっきっから煽ってくんけど手は出さねぇよな? オレが怖いか?」
「ああっ⁈ チョーシっくれてんじゃねぇよ! テメェなんかワンパンだよワンパン!」
赤アロハはその場でシャドーボクシング。
「そうか。それじゃやってみろ」
と、大樹は顔を赤アロハの前に突き出した。
「な、何のつもりだよ…」
思いもよらぬ大樹の行動に、赤アロハはたじろぐ。
「殴ってみろよ。ほれ」
「なんだ、コイツ… へっ、カッコつけてんじゃねぇよっ!」
「グズグズ言ってねぇでやってみろよ。ほれ」
大樹はなおも顔を前に突き出し、赤アロハを煽った。
「な… 殴れって言ったのはお前の方だからな!」
大樹の顔へ赤アロハの右拳が飛ぶ。
ぽきっ
「い、イッテェェェェッ⁉」
赤アロハ、渾身の右。 …手首が妙な角度で曲がった。何かが折れる、乾いた音と共に。
「ふーむ…殴られるってのは案外難しいな…」
大樹は困ったように左の頬をさする。
「テメェェェェェェッ!」
モスグリーンの右手がネコパンチのように下から伸びる。
ぱきっ
「が…アアアアアアアアアアアアアッ⁈」
ネコパンチは大樹の顔面を捉えたが、赤アロハ同様乾いた音を立てた。
「とりあえず一発ずつ、か。オレは売られたケンカは高値で買うからな!」
まずは目下のモスグリーンへ大樹の右が落とされ
ガタンッ ガタガタガタ
間髪入れず左拳が赤アロハの顔面を捉える。
ドカッ ガガガガ
二人とも無様なまでに吹き飛び、飛んだ体がただでさえ揃っていない机の列をさらに乱すことになった。
「ご希望の魔導じゃなくて悪かったな。『本物の魔導』よりかはマシだぞ、オレに殴られてた方が。痛ェだけで済むからな」
「な… テメェ! ナメんじゃねぇぞ!」
チキキキキ
紺黄ボーダーは甲高い怒声と共に、ズボンのポケットからカッターナイフを取り出した。100均で手に入れた、段ボールなどを切断する刃渡りの広いタイプのもの。その刃を伸ばして
「キィィィィイェェェェェェ!」
甲高い叫び声をあげて大樹へと斬りかかった。大樹、とっさに刃の進行方向へ左腕を伸ばす。
パキィン…
いつもならカッターナイフの刃を翳すだけで相手がビビるのでそこで勝負はついていた。だがすでに「仲間」が2人倒されて余裕のない紺黄ボーダー、生まれて初めて人へ刃物を振るった。しかし…人の体とはこういうものだったか? その手応えはまるで電柱にでも刃を立てたかのように硬い。いくら100均で買ってきたとはいえ、こうも簡単に刃が折れるハズはない。しかし…幅18mmの刃は根元から折れてどこかへ飛んでいった。
「…ちょっとだけ切られるってのも難しいもんだ」
斬られた――――ハズの大樹の左腕には微かな切り口がある。だがそれは「傷口が開いた」などと形容されるようなものでなく、1本のかすり傷からすこし血が垂れている程度。その「傷口」も間もなく塞がった。
「イ…ヒ…キエェェェェェェェェェェ⁉」
この状況に紺黄ボーダーは大混乱。本能がそう告げたのか、カッターナイフすら効かない者を相手にはできないとビブラートのかかった甲高い悲鳴を上げ、机を跳ね飛ばしながら逃げ出した。
「待てよ」
だがいつの間にか紺黄ボーダーの目の前には大樹。
「一発は一発だ」
バキィ ガガガガガガガガガ…
相手のヒョロさから加減をした右ストレートが顔面へ。紺黄ボーダーは大樹の拳の先から弾け飛んで、もはや元の位置が分からない机たちをさらに移動させた。
「授業ってのは静かに受けるもんだぞ」
大樹は何食わぬ顔で自分の席へ戻り
「なぁ先生。そろそろ始めようぜ」
やはり何食わぬ顔で教師へと告げた。
「あ…ああ…」
その一連のできごとを傍観するしかなかった教師はあいまいに返事をするしかなく、駄弁っていた周りの生徒は思いもよらぬ状況に言葉を失っていた。
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エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




