戦う風紀委員
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
https://x.com/HanashioKikei/status/2069390019262120191?s=20
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「うわっ! 先客万来かよ!」
大樹たちが着いた頃にはすでにヤジウマが正面玄関のフロアに溢れ返っていた。
「どうするよ」
「オレは進むぞ」
「マジか神代 って、エ? エ? エ?」
ヤジウマ最後尾の隙間に体を入れた大樹。どう見ても頭一つはみ出るほど大樹の方が大きいのだが、どういうことかスルスルッと隙間から隙間へ入り込み、あっさりと玄関の外に出ていった。
「あの図体でそんなことできんの??? んじゃ、いっちょ俺も」
と人の隙間へ磯貝が手を突っ込んだ途端。
「キャッ⁈ エッチっ! どこ触ってんのよッ!」
パンッ
「…なんで…」
女子生徒の平手打ちが飛んだ。
「…ご愁傷様」
「ってか、なんで神代にできて俺にできないんだ?」
「…さぁ?」
◆
正面玄関前では睨み合いが続く。
「よぉ、黒坂。コイツら何モン?」
軍団の一人がスマホに指を掛けながら黒坂に問うた。
「望陵の風紀委員ってヤツだ。魔導科の学校だから当然魔導を使うけどよ、せいぜい2をちっと超える程度だ。俺たちの目じゃねェ」
「コイツらブチのめした分のボーナスは出んのかよ」
「バカ言え。中に入って注文を達成するまで『ご褒美』はお預けだ。まぁコイツらブッ倒さなきゃ中には入れねぇんだ、さっさとやっちまえ」
「チッ。話が違ぁがしょうがねぇ」
画面を離れた指が再び画面へと戻る。
「アンタらにゃぁ恨みはねぇが『仕事』はさせてもらうぜ。オメェらやるぜ! 【フレイムボール】!」
前に出た3人は右掌を前へと翳し構文名詠唱。
ブウォッ
ブウォッ
ブウォッ
バレーボール大の火球が出現するや、風紀委員が並ぶ方向へと次々と撃ち出される。
「炎メインに闇を追加。燃え盛る炎、無へと帰す。駆けよ【マルチフレイムアブソーブ】!」
三浦の詠唱と共にピンクのイルカがヒュッと音を立て横切った。そして、まるでイルカの口から発せられたかのようにこちらもまた火球を放つ。火球は放物線を描いて上がり
「【チェイス】!」
追加詠唱を皮切りにそれぞれが火球目掛けて飛んでいき
バッ
バッ
バッ
飛来した火球はすべて消え去った。
「な、どういうことだよッ⁈」
「アンタらの火球、うちの魔導が全部食うてしもうたばい」
「これだから炎使いは頭ワリィって言われんだ。ちった頭使え。どいてろ、ダァボ。オイ、やんぞ。【ウォーターショット】!」
炎の魔導を使った連中が後ろに下がると代わって前に出た2人が水鉄砲のように水を撃つ。
ビシュッ
ビシュッ
それらが届くと間髪入れず
「痺れちまいな。【ホワイトサンダー】!」
撒かれた水に手を付けた2人から電流が走る。
「要素は土だよ。乾いた土で潤い奪っちゃえ! 【ドライサンドサモン】! よっこらしょー!」
佐伯が振り下ろしたヘアコームに合わせ
ドサァッ
どこからともなく土が降ってきて、辺り一面まき散らされた水を吸い取る。
「はい、いっちょあがり!」
「な、なんだ…なんで何も起きない…」
軍団『雷』担当の予定ではこれで相手を感電させ、麻痺に追い込むつもりだった。
「土が抵抗になってるからね。そりゃ電気なんか通らないって!」
「チックショー! これでも食らえっ! 【ホワイトサンダー】!」
今度は直撃狙い。前に翳した掌から稲妻が走る。しかし。
「風要素を光で活性化。空気を乱し、雷の道を断つ――【風光のイオンクレスト】!」
真田の詠唱と共に冷気が漂い、空間が歪む。そして放たれた稲妻たちは歪みの中でパチパチと消滅した。
「どういうことだよっ⁈」
「簡単に言えば、空気中のイオンを破壊した、ってとこだね。空気中の電流は進むべき道を失い、消えた。ってこと」
「なんだそりゃ…意味が分からねぇ」
「魔導を使うなら物理も勉強しておいた方が何かと役に立つ、って覚えておくといいよ」
「チックショー! ナメやがってッ!」
「クソがァッ! 構わねぇッ! そこの植え込みに火をつけろ! 【フレイムボール】!」
「片っ端から燃やしちまえッ! 【マイティウィンド】!」
次々と飛び出す火の玉を風が追いかける。
「させませんっ! 要素は水。光を追加。邪悪な魔導、それを使う者を覆い、囲み、封じ込める。護りて戒めよ――【天球のウォーターカラー】!」
早乙女が絵筆を振ると、黒坂軍団の頭上に忽然と水の膜が現れた。それは地に降りドームを形成し、放たれた火の玉ごと彼らを閉じ込める。だがそれだけではない。行き先を塞がれた火の玉は水膜ドームの内側で跳ね返り、逆に彼らへ襲い掛かる。
「うぉおッ⁈ アチィ⁉ アチィ!」
風魔導で軌跡を操作した分、中の者たちへある意味「平等に」その効果を賜った。
「【ブラッシュウォッシャー】」
追加詠唱で水膜ドームはその形を失い、一気に軍団への降り注ぐ。おかげで火の玉は消え、同時に全員びしょ濡れだ。
「水も滴るいい男になれたかしら?」
早乙女は不敵な笑顔。
「クソがァッ! だがこれで勝ったと思うなよ。スマホってのは防水なんだよッ!」
軍団は構文のロードにスマホを握った。
「だよね。だったら」
相馬が魔導ステッキの赤い先端を振る。
「雷要素を闇で支配。力の源を根こそぎ奪う。【ネガティブパワードレイン】!」
「なんだァッ⁈」
彼らの手の中のスマホは瞬時にブラックアウト。タップしようがどこのボタンを押そうが反応はない。
「君たちのスマホのバッテリーを空にした。ついでに初期化もしておいたから次に電源を入れたときには名前の入力からだね」
「すごい…」
それしか言葉は出なかった。後ろへ下がった澪たち1・2年生、固唾を飲んで推移を見守るしかなかった。何かあれば自分も、と魔導のプリロードはしていたが、しかしその出番がまるでやってこない、先輩たちの圧倒的なチカラ。それを目の当たりにするのは初めてだった。
(これが私の目指す魔導の姿…)
誰一人傷付けることなく封じ込める。それは澪が描く魔導の理想の姿。
澪はふと、風紀委員になって間もない頃のことを思い出した――――
校内巡回を終えて。まだ慣れない高等部の施設を見て回っていたとき、校舎裏の空き地で早乙女が魔導の練習をしていた。自分は周りより遅れているからと照れ臭そうに語る早乙女。
「努力で埋められるなら、私は出し惜しみしないの」
そう言って笑った彼女の手には、魔導ステッキではなく絵筆が握られていた。そんな早乙女に憧れて、澪は自分も「手に馴染む道具」を探し、タクトを手に取ったのだった――――
「さすがです先輩っ!」
興奮のあまり早乙女たちに声を掛けた澪だったが、予想外の返事が返ってきた。
「違うわよ、澪ちゃん」
「え?」
「私ら去年の澪ちゃん見て、考え方変えたの。変わったのよ。戦わなくたって、封じちゃえばいいんだーって」
そう佐伯が語る。去年の、とは体育館裏で起こった黒坂との一件を意味した。
「攻撃性が強か魔導でも、使いよう次第やけんね」
三浦の得意要素は炎。普通は攻撃に使われる魔導が、しかし封じる手段として使われた。
「そのためには今程度の制御ではまだまだだって、白鷺クンほどの緻密な制御をするにはなかなかに骨が折れたぞ」
相馬の顔にも笑顔が零れる。
「そんな…私はまだまだ…」
「でもおかげで『校則第1条 我々望陵学園の生徒は、正しく魔導を使うために学ぶ者である。』を体現できるようになったからね!」
いかにも校則オタクの真田らしい言い様だ。
「オイ黒坂ッ! ハナシが違ぇぞ!」
「なんだコイツら、メチャクチャ強ぇじゃねぇか!」
「やってらんねぇぜ! これでガジェットが消えてたら、お前責任取れよ!」
「あとはお前ひとりでやれよ! じゃあなっ!」
軍団は口々に文句を言い、一人、またひとりと黒坂を置いて去っていった。
「黒坂先輩。あなたのお友達は御覧の通り、すでにお帰りになりました。校外へ出てしまえば私たちに追う権限はありませんのでそれまでです。その様子だとあなたも違法魔導を使うつもりでしょう。ですが、望陵の敷地内であるならば、私たち風紀委員会は全員全力であなたを阻止します。これ以上の罪を重ねるのは止めて、この場を去りませんか? 校門を出たその時から、私たちはあなたに関わることはできませんから」
「キレイごと言ってんじゃねェッ!」
水を滴らせながら黒坂は吠えた。
「何もかも…何もかも台無しにしやがってっ! だが俺はお前らには用はねぇ。白鷺ィッ! 俺と勝負しろッ!」
「え…私…?」
突然の指名に驚く澪だった。
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




