お礼参り
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
https://x.com/HanashioKikei/status/2069390019262120191?s=20
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望陵再開から3日目。
「みんなおはよー。あ、紗々羅! おっはよー!」
「…え? 誰?」
「何言ってんの。澪だよ澪!」
「え…ウチの澪がこんなに元気なハズがない」
「やだなー。紗々羅ってば、輝き澪さんがいいって言ってたのにー! あっ! 神代君! おはよー!」
「よう、白鷺。ちょっと待っててくれ」
「うんっ!」
「あれー…ウチ、教室間違えたんかな…」
本日澪は朝から絶好調。その笑顔の熱量たるや、もはや紗々羅がドン引きするレベル。
「澪、なんかいいことあった?」
「ん? 別にー。何もないよ、な・ん・に・も!」
(ウザっ! いや、やっぱ誰? これ)
「悪ぃ、待たせた」
「うん! あ、そうそうLINQのID、私も教えてもらっていいかな?」
「構わねぇけど、やり方分かんねぇよ、オレ」
「大丈夫! この輝き澪さんが教えてあげますから!」
「え、何それ?」
「あ、こっちの話。じゃ、携帯見せて! あ、ここをタップしてね、で、」
「えっと、ウチも教えてもらっていいかな…」
「紗々羅は私の後ね!」
(あっれー? 昨日はウチが聞いた後でってなってたんですけどー? ってかなんで澪が仕切るん?)
とにかく絶好調である。
◆
まもなく1時間目が終わろうという頃。
バンッ
遠くで何かが破裂したような音がした。ただ大して大きなものではなかったのでそれ自体は誰も気にしなかった。しかし。
「…ねぇ、なんか焦げ臭くない?」
開けっ放しの窓から入るジメっとした南からの風に、焦げた臭いが乗ってきた。
「うん、言われてみれば」
誰彼なくコソコソと小声で話し始めた。
「え、また火事かな?」
「でも外からじゃね?」
「誰か焚火してんの?」
「まさか」
「あー、そこ。うるさいですよ」
「でも先生。なんか焦げ臭くないですか?」
「ん…? うーん、確かになんか臭いますね」
「火事かなっ?」
「それなら警報機が鳴るでしょう」
「でも」
安全確認を、と羽川が言いかけたとき。
〈ガザッ あー、緊急連絡。各教室の先生方、大至急職員室へ。それから風紀委員は全員正面玄関に集合。各教室の生徒は自習、その場で待機、教室を出ないように。以上〉
要件だけを告げる慌てた様子の声が校内放送で流れた。
「何でしょうね? あー、諸君は今放送にあった通り、この場で待機。自習とします。私は職員室へ行きますので」
と世界史の上岡は教科書を携え教室を出ていった。
「澪?」
「うん。 …なんだろう? ちょっと行ってくるね」
机の上もそのままに、澪は席を立ち、指定された正面玄関へと向かった。念のため、指揮棒を持って。
◆
廊下を階段を急ぐ風紀委員。正面玄関へ向け次々と合流する。
「あ、澪先輩! これ何なんですか?」
「私にも分からないわ。とにかく行ってみましょう」
「はい!」
正面玄関に近かった3年生はすでに集合、玄関の外でみな一様に一つの方向を向いていた。
「早乙女先輩! 何が あっ⁉」
「ぞろぞろ出てきやがったな、風紀委員」
「…! 黒坂先輩⁈」
3年の元へ駆け寄った澪たちの目に入ったのは、昨年度卒業生の黒坂だった。彼を先頭に他に10人、見知らぬ者が一緒である。先日代之宮を襲った破界連合同様に、どう見てもガラの悪い連中だ。とはいえ破界連合ほど統制が取れていないのか、着ているのは色とりどりのアロハシャツ。そればかりではない。玄関脇、ミントグリーンに塗り直されたばかりの校舎の壁には黒く焦げた跡。焦げ臭いニオイの原因はこれであろう。そして黒坂を含め、彼らの頭部には基礎構文学習装置のデバイスがあった。
「黒坂先輩。サッカーの試合でも申し込みに来たのですか? ご存知の通り、あいにく望陵にはサッカー部はありませんけれども」
「面白ェこというなァ、早乙女ェ。ンわけねェだろが。カワイイ卒業生がワザワザ顔見せにきてやってんだ、お礼参りってヤツだよ」
「お礼という割には礼節弁えられてはいないようですね。感謝の気持ちで校舎の壁を焦がすなんて、そんな礼儀作法、世界中のどこにもないと思いますが」
「ナメた口聞いてんじゃねェッ! 【クレイジーファイヤーボール】!」
構文名のみの短い詠唱とともに黒坂の右手にはソフトボール大の火球が現れた。その出現までの時間の短さもさることながら、早乙女の足元近くに叩き付けられたそれは、舗装面のアスファルトを爆ぜ飛ばす。
(威力が違うっ? 黒坂先輩って、卒業時までAMI値は1.9で変わらなかったはず…でも今の火球は2.5くらいはありそう…まさか⁉)
1年と少し前、体育館裏で対峙したときの黒坂の火球は、不安定さは今と変わらず威力そのものも大したことがなかった。それを目の当たりにした経験のある澪だからこそ、今の黒坂の魔導はあの時と確実に違っていることが分かる。
「ヘヘッ! 見たかよ今の。オレはパワーアップしてんのさ。コイツでテメェらのナマイキな口塞いでブッ潰してやんよォッ!」
だが澪が目を見張るほどの火球を目の前に叩き付けられても、早乙女は冷静、微動だにしない。
「なるほど…そういうことですか。宣言。風紀委員会内規第13条に基づき、当件は魔導による攻撃を受けた『緊急対応』と判断。3年のみんな。制限を解除するよ。風紀委員会委員長、早乙女涼の名に於いて、魔導を以って対応します」
魔導教育法第11条第2項では「公共教育機関に於けるAMI値は2.0まで」と定められている。現実にはそれを超える子供たちが出てくるわけだが、それを抑え込むというのは能力を伸ばそうという教育理念からすれば得策ではない。そこで『制限構文』という、使用AMI値が2.0を超えそうなときに警告を発する構文を基礎構文と共に植え付けられる。超えて使えば罰則があるので子供たちは閾値を超えないよう調整する。結果として自分をコントロールするという教育的意味合いを持つことになった。だがそれは『緊急対応』であればその限りでなく、ただし『緊急対応』に当たるかどうかはのちの判断に委ねられるので、制限の解除は罰則覚悟の賭けでもあるのだ。
「先輩! 私たちも!」
澪たち1・2年の中には黒川悠斗1人を除き制限対象者はいない。そんな彼らが共に戦う意思を示したのだが、早乙女は笑顔を以ってそれを制した。
「大丈夫。みんなは後ろへ下がってて。この程度なら私たちだけで十分だから」
「この程度だとォ? 相ッ変わらずナメてやがんなテメェら。2をちっと超えてンくらいでデケェ面してんじゃねェ! 圧倒的なチカラの差てェのを見せてやんよォ。まぁ俺のホンキを見せるのは中に入ってからだ、お前らでやっちまえ!」
黒坂の後ろに控えていた連中が前に出る。いずれもポケットからスマホを取り出し画面をタップした。
(やっぱりっ!)
◆
自習と言われておとなしく自習をする高校生は稀であろう。そして2-Bも例外ではない。クラスの半数以上が窓側へやって来て窓の外へ身体を乗り出すが、2-Bは中館、しかも2階。本館の向こうから声が聞こえるが何を言っているのかは分からない。
「ちょっと見に行こうぜ」
「おう。神代も来いよ」
「あ? ああ」
磯貝と清水に誘われ、大樹もふらふらと立ち上がる。
「ひろっちー。あとで澪に叱られてもしらないよー?」
「構わねぇ。だよな? 神代!」
「お、おう」
何とも気合の無い返事なのだが、大樹の中には――――何となくそこへ行かなければいけない予感があった。
階段を下って間もなく。
「コラァ! 外に出てはイカンと言っているだろォ!」
怒鳴り声が廊下を響き渡ってきた。
「ヤベッ! 村井が見回ってんのかよ!」
「でも今のは北館から聞こえてきたぜ」
「捕まる前に行くぞ。神代!」
「おう」
◆
「あの早乙女先輩! あの人たちは違法魔導を」
見覚えのある動作に気付いた澪が叫ぶ。
「うん、ありがとう。でもね、ほら、私たち風紀委員だから。ちゃんと分かってるよ」
しかし絵筆を取り出した早乙女をはじめ3年生はどこまでも冷静だ。
三浦は先端がイルカモチーフの魔導ステッキを。
「澪たち、ちょっと後ろさがっとき」
佐伯は胸ポケットから折りたたみヘアコームを。
「後輩たちにいいとこ見せなきゃねー!」
相馬は赤い先端のノーマルな魔導ステッキを。
「早々に終わらせて授業に戻らねばな」
真田は生徒手帳を。
「校則通りに拘束しますよ」
魔導媒体を構え、『黒坂軍団』と対峙する。
「だからみんなは授業を抜け出してきちゃったヤジウマさんたちの保護をよろしくね」
「あ⁉」
振り向けば正面玄関には大勢の生徒が詰めかけていて、すでに外まで溢れていた。
(これマズいなー。先輩たちが勝つのは確定としても、この人たちに何かあったら…)
大勢の「ギャラリー」を見て、澪は周りの仲間たちに小声で伝えた。
「みんな。すぐに使えるよう詠唱済みしておこう。何かあったとき学校を守るのは私たちなんだから」
「うん、了解」
「はい、わかりました」
(多分…黒坂先輩は今でも要素は炎しか使えないはず。それなら…)
「水を要素に。炎の球体を――逃さず包み込む――――」
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




