小さな不安、小さな決意
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
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校庭には魔導1課に続き機動隊も入り、完全に包囲された後。
確保された『破界連合』は護送車へ。代之宮の生徒は人数が人数だけに当校の体育館へ収容された。もちろん大樹も現在は代之宮の生徒なのでこちら側。澪とは言葉を交わすこともなく離れ離れになってしまったわけだが――――
「マジで…?」
「えぇ…あそこまで歩くんですか…」
『乱入』した望陵学園高校2-Bの面々は、すでに護送車が『満員御礼』となっているため乗せることができず、なおかつ逃亡の可能性が無いと判断され、廣塚警察署まで全員が徒歩で移動することとなった。距離にして約2km、歩いて30分ほどではあるが、さながら遠足中の幼稚園児のごとく先頭から最後尾まで見張りの警察官が張り付き、一つの列を成して歩き続けたこの出来事は、のちに「2-B・死の行軍」と語り継がれることになる。
さて警察署へ着いたものの30人ほどを一度に収容できる部屋はない。よって全員敷地内の駐車場で待機となった。免許の更新で訪れた人々からは「社会科見学?」と微笑ましく見届けられるが、まさかそれが今しがた違法魔導で暴れる不届き者たちをボッコボコにしてきた魔導士のタマゴたちの集まりだとは思いもよらぬだろう。
しばらく待たされたのち――――警察側もこれだけの人数をどう扱っていいものか検討していたのだ――――数人の警察官が出てきて、彼らにそれぞれ1枚のコピー用紙とクリアファイル、競輪場で配られるボールペンが渡された。何かと思えば、今回の件を『緊急対応』として立件するため、それぞれに今回のできごとの経緯を書かせる、すなわち『反省文』を作らせ、一人ずつ署内へ入り提出=それを基にした「今後は気を付けるように」との『約束』を取り付ける簡単な面接をおこなうのだという。ずいぶんと甘い処置だが、警察にも顔の利く文弥が裏で画策したのは間違いないところだろう。
署内2階の会議室に『窓口』が用意され、それが2つあることから思いの外『面接』はスピーディー。澪の番が回ってくるまで10分と掛からなかった。その澪は――――とてつもなく緊張していた。階段を昇るひと足ひと足が処刑台に登るような心持ちである。なにしろ『討ち入り』することは考えてもそのあとに警察沙汰になるとは思っていなかった。そこまでに考え至らぬところが若さの証ではあるが。
「し、失礼します」
開け閉めの手間を省くため開けっ放しに固定された会議室のドアをくぐり一礼、顔を上げると
「あら? 澪ちゃん?」
正面に座る『面接官』へ改めて視線を合わせると
「あ…河野木、さん…」
知り合いだった。父・文弥の交友関係からというのはもちろんだが、風紀委員としての立場でも、防犯に関する指導として何度か話をしたこともある。
(かぁぁぁぁぁ…こんなところで知り合いに会っちゃうなんて…恥ずかしぃぃぃぃぃ)
「あらあら。澪ちゃんでもこんなやんちゃなことやるものなのねぇ」
「いえ、あの、す、すみませんでした!」
「ふふふ。まぁ澪ちゃんなら大丈夫、って言いたいところだけど、学校内ならいざ知らず、外だとあれこれ法律のお世話になっちゃうから、今後は気を付けてね」
「はい。あの、この度のことは誠に申し訳ありませんでした」
「うん。それでは書類を預かるから。もういいわよ。お疲れ様」
「はい あ、あの! 神代君は…代之宮の人たちは、どういう…処分で…」
「それはこちらでは分からないわね。事情を聞いて、そのあとで判断、ってことになると思うわ」
「そうですか… ありがとうございます。失礼しました」
澪は再び一礼をして会議室を後にした。
免許更新最終の組でごった返すエントランスを抜け外へ。そこには紗々羅をはじめ2-Bのみんなが待っていた。
「澪~、お疲れさ~ん」
「うん。お疲れ様。 …あの、みんな! 今日は、その、ごめんなさい!」
頭を下げた澪にみな驚きの目を向ける。
「え、なにが? なにがごめんなさい?」
「あの、こんな警察まで関わってくるなんて思わなくて…」
「ま、いいんじゃね? そうそうできない経験したわけだし」
「久しぶりに魔導ぶっ放せてスッキリしたし!」
返ってくる返事はどれもこれも明るく陽気。あの教室に在った空気が、今ここにある。
「あとは学校が再開すれば、ってことで。そんときゃ神代も一緒だろ、それでみんな元通りさ」
「そしたらもうウジウジしてなくて済むって。ね、澪!」
「…うん。そうだね」
確かにその通りだが。
(ホントに…元に戻るのかな…)
最後に大樹と言葉を交わすことができず、彼の意思を確認することができず終い。それが澪の心の中に引っ掛かっていた。
最後の一人が出てきたのは19:00を回った頃。夏至を過ぎたとはいえすでに日はとっぷりと暮れ、夜の帳が下りていた。それぞれに『今帰るべき場所』がある。だが再会を誓って解散、2-Bの『同窓会』はここで終わった。
◆
場面変わって、ここは乙菜の部屋。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼女は今、うつ伏せで枕に顔を埋め、足をバタバタさせている。
「はぁぁぁぁ…尊い…」
何やら腐女子のようなことを言っているが…
乙菜は本日、代之宮高校まで出向いていた。澪たちからは「危ないから絶対に来ちゃダメよ!」とクギを刺されていたのだが、自分の情報がガセだったら? 空振りだったら? それが心配で、やはり来てしまったのだ。もちろん直接代之宮の中へ入ることはできないので、校門から少し離れた歩道の植え込みに隠れ、様子を伺っていた。17:00を回り、ゾロゾロとガラの悪い連中が校門をくぐっていくのを見て、まずは情報の正しさに安堵したものの、間もなく聞こえてきた怒声と叫び声に恐怖した。ビビり上がりその場を離れようとしたとき、校門へ向けてさらにゾロゾロとやってきた人の列。その中に澪の姿を認めた。
(澪様が…来た…? え、マジで?)
そうとなれば気が気ではない。澪を案ずる気持ちと好奇心が恐怖を上回り、そっと近づき校門の柱の陰から様子を伺った。もっとも校門周辺はすでにヤジウマの人だかりとなっていたのでそこへ混ざって、となるのだが。
そして――――初めて見る、『魔導』というもの。その圧倒的なチカラに、乙菜は魅了された。
なによりも――――
『さすがね、神代君!』
『お前、あの風のスゲーヤツ、使わねぇの?』
憧れの『澪様』と『神代大樹』という人。息の合った二人の連携。
「…私の入れるスキなんかなかった…」
衝撃でもあり、寂しさでもあり。陽菜が言っていた「スーパーダーリン」というのはあながち間違いでなく、どころか
「…初めて見た。澪様あんな笑顔…」
湘桜で見る澪は、乙菜にとって「高貴なお嬢様」。物静かで、雅やかで。でも大樹の隣で魔導を奮う澪は別人と言ってもいいくらい輝いて見えた。
「あの子が『推す』っていうのも当然ね…私、澪様のこと、何にも知らなかった…」
そして澪たちは、今は仮の湘桜生。いつかは望陵へと帰っていくことは決定事項。だから
「…私は…」
彼女の中に小さな、しかし強固な決意が芽生えた。
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




