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オープニング曲『Altair-アルタイル-』
https://x.com/HanashioKikei/status/2069390019262120191?s=20
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「ただいまぁ…」
20:00過ぎ。澪帰宅。
遅くなるとは伝えてあったがその理由までは言ってはいなかった。まして「警察の御厄介になった」という後ろ暗いところがあれば、おのずと帰宅のあいさつも小声になる。
「お帰りなさいませ」
出迎えに出たかれんの表情はいつもと変わらぬ柔らかいもの。
「お帰りー! 澪ちゃーん!」
ひよりの元気な笑顔もまた然り。
どうやら「今日のこと」は、二人には伝わっていないらしい…と思った矢先。
「…あの澪様、お食事が済んだら書斎に来るよう、文弥様から託ってまして…」
靴を脱ぎ揃えたところで背後からの不意打ちに、澪の鼓動は跳ね上がる。
「あ、あの、はい。その、今すぐ行きます…」
もしかしてすでに伝わっていたのか?と疑心の澪。後ろめたさを読み取られまいと、無意識にもかれんと目を合わせることができず、そそくさと父の待つ書斎へと向かった。
いかにも挙動不審なのだが、かれんもひよりも澪を「見守る」という立場を決めている上に、そもそもこのところずっと澪の様子が不安定なのだ、二人はそれをさほど気にはしていなかった。
◆
コンコン…
〈あの、お父様。澪です〉
「ああ。入りなさい」
〈はい…失礼します…」
澪は神妙な面持ちで文弥の書斎へと入るなり
「あの、申し訳ありませんでした」
と頭を下げる。
「ん? 代之宮高校で大暴れして、警察署で調書の代わりに反省文を提出した、ということについてかな?」
(…なんだ…もう知ってるのか…)
何について謝ったのかを説明しろと言われれば説明しにくいところをサラッと言われ、説明の手間が省けたと思うと同時に、父親がどういったルートで――――当然警察から直接だろうとは分かっているが――――どこまでどのように伝えられたかは分からない。今までもイタズラで叱られることはあったが、しかし今回のこの件は話が大き過ぎる。どれほどの叱りを受けるのか、むしろ「良い子」でいた事の方が多い澪としては全く想像がつかなかった。よって
「はい…」
とだけ、できれば余計な尻尾を出さぬよう、短く答える。頭は下げたまま。文弥の顔を見るのが怖かった。
「澪は、自分の信念に従って行動したのだよね?」
「え、その…」
「ならば謝る必要は無いのではないかな?」
「え…?」
思いもよらぬ返事に、驚いて顔を上げる。文弥は笑っていた。
「言ったはずだよ? 私は澪が考えた上で取った行動について、咎めるつもりはない、とね」
「お父様…」
「私は望陵学園の校長である前に、澪の父親だ。娘を庇うためならなんでもするつもりだ。だから今は、信念に基づいて取った行動には、胸を張りなさい。それが何か残念な結果に繋がってしまったのであれば、それは謝罪も反省もする必要があるがね」
「はい…」
助かったのか、それとも贖罪の先延ばしなのか。それは今は分からないが、間違ったことをしてしまったのであれば、下げる頭はいくらでもある。澪はそう思った。
「君に来てもらったのは他でもない。代之宮高校であったこと、澪が見たことを報告してほしい。警察からはいくらか聞いているものの、やはり当事者が見たもの、その細かなところは本人に聞いた方がいいからね。取り調べをするというつもりではないから、都合の悪いと思ったことは言わなくてもいい。ああ、これは取り調べでも同じことか。君たちが何をしたのかではなく、相手が何をしたのか、それを知りたいのだ。教えてくれるかな?」
「…はい」
(やっぱりお父様はお父様なんだな…)
きっと魔導が関わった事件だと知らされたのだろう。そこに食いつくとはいかにも…と思いつつ、相手のことの報告をしろと言われれば気が楽だ。澪は見たままのこと――――特にそれが『違法魔導』であろうことについては思い出せる限りのことすべてを話した。
「なるほど、やはりそうか」
「やはり、とは、彼らが使っていたのは違法魔導、だと?」
「ああ、間違いない。これは澪をはじめ、魔導に関わる者は知っておくべきことだ。少々話は長くなる。疲れているところをすまないとは思うが聞いてほしい」
「いえ、全然。構いません」
「ふむ。まず私が掴んでいるところでは、澪が見た通り、違法魔導はスマホのアプリの形で頒布される。使用者は基礎構文を受容するための受信機、インストーラーだね、それを介してアプリに登録された構文を使えるようになる。誰でもね」
「誰でもって…魔力なしでですか?」
「そこが違法魔導の面白いところであり厄介なところでもあるのだが、魔導科の入学要件に満たない人でも使えてしまうんだ。ただそのくらいでは本当に初級の構文が使える程度だがね。1年生の時に5要素の基本的な構文を習っただろう? まぁまさにそれさ。それ以上の構文を扱うには魔力が足りないことになるがね。そうではあるが、違法魔導とは言われるものの、理想の技術ではあるんだな」
理想、という言葉が澪には引っ掛かった。
「理想…? なぜですか? それでは正しく魔導を学んでいる私たちが理想ではないと言われているように思うのですが」
日頃からまじめにやっているのに、という思いがある。それゆえに少々食って掛かった。
「無論澪たちが間違っているわけではない。だが、魔導の技術の恩恵を受けるのがごく一部の人たちである、というのは、些か不健全な状態ではあるのだよ。我々がスマホだのAIだのを、誰もが等しく使えるのと同じように、本来ならば魔導もみんなが使えるようでなければならない。それは分かるね?」
「はい、ですが」
「うん、まずは澪の主張を聞く前に、違法魔導がなぜ違法とされるのか、その理由を知っているかな?」
「いえ、それは…法律で禁じられているから、としか…」
「うん、その通り。ではなぜ法律で禁じているのか、その話をしてあげよう。先ほどの違法魔導には話の続きがある。魔力が必要条件に満たない人たちなら、先ほどの話の通りだ。だが、すでに魔力があって、かつ、基礎構文も習得済みの人が使ったらどうなるのか、分かるかな?」
「いえ…いや、もしかして…魔力が上がるのですか?」
「おお、さすが私の娘、ご名答だ。違法魔導が厄介なのは実にそこで、AMI値換算で最大1.5倍ほど魔力が増えるのだそうだ」
「1.5倍…単純計算で、2の人が使ったら3になる。3必要とされる構文が使える、ということに…」
「まさに単純計算の話であって、事はそれほど簡単ではない。構文としてはより容積の大きいものが使えることになるが、結局は構文の設計・構築と、それを使いこなす訓練が必要になる。そこは今と変わらない」
「なるほど。でもそう言われると、使えるものなら使ってみたい、って思ってしまいますね。今の私でももっと難しい構文が使えると言われるとやはり…でも違法なんですよね? 何が問題なんですか?」
「うん。通常の構文は、基礎構文も含め、大脳の新皮質に書き込むことになる。そこは一般的な、普通の情報と同様で、それが正確に使えるまで何度も何度も訓練することになる。そうして旧皮質にある魔力と結び付き、魔導として使えるようになり、同時に魔力もその刺激で成長していく。これは君たちが基礎魔導Ⅰでも学んだ通りだ。違法魔導は、そうしたステップをすべて飛ばして、直接旧皮質へと働きかける。問題はここからで、旧皮質は人の本能を司る部位だ。そこに直接だから旧皮質が誤作動、君たちが言うところの、バグる、という状態になる」
「バグると…どうなるんですすか?」
「分からない。今はまだそうした研究が進んでいないんだ。何しろ人の脳だからね、被験者の人権もあることだ、実験する、というわけにもいかない。人の行動もまた、どこまでが理性で、どこまでが本能で起こっているのかも分かっていない。分からないのに本能に直接働きかけるなんて危険を冒すのはまさに危険極まりない。だから法で規制しているんだ。本能が壊れて、廃人にでもなってしまったら取り返しのつかないことになる」
「治せないのですか?」
「分かっていないことを治すのは不可能だろう?」
「あ、そうか」
「そういうことだ。ちなみにそのアプリ、取引している者たちの間では名を『ガジェット』と呼んでいるそうだ。この名を聞いたら、警戒した方が良い」
「はい。わかりました」
「うん。やあ、話が長くなってしまったね。今日は疲れたろう。もう休むと良い」
「はい。あの…いえ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
その後、澪は自分の部屋へ戻り、今日のこと、そして今文弥から聞いた話を頭の中で反芻していた。とんでもないものを持った人たちと戦ってしまった、と今さらながら震えたりもした。だが駅から代之宮高校まで歩き、さらに警察署まで歩いたのだ、そもそも体力のない澪にこれは堪えた。少し横になるつもりが爆睡、制服のまま眠りについてしまった。
翌朝…点けたままだった部屋の明かりで目覚めた澪は、朝も早くからかれんに頭を下げ制服にアイロンをかけてもらうことになる。無論、かれんは笑顔でそれを聞き入れてくれた。
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




