一人じゃどうにもならねェ
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
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「ん…? 来やがった」
「ウワサ通りだな」
17:00を過ぎたところで代之宮高校の校門をゾロゾロと何者かが入ってきた。その数、49。見れば――――年が大樹たちと同世代には見えない、明らかに18を超えた者が多数、むしろ過半数だ。それに――――ユニフォームと言えるほど揃ってはいないものの全員スカジャン、大雑把に赤系/黄色系/青系の信号機3色に分類でき、大半が赤か黄。背中の刺繍は色とは無関係でバラバラだった。
対する代之宮勢は大樹を含め83。数の上では代之宮が優勢ではある。
「何モンよ、オメェら!」
先頭にいた五十嵐慎一が吠えた。大樹に最初にブッ飛ばされたあの赤アロハ男だ。対する相手からは水色のスカジャンの男が一人、前に出て声を張った。
「俺たちは『破界連合』。ただ一つ、この世界の頂点に君臨するために集まった。まずは県内のクソ野郎ドモをシメて、行く行くはサツもヤクザも、全員俺たちに跪かせる。とりま、今日のトコはお前ら代之宮をシメに来たってワケ。ま、俺たちの靴でも舐める、ってんなら仲間に入れてやってもいいけどヨォ」
「っざけんなっ!」
「いいねぇ、負けが決まっている犬の遠吠え。世の中結果だ、力を持ってんモンが強ぇんだよ。お前ら、俺たちに指一本触れることなく地面を舐めることになんだぜ」
そのやり取り、腕組をした田所と共に大樹は後方で眺めていた。言うなれば大将のポジション。大樹も田所も他の連中よりも頭一つほど大きいので前を見るには困らなかったが。
(アイツら…ボス的なヤツがいないのか?)
見る限り『陣形』がこちらとは違う。誰かを中心に集まっているのではなく、なんとなくバラバラな、というのが大樹の印象。1対多人数のケンカも多数経験してきた大樹の目には、それはいささか異様に映った。
「なぁ、田所。これ、端から順にブン殴っていきゃいいのか?」
「ムチャ言いやがる。お前、平和主義者なんじゃねぇのか?」
「平和主義者だぞ? いつもは『群れ』の中で一番エラそうにしてんヤツをブン殴っておとなしくさせちまえばそれで終わるからな」
「いつも一人でそうしてたのか?」
「まぁな。仲間なんてのがいた事なかったからな」
「ふっ、そうかよ。それじゃ分からねぇだろうが、大所帯同士のケンカってぇのにはそれなりに作法ってモンがあんのよ。ワシらの出番は最後の最後、それが回ってこねぇ方がいい。まぁこんだけの数揃えた上にお前に鍛えてもらったんだ、そうは簡単にやられねぇだろうが、こんだけの人数の差があってアイツら音楽聴きながらで余裕ぶちかましてやがる」
「音楽? あの頭の輪っかがそうなんか?」
「何だよ神代、知らねぇのかよ。骨伝導イヤホンってヤツだ」
「そうなのか。知らなかった」
「マジかよ…」
確かに。相手はみな一様に、後頭部からこめかみヘグルっと回り込む輪っかがあった。そしてそこから伸びるケーブルと共に両手は上着かズボンのポケットの中。その姿、虚勢を張って強がってるように見えなくもないが、しかし顔には余裕が浮かぶ。
「ココのアタマは誰だ? 田所ってヤツだ。その、一番後ろにいるうすらデカいヤツか?」
「テメェ、田所さんを!」
「いい、ほっとけ」
田所は腕組のままで動じていない。
「いかにも。ワシが田所だ」
「ケガすん前に聞いといてやんよ。で? やんのかよ? やりゃ俺たち勝っちゃうけど」
「やりもせずよく言う。これだけの戦力差、お前らこそワシらとやろうってぇのか?」
「人数じゃねぇんだよ、力の差ってのは。数だけ揃えりゃ勝てるってバカはもう通用しねぇんだよ」
「バカでも結構。それが答えだ」
「ホント、バカだねぇ。ちっとは楽しませてくれよ。そんじゃやんぞ。『ガジェット』用意。『炎』が先攻だ」
水色のスカジャンはそう言って背負向け、代わりに赤い連中がズラッと前に並ぶ。
「これが俺たちの『力』だ。目ん玉ひん剥いてよく見てろ! ヒャッヒャッヒャッ!」
各々ポケットから引き抜いた手、片方は大樹たちに翳し、もう片方にはスマホが握られていた。
「喰らえッ! 【ファイヤーボール】ッ!」
『掛け声』と共にスマホを握る指がディスプレイをピッとフリック。同時に翳した掌の前で赤い光が燃え上がって膨張し、野球のボールほどまで大きくなると代之宮勢目掛けて次々と矢のように飛んでいく。
それは少年野球のピッチャーの球速程度だが10mあるかないかの距離、体感到達時間は時速150kmで飛んできたボールと変わらない。前衛にいた者は逃げる間もなく、次々と火の玉の餌食となった。
「アチッ⁉ アチィッ⁉」
「ヤベェッ! お前シャツ燃えてんぞッ!」
「水! 水を撒けッ!」
半袖シャツから伸びた腕や顔にそれを受けた者は炎の熱を直に味わい、不幸にも衣服に着いた者はとっさにシャツを脱いだり、煙と焦げた臭いをまき散らしながら走り回る。当然殴り合いになるものと思っていた代之宮勢にとっては予想外、阿鼻叫喚だった。
(これは…魔導…?)
大樹はそれの正体が分かった。なにしろつい先日までそれを間近で見ていたのだから。しかし違和感はある。
(けど構文の名前はあっても詠唱ってのがない…どういうことだ?)
「ギャハハハハハ!」
「まだ燃えてんぞ! 早く消さねぇと消し炭になっちまうぜェ! ギャハハハハハ!」
間もなく正面玄関脇の手洗い場から引いたホースリールから水が撒かれ鎮火には至ったが。
「水が欲しいってかぁ? ならくれてやんよっ!」
今度はスカジャン青組が前に出る。
「【ウォーターボム】ッ!」
赤組と同じように手を翳してスマホをフリックすると、ホースから噴き出す水、今しがた撒かれた水がいずれも球の形を成して乱れ飛び、バシャッバシャッと代之宮の誰彼なく襲い掛かった。
「クソォッ!」
「コケにしやがってッ!」
代之宮からは怒声が飛び交う。そればかりか。
「グヌヌヌゥッ! 黙ってはおれんッ!」
後方で推移を見届けるつもりの田所だったが、履いていた鉄下駄を投げ捨て戦闘準備に入った。
「やんぞォッ!」
「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
田所の「やる気」を見た代之宮勢が一斉に飛びかかったその時。
「ホント、バカだねぇ。それじゃ『雷』部隊、行くぜ」
赤組に変わり黄組が先頭へ、しかし手を前へ翳すのではなく地面へ着け、スマホをフリック。
「【ブルーライトニング】ッ!」
パァッ…
まさに光の速さ。地面に撒かれた水に沿って青白い光が代之宮勢へ向け走った。
「グァッ⁈」
「ガァッ⁈」
次々とその場へ崩れていく。
「ガ…ア…」
ドオォッ
「な、田所ォッ⁈」
突如膝から崩れた田所に大樹が驚きの声を上げる。よしんば鉄下駄を履いていたにしても結果は同じであったろうが、裸足になったのはマズかった。水を伝った電流は田所の足元から全身へと駆け抜けたのだ。
田所のみならず、水溜りに足を踏み入れていた者は田所同様ことごとくその場へバタバタと倒れ伏せた。その数、半数に及ぶ。
「ハァッハッハッハッハッ! さすが県下に名立たる底辺校・代之宮、バカ揃いだぜ! 魔導には『雷』の要素があることすら知らねぇってか!」
仕掛けた黄色のスカジャン男は高笑い。
「知らなかった…」
「電気って水の中を流れるんだ…」
「だから濡れた手でコンセント触っちゃダメなんだ…」
一方、殴りかからんと踏み出したはずの代之宮勢は急な形勢の変化に大いに怯み、ジリジリと後ずさった。
「コレが俺たちの『力』だ。どうすんだよ。ああン? これでもまだやるってのかァ?」
黄色のスカジャンはさらに煽る。その時。
「よくも…真人をォォォォォォォッ!」
小さな影が飛び出した。それは、実戦用にと新調した木刀を握ったチビスケだった。大樹を狙うときと同じように、姿勢を低く突っ走り、敵目掛けて突進する。
「なんだぁ? このチビ」
「うわァァァァァァッ!」
いつも背中を見せていた大樹を不意打ちするならともかく、バカ正直に真正面から挑めばことごとく躱されてしまう。
「僕だってッ!」
振り回す木刀は気持ちと同じく空を切る。
「チッ。ウッゼェな。【ファイヤーボール】!」
「あっ⁈」
「【ウォーターボム】!」
「ああっ」
「【ブルーライトニング】!」
「あ…」
ドサッ…
「こんなとこに小学生連れてきてんじゃねぇよ」
一斉攻撃に蹂躙されたチビスケは――――その場に静かに崩れ落ちた。
「チ…チビスケェェェェェェェッ!」
人垣を掻き分け大樹は駆け寄る。
「オイ、しっかりしろ! チビスケ! チビスケッ!」
ぐったりしたまま返事の無いチビスケを抱える大樹へ一斉に魔導を放つ手が向けられた。
「オイみんなッ! 神代を囲めッ! 神代を守るぞッ!」
「「「「「オオッ!」」」」」
「ビビんなッ! やんぞッ!」
「よくもチビスケをォッ!」
「やられる前に殴りゃいいッ!」
進撃の代之宮は大樹の周りへと人垣を作るが――――
「来たぞォ! 遠慮なくブチ込めェ!」
火球。水球。電撃。得体のしれない魔導が次々と人垣を襲った。人に当たらず逸れたモノは、あるいは校舎の壁を焦がし、あるいは植え込みを倒し、あるいは地を爆ぜる。塗装が焼けた臭い。掘り起こされた土の臭い。校舎に反響する破裂音。日常に無かったものが今ここに在る。もはや代之宮高校前庭は戦場――――いや、その言葉すら生温い。手を出せず一方的に攻められれば虐殺と言えよう。人垣は1枚、また1枚と剥がされていく。
「どういうつもりだよッ⁈」
「どうもこうもねぇッ! 最後の砦のお前がブッ倒されちまったら元も子もねぇだろうがッ!」
「バカ言ってんじゃねぇッ! オレはこういうの効かねェんだってッ!」
「んなワケあるかッ! 火も電気も効かねぇ人間なんかいるわけ ガハァッ⁈」
あるいは電撃を食らって崩れ落ち、あるいは背中の炎を消すのに転げまわり、あるいは水で弾き飛ばされ。敵をブチのめしはするのもの、その倍の消耗で次々と戦列を離れていく。今この瞬間にもまた一人。電撃を背中に受けて膝から崩れた。
「オイッ⁈ クッソォォォ… オイ、チビスケを頼む」
「お、おおッ!」
そばにいた者にチビスケを託すと大樹は人垣の囲いを抜け、黄色のスカジャンを一人フン捕まえた。
「テメェ! ざけんなァッ!」
バキィッ
「ガァッ⁈」
大樹の右を一発食らったものの、体勢を立て直すとスマホの画面をフリック。
「クッソ、テメェ、これでも食ら あ、れ? なんでだ? 『ガジェット』が動かない?」
「知るかッ!」
ドガッ
「ガァッ⁈」
「次はテメェだッ!」
スカジャンを捕まえては殴り、捕まえては殴り、劣勢の代之宮勢にあって破界連合を次々と倒していく大樹だがまさに孤軍奮闘。大樹一人ががんばったところで敵はまだ30余人の戦力を残す。
(クソッ! オレ一人じゃどうにも…)
見回せばあれほどいた味方も今や数えるほど。この瞬間にも一人、また一人と味方が倒されていくのを見過ごすしかできない。大樹の心がそんな無力感・絶望感に支配されようとした、その時。
「ご機嫌いかがかしらっ!」
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エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




