表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

需要

「え?こんなに?」


マゼンタ・フィールドから北に進んだ農村、モーブ・ファームにて。


商業ギルドに立ち寄った一行は、「もう売上金受け取れるんじゃないかしら」「さすがにまだですよ~」「ダメ元で行ってみろ」のやり取りを経た結果、旭が受付に行ったのだが、何とそこで想像以上の売上金を受け取った。


薬草丸は一回の生成量30錠あたり780アレンとしていた。

ちなみにアレンはこの国、アレクサンドロス王国の通貨単位だ。


旭がギルドに提供したレシピを利用して薬草丸を作り販売した場合、その売上金の一部をギルドに納め、そこから手数料を引かれた残り、75アレンが旭に渡ることになっている。

今回旭が受け取った金額は3600アレン。

つまり、ほぼ一時間に一回のペースで利用された計算になる。


「嘘でしょ」


思わず旭は呟いた。

反響が大きすぎる。

そんな旭を見た受付のお姉さんは、くすりと笑った。


「嘘ではありませんよ。今回の樋田様の発明は画期的でした。主に冒険者たちの間で需要が高まって、飛ぶように売れているようです」

「そ……そうですか……」


それ以上言えず、旭は苦笑する。



レオとエヴァの元に戻り報告すると、二人とも大層驚いた様子だった。

エヴァは手を叩いて喜び、普段クールなレオも珍しく目と口を開いてぽかんとしている。

推しの貴重な表情変化に、旭は内心ガッツポーズをした。



そんな三人がギルドから出ると、待ってましたとばかりに複数の人に囲まれた。

何事かと戸惑う旭とエヴァをレオは背中に隠し、短剣に手を掛ける。


「何だあんたら」


レオが警戒心たっぷりに低い声で言うと、一人が慌てたように両手を振った。


「ち、違うんだ!害意はない。あんた、『薬草丸』の発明者だろ?相談があって待ってたんだ」

「相談?」


ひょこっと顔を出す旭を、まだ警戒を解いていないレオがじろりと睨む。

旭も知らない人たちは怖いが、自分が作った薬のことで相談があるというのならば聞かないわけにはいかない。

もし副反応が出た等という話ならば緊急性が高いので尚更だ。


(一人で行くのは怖いけど……レオさんとエヴァが付いてきてくれるなら心強い)


旭はちらりと横目で、前に立っているレオを見る。


「レオさん……私、お話を聞きたいです」

「……分かったよ」


レオが舌打ちをしながら、渋々といった様子で承諾する。


「それじゃ、場所を移しましょう」


エヴァの一言で、一同はぞろぞろと広場へ向かった。


◇◇◇


「話を聞いてくれてありがとう。我々は薬師連合だ」

「薬師連合……」


そういった団体があるとは初耳だ。


「それで、相談とは何でしょう。薬草丸で何か問題でもありましたか?」

「いや、全くない。むしろ人気すぎて困ってるくらいだ。相談というのは、別の薬草でも『薬草丸』みたいなものを作れないかということだ」

「えっ?」


旭は目をぱちくりとさせる。

薬師の人たちが取り扱っている薬草類には、回復の薬草の他に、麻痺草、毒草、それを解除するための麻痺治し草、解毒草などがあったはずだ。

それぞれの毒性に対する解毒薬がすでに見つかっているなんて、成分解析が随分進んでいる世界だと思っていたが、形態は草から発展していないらしい。


(そうだよね……。今気づいたけど、薬草丸で丸剤の存在を知ったら、他の薬草でもって思うのは当然だよね)


考える旭に、薬師連合の代表とおぼしき男がぽつりと言う。

彼は手袋をしていた。

指先がほんの少し緑色に染まっているのは、薬草の色だろうか。


「丸剤という形は……正直に言えば、我々も衝撃だった」


代表の目が一瞬だけ鋭く光る。

空気が、わずかに張り詰めた。


「既存のやり方が通用しなくなる可能性もある」


旭はぎゅっと心臓を握られた心地がした。

……自分の善意が、誰かの仕事を奪うかもしれない。

旭がやったことは技術革新でもあるが、同時に既得権益を脅かす行為でもある。

こんな事態になるとは全く想定していなかった。

旭がごくりと唾を呑む。

代表が旭をしばし見つめたあと、そっと言った。


「……だがまあ、時代とはそういうものだ」

「えっ?」


旭が思わず代表を見ると、代表はさっきとは打ってかわって、にっと笑顔を浮かべた。


「我々もやり方を変える時が来たのだ。古いものはこうして新しいものに変わっていく。その時代の波に、我々も乗せてほしい」


旭は暫く固まったが、やがてふう、と息を吐いた。

薬師連合の人たちも迷いはあるのだろうが、それでも、前に進もうとしている。


旭はうーんと考える。


「できないことはないと思いますが……少し時間が欲しいです」

「勿論だ!考えてくれるだけでありがたい」

「もしできたらまたギルドにレシピを提供する形でよろしいですね?」

「ああ」


レオの「安請け合いしやがって」という呟きが聞こえ、旭はドキッとして振り返ることができなかった。



代表が、旭に問いかける。


「それで……ついでと言っては何だが、旭さんも薬師連合に入らないかい」

「えっ……薬師連合に?」


どうしよう、と旭は汗を一筋流す。

薬師連合の実態もよく分からないし、入って何かメリットがあるのかが不明だ。

年会費とかかかるなら嫌だし、自分は旅をしている身なので、そもそもそれで加入できるのかも謎だ。


「ええっと……」


モゴモゴと小さい声で言葉を濁す旭に、代表の男が言葉を続ける。


「何、難しいことはないよ。何かあるときに連携を取りやすくするための組織だ。今回の薬草丸のようにね」

「薬師連合に入ると、薬の情報が得やすくなるということ?」


エヴァが口を挟むと、代表が「その通り」と頷く。

旭はそれを聞いてハッとした。

薬の情報が得やすくなるということは、今出ている薬草丸、そしてこれから出すかもしれない薬の使用状況、効果、副反応等の情報も手に入れやすくなるということだ。

薬の開発者としてこれらの情報は常にチェックしておきたい。


「こいつはオレたちと一緒に旅をしているが、住所固定じゃなくてもその組織は入れるのか」


レオが尋ねると、代表はレオを見て頷いた。


「ああ。住所が定まっていなくても、定期的にギルドに顔を出してくれれば問題ない。ギルドを通して連絡を受け取れる状況にしておいてくれれば大丈夫だ」

「なるほど」


レオがふいと目線を逸らす。

旭が流れに乗って質問した。


「あの……年会費は……」

「年会費?そんなものはないぞ」

「あっ、ありがとうございます」


お金のことを聞いたのが恥ずかしくて旭は顔を赤らめたが、一瞬縮こまりかけた背筋を堂々と伸ばすことにした。

お金は大事だ。


「聞きたいことはもうないかい?」

「はい、大丈夫です。薬師連合、私も入ります」

「そうかい!良かったよ。じゃあ後でギルドを通して手続きをしておいてくれ。これからよろしくな」

「はい。こちらこそ」


薬師連合の団体はぞろぞろと帰っていった。


◇◇◇


「あんた、薬開発なんて短期間でできんのかよ。ここは二人目の四天王に最も近い村だぜ。あんまり長期間はのんびりできない」


レオが顔をしかめて言う。

薬開発自体は反対していないようだが、魔王討伐に支障が出ないか心配しているようだ。


「すみません……。なるべく急ぎます。あんまり時間がかかるようだったら諦めますので」


そんな旭に、エヴァが気遣うように言った。


「手伝えることがあったら言ってね。私とレオはこれから資金集めのためにモンスター狩りに行くけど、必要な薬草とかあったら一緒に摘んでくるから」

「ありがとうございます」


旭は答えながら、心の中で決意していた。


諦めるなんて言ったが、諦めたくはない。

この世界の人たちは、薬草等をそのまま草の状態で食べて摂取している。

薬草丸のように、他の薬草も錠剤や丸剤になったら、皆助かるはずだ。


前の世界では、自分の欠点で足を引っ張っているばかりで、誰かの役に立っている実感なんてなかった。

でも今は違う。

ここには……自分の薬を待っている人がいる。


そしてその中には、レオとエヴァもいる。

自分のすることが、魔王討伐にも役に立つはずだ。

二人目の四天王が間近にいるこの村で、悠長にしてはいられない。


(なるべく急いで作らなきゃ)


旭は右手をぐっと握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ