第99話 本当の距離
朝、庭に出ると、女性は少し離れた場所にいた。
昨日と同じ距離。
それよりも、少しだけ安定している。
迷いが少ない。
私は小道を歩く。
視線は向けない。
それでも、気配は分かる。
女性は動かない。
ついてこない。
ただ、そこにいる。
川辺に向かう。
石に腰を下ろす。
水は変わらず流れている。
しばらくして、足音が聞こえる。
ゆっくりと。
だが、昨日とは違う。
止まらない。
女性は、少し離れた位置に立つ。
近づかない。
「……おはようございます」
「おはようございます」
距離はそのまま。
昨日より自然だった。
「今日は」
女性が言う。
「ここに来るの、少しだけ迷いました」
「そうですか」
「でも、来ることは決めていました」
私は水面を見る。
女性は続ける。
「近くに行くかどうかは」
少し間を置く。
「その場で決めようと思って」
風が流れる。
「今日は、ここでいいと思いました」
私は何も言わない。
それでいい。
午前中、女性は自分の場所にいる。
ベンチに座る。
立ち上がる。
歩く。
戻る。
誰にも合わせない。
誰にも合わせられない。
だが、止まらない。
昼過ぎ、食堂に入る。
女性は席を選ぶ。
一度止まる。
少し考える。
そして座る。
そのあと、こちらを見ない。
確認しない。
それだけで、変わっている。
午後、庭に出る。
女性はベンチに座っている。
私が通り過ぎる。
女性はそのまま。
立たない。
ついてこない。
だが――
少しだけ、顔を上げる。
目が合う。
何も言わない。
それで終わる。
夕方、川辺に立つ。
女性は少し遅れて来る。
昨日と同じ距離。
「……離れても」
女性が言う。
「不安はあります」
「ええ」
「でも」
少しだけ息を吐く。
「近づかなくても、大丈夫でした」
私は頷かない。
それでいい。
女性は少し笑う。
「ここにいることは」
少し間を置く。
「変わらないんですね」
私は水面を見る。
「ええ」
夜、部屋に戻る。
窓を開ける。
風は変わらない。
距離は変わる。
関係も変わる。
だが、ここにいることは変わらない。
私は灯りを落とす。
女性は、離れたまま立っている。
それでも――
同じ場所にいる。
依存から距離へ、そして「関係の再定義」まで来ました。
この章はここで一つの区切りです。
ただし終わりではなく、ここからまた静かに広がっていきます。
この距離がどう続いていくのか、
そして次に何が来るのか。
ぜひ次話もお付き合いください。
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