第97話 選ばないという選択
朝、女性は最初から隣にいた。
距離は、昨日と同じ。
いや、少しだけ近い。
私は何も言わず、川辺へ向かう。
女性もついてくる。
足音は迷いがない。
だが、軽くもない。
石に腰を下ろす。
女性も、少し遅れて座る。
「……昨日の続きですが」
声は落ち着いている。
「ええ」
女性は少し間を置く。
「離れられませんでした」
私は水面を見る。
「そうですか」
「分かっているのに」
彼女は続ける。
「よくないって思っているのに」
風が流れる。
「それでも、ここに来てしまう」
私は何も言わない。
女性は少しだけ笑う。
「逃げているんだと思います」
その言葉は、静かだった。
だが、はっきりしている。
午前中、女性はずっと同じ距離にいた。
動くたびに、ついてくる。
止まれば、止まる。
離れない。
誰も何も言わない。
昼過ぎ、食堂に入る。
女性は席を選ぶ。
だが、その前に一度、こちらを見る。
そして座る。
安心したように息を吐く。
私は見ない。
午後、庭に出る。
女性はまた近づいてくる。
今度は、少しだけ早い。
「……決めました」
彼女が言う。
私は足を止める。
「何を」
女性は少しだけ息を吸う。
「今日は、選ばないことにします」
その言葉は、奇妙だった。
だが、はっきりしている。
「選ばない?」
「はい」
女性は続ける。
「一人で選ぶのが怖いなら」
少し間を置く。
「無理に選ばなくてもいい、と」
私は水面を見る。
「そうですか」
女性はうなずく。
「近くにいることを、選びます」
その言葉は、依存を肯定していた。
だが、逃避ではない。
「選ばないことも、選択だと思うので」
私は何も言わない。
それを否定しない。
女性は少しだけ安心した顔をする。
夕方、女性は同じ距離にいる。
動かない。
無理に離れようともしない。
ただ、そこにいる。
夜、部屋に戻る。
窓を開ける。
風は変わらない。
選ばないという選択。
それは、前に進むための回り道かもしれない。
私は灯りを落とす。
女性は止まった。
だが――
そこから、動けるのかはまだ分からない。
ここで一度「依存を否定しない」という段階に入りました。
無理に離れさせるのではなく、
自覚させた上でどう動くか。
この先で“本当の自立”に入ります。
ここからが一番面白いところです。
ぜひ続きも見てください。
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