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婚約破棄されたので、距離を取ったら溺愛されました  作者: はねださら


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第89話 変わらない規則

翌朝、庭はいつも通りだった。


ラウルが座っていたベンチには、

別の滞在者が座っている。


違和感はない。


誰かが去れば、誰かが座る。

それだけのこと。


私は小道を歩き、川辺へ向かう。


水の流れも、風の音も変わらない。


何も残らない。


それが、この場所の形だった。


午前中、ユリウスが帳簿を手に庭を歩いていた。


歩みは一定で、視線は落ち着いている。


ラウルがいなくなったことに、

特別な反応はない。


「滞在者数は変わりません」


管理人に報告する声が聞こえる。


「問題は?」


「ありません」


短い会話。


それで終わる。


私は石に腰を下ろす。


本を開くが、読んではいない。


しばらくして、門の方で声がした。


「こちらで間違いありませんか」


聞き慣れない声だった。


私は顔を上げる。


門の前に、若い女性が立っている。


旅装だが、少し整いすぎている。


荷物も少ない。


だが、視線は落ち着いていない。


周囲を見回す。


確認するように。


管理人が迎える。


「ようこそ」


女性は一礼する。


「……ここが、その静養地ですか」


「ええ」


「規則について伺いたいのですが」


その言葉に、風が少し止まる。


管理人は変わらない。


「特に設けておりません」


女性は一瞬、言葉を失う。


「……では、どうやって運営を」


「特別なことはしていません」


私は小道の端で、そのやり取りを見る。


女性の視線が揺れる。


理解できないものを見る目だった。


「時間の使い方は自由ですか」


「ええ」


「食事や活動の指示は」


「ありません」


女性は小さく息を吐く。


「……それで成り立つのですか」


管理人は穏やかに答える。


「困っていないようです」


その言葉に、女性は黙る。


昼過ぎ、食堂にその女性が現れる。


席に座るが、落ち着かない。


視線が動く。


誰が何をしているかを確認している。


ラウルとは違う。


これは、探している視線だ。


「何か決まりはありませんか」


女性が周囲に聞く。


年配の滞在者が答える。


「特には」


「ですが、何か基準がないと」


「困っていませんので」


女性は言葉を止める。


納得していない。


午後、庭に出る。


女性はベンチの前で立っている。


座らない。


決められないのだろう。


私は少し離れた場所に座る。


声はかけない。


しばらくして、女性が言う。


「……どこに座ればいいのか」


独り言のようだった。


私は水面を見る。


「どこでも」


女性は振り向く。


「それでは、選べません」


私は答えない。


夕方、川辺に立つ。


女性は少し離れた場所で立ち止まっている。


水を見ているが、近づかない。


夜、部屋に戻る。


窓を開ける。


風は変わらない。


規則がない場所。


それは、自由ではあるが、

選ぶ必要がある場所でもある。


私は灯りを落とす。


この人は、まだ選べない。


それが、少しだけ

この場所に影を落としていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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