第82話 肩書きを持ち込む人
朝、庭に出ると、ラウルはすでに歩いていた。
同じ小道を、同じ速さで。
歩幅も揃っている。
まるで測っているようだった。
私はベンチに座り、本を開く。
ラウルはしばらく歩き続け、
やがて私の前で立ち止まった。
「少し、よろしいですか」
「ええ」
彼は姿勢を正す。
「私は、以前は行政に関わっていました」
説明というより、報告の口調だった。
「王都の都市管理局です」
私はページをめくる。
「責任のある仕事だったので」
彼は少し言葉を選ぶ。
「常に判断を求められていました」
「そうですか」
「ここへ来るよう勧められました」
私は顔を上げない。
「医師に」
「ええ」
ラウルは庭を見渡す。
「しかし、どう過ごすべきか分からない」
その声は、昨日と同じだった。
困っている人の声。
「日課はないのですか」
「ありません」
「目標も?」
「特に」
ラウルは少し考える。
「それでは、改善の確認ができません」
私は湯のみを持つ。
「確認しなくても、困らないなら」
ラウルは小さく息を吐く。
「その言葉、ここで何度も聞きました」
「便利なので」
彼は少しだけ笑う。
だがすぐに真面目な顔に戻る。
「私は、何か役に立てませんか」
私は本を閉じない。
「ここでは、役割はありません」
「しかし」
「役割があると、休めません」
ラウルは黙る。
その言葉は、彼の肩に落ちた。
午後、食堂で彼は帳簿を見ようとしていた。
ユリウスが静かに止める。
「こちらは管理用です」
「申し訳ない」
ラウルはすぐに手を引く。
夕方、川辺に立つ。
ラウルは遠くで立ち止まっている。
水を見ているが、近づかない。
役割を探している人の立ち方だ。
夜、部屋に戻る。
窓を開ける。
風は変わらない。
肩書きを持って来る人は多い。
でも、ここでは置いていく必要がある。
私は灯りを落とす。
それに気づくまで、
少し時間がかかる人もいる。
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