第78話 広がる方法
朝、庭に出ると、門の外に小さな馬車が停まっていた。
装飾の少ない、実務用のものだ。
管理人とユリウスが話している。
声は落ち着いている。
「王都の医師団からだそうです」
御者がそう言う。
「視察ではなく、確認だけとのこと」
管理人は少し考える。
「確認、ですか」
「ここで何をしているのかを」
私は小道の端に立ち、その会話を聞く。
ここで何をしているのか。
答えは簡単だ。
何もしていない。
ユリウスが紙を受け取る。
「質問が三つあります」
「何でしょう」
「療養の手順」
管理人は首を振る。
「ありません」
「二つ目。滞在期間の基準」
「決めていません」
「三つ目。回復を判断する人」
管理人は少し笑う。
「いません」
御者は困った顔をする。
「それでは、報告が書けません」
ユリウスが静かに言う。
「書かなくても問題ありません」
御者は一瞬言葉を失う。
やがて頷き、馬車に戻る。
馬車はすぐに門を離れた。
庭はまた静かになる。
午前中、ベンチに座ると、ユリウスが近くを通る。
「外では、方法が必要なようです」
「そうですか」
「ですが、ここにはありません」
私は頷く。
午後、食堂で年配の滞在者が言う。
「もし真似しようとしても難しいでしょう」
「なぜですか」
「方法がないからです」
小さな笑いが起きる。
夕方、川辺に立つ。
水は変わらず流れている。
彼が隣に来る。
「方法がない方法」
「ええ」
「広がるでしょうか」
私は少し考える。
「困っていない人が増えるなら」
「それで十分ですね」
夜、部屋に戻る。
窓を開ける。
外では方法を探している。
ここでは、探さない。
私は灯りを落とす。
広がるとしても、
それは方法ではない。
ただ、急がない時間だった。
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