第79話 真似される場所
昼過ぎ、ユリウスが一枚の紙を持って庭に出てきた。
「別の静養地ができたそうです」
管理人が顔を上げる。
「王都近くに」
「早いですね」
管理人は驚かない。
ユリウスは紙を読み上げる。
「規則は少なく、滞在者の自由を尊重する方式」
年配の滞在者が小さく笑う。
「こちらの真似ですか」
「そう書かれています」
私はベンチに座りながら、その会話を聞いていた。
真似。
それは不思議な言葉だった。
ここには特別な形がない。
形がないものは、どう真似するのだろう。
午後、庭に新しい滞在者が来た。
旅装の女性だった。
管理人が案内をしている。
「こちらでは、特別な療養法はありません」
女性は少し戸惑う。
「それでも、皆さん回復されると聞きました」
「困らなくなる方が多いようです」
女性はゆっくり頷く。
庭を見渡す。
誰も急いでいない。
誰も指示を出していない。
「……静かですね」
「ええ」
それだけだった。
夕方、川辺に立つ。
彼が隣に来る。
「真似される場所になりましたね」
「そうですね」
「変わりますか」
私は水面を見る。
「変えないので」
彼は小さく笑う。
「それが一番難しい」
夜、部屋に戻る。
窓を開ける。
風は同じだ。
外では、似た場所が増える。
でも、ここは変わらない。
真似されても、
同じにはならない。
ここは、ただの場所。
私は灯りを落とす。
それで、十分だった。
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