第48話 変わらない朝
朝、目を覚ますと、光がやわらかく差し込んでいた。
特別な夢も見なかったし、胸が騒ぐこともない。
ただ、いつも通りの朝だった。
私はゆっくりと起き上がり、窓を開ける。
冷たい空気が入り込み、部屋の中を整えていく。
「……今日も、ここね」
確認ではない。
もう確かめる必要がない言葉だった。
食堂へ向かう廊下は静かで、
足音がよく響く。
扉を開けると、椅子が二つ並んでいる。
以前からそうだったように、自然に。
彼はすでに席に着いていた。
「おはよう」
「おはようございます」
それだけで十分だった。
今日の予定を聞かれることもない。
これからの話をすることもない。
スープの湯気が立ちのぼり、
窓の外では鳥が鳴いている。
「今日は、風が穏やかですね」
彼が言う。
「ええ」
返事をしながら、私は思う。
ここにいる理由を、
もう探していない。
戻る場所としてではなく、
選び直す場所としてでもない。
ただ、いる。
午前中、庭を歩く。
木陰のベンチに腰を下ろし、本を開く。
遠くで誰かが笑う声がした。
新しい滞在者かもしれないし、
以前からいる人かもしれない。
気にならない。
私はページをめくる。
時間はゆっくり進む。
昼過ぎ、川辺へ向かう。
水は変わらず流れている。
彼は少し遅れてやってきたが、
並んで立つことも、立たないことも、どちらでもよかった。
「……落ち着いていますね」
彼が言う。
「ええ」
私の声は静かだった。
落ち着いているのは、場所なのか、
私なのか。
たぶん、両方だ。
夕方、屋敷へ戻る。
管理人とすれ違う。
「最近、空気が安定しています」
「そうですか」
それ以上、説明はない。
夜、部屋に戻る。
灯りを落とす前、窓の外を見る。
遠くで風が揺れている。
ここにいるのが自然になったとき、
物語は終わるのだと思っていた。
でも、終わっていない。
私は、まだここにいる。
戻るためではなく、
何かを証明するためでもなく。
ただ、ここにいる。
それだけで、
朝はまた来るのだと、分かっていた。
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