第46話 噂話の外側
その話を聞いたのは、偶然だった。
食堂の隅で、使用人たちが小さな声で話している。
私に聞かせるつもりは、ないらしい。
「……王都では、いろいろ言われているそうですよ」
「そうなの?」
「ええ。あの方と一緒にいる、とか」
声は、私の名前を出さない。
けれど、誰のことかは分かる。
私は、立ち止まらなかった。
聞こえなかったふりをして、席に着く。
椅子は二つ並んでいる。
今日も、変わらない。
朝食を終え、庭に出る。
空は高く、雲がゆっくり流れている。
噂話は、空よりも遠い場所のものだった。
午前中、川辺で過ごす。
彼は少し離れたところにいる。
「……何か、聞きましたか」
ふいに、彼がそう言った。
「いいえ」
嘘ではない。
詳しいことは、何も聞いていない。
「そうですか」
それ以上、話は続かない。
聞いたかどうかより、
聞く必要があるかどうかの方が大事だった。
午後、屋敷に戻る。
管理人が帳簿を閉じながら言う。
「最近、外からの問い合わせが増えています」
「そうですか」
「ですが、こちらでは特に対応は変えません」
それが、この場所の方針だった。
夕方、庭を歩く。
彼と並ぶが、距離は昨日と同じ。
「……噂は、勝手に広がりますから」
彼が、ぽつりと言う。
「ええ」
「否定しますか」
私は少し考えてから答える。
「必要なら」
「今は?」
「今は、必要ありません」
それで十分だった。
夜、部屋で灯りを落とす前、
私は今日一日を振り返る。
外では、言葉が先行している。
でも、ここでは何も決まっていない。
噂は、内側に入ってこない。
扉の外で、勝手に形を変えているだけ。
窓を開けると、夜風が入る。
「……外側の話、ね」
そう呟いて、目を閉じる。
ここにある距離は、
噂よりも静かで、
噂よりも確かだった。
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