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婚約破棄されたので、距離を取ったら溺愛されました  作者: はねださら


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第45話 変わらない距離

翌朝、空は澄んでいた。


窓を開けると、ひんやりとした空気が入ってくる。

私はそれを胸いっぱいに吸い込み、身支度を整えた。


食堂へ向かうと、彼はすでに席に着いていた。

椅子は二つ並んでいる。


「おはよう、リリア」


その一言で、昨日が終わった。


「おはようございます」


私の返事も、普段通りだった。


理由は聞かない。

説明も求めない。


名前を呼ばれなかった一日が、

何かの前触れだったわけでもないと、

自然に分かる。


朝食のあいだ、会話は少ない。


「今日は、少し雲が出そうですね」


「ええ」


それだけ。


昨日と同じ。

昨日と違うのは、意識だけだった。


午前中、庭を歩く。

今日は並んで歩いている。


歩幅は合わせていないが、

離れもしない。


「……川へ行きますか」


「そうですね」


提案でも、誘いでもない。

ただ、流れの中で決まる。


川辺では、

いつもの石に、それぞれ腰を下ろす。


名前を呼ばれたことを、

改めて確かめる必要はなかった。


距離は、昨日と同じ。

近づいても、離れてもいない。


午後、屋敷に戻る。

管理人とすれ違う。


「今日は、穏やかですね」


「そうですね」


それだけ。


誰も、昨日のことを話題にしない。


夕方、庭に出ると、

新しい滞在者が木陰に座っていた。


彼女は私たちに気づき、

軽く会釈をする。


私も、同じように返す。


特別な視線は向けられない。

特別な説明もいらない。


夜、部屋で灯りを落とす前、

私は一日を思い返す。


名前を呼ばれなかった日。

名前を呼ばれた今日。


どちらも、

この距離の一部だった。


「……変わらない、というのは」


小さく息を吐く。


何も起きないことではない。

揺れても、戻れること。


私は窓を少し開け、

夜風を感じる。


変わらない距離は、

今日も静かに、ここにあった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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