第40話 迎える側
午前中、門の方が少し騒がしかった。
馬車の音と、
聞き慣れない声。
私は庭の端から、その様子を眺めていた。
管理人が先に立ち、
新しい滞在者に説明をしている。
若い女性だった。
荷は多くなく、
少し緊張した表情をしている。
「……新しい方、ですね」
独り言のように呟くと、
使用人が頷いた。
「しばらく、こちらで静養されるそうです」
「そうですか」
それ以上、話は続かない。
紹介役を頼まれることもない。
案内を求められることもない。
私は、
ただそこにいる。
しばらくして、
その女性が庭を歩いてきた。
周囲を見回しながら、
少し戸惑っている様子。
私は歩み寄らず、
でも視線を外さなかった。
彼女が気づいて、
小さく会釈する。
「こんにちは」
「こんにちは」
それだけ。
名前も、
事情も聞かない。
沈黙が一瞬、流れる。
けれど、
気まずさはなかった。
彼女は少し息を吐いてから、
周囲を見渡す。
「……静かな場所ですね」
「ええ」
私はそれだけ答えた。
それ以上、
説明を足さない。
彼女は、
何かを期待した様子でもなく、
そのまま庭の奥へ歩いていく。
私は、
それを見送った。
迎えた、というほどのことはしていない。
でも、
拒んだわけでもない。
午後、屋敷の中で何度かすれ違う。
会釈を交わすだけ。
彼女は少しずつ、
表情が和らいでいく。
夕方、食堂で席に着くと、
少し離れた場所に、彼女の姿があった。
誰かと一緒でもなく、
一人で食事をしている。
落ち着かない様子はない。
この場所の空気に、
少し馴染んできたようだった。
「……最初は、
誰かに話しかけてもらわないと
落ち着かないものだと思っていました」
食事の後、
管理人がぽつりと言う。
「そうでしょうか」
「ええ。
でも、そうでない人もいますね」
視線は、
庭の方を向いている。
私は、
それが誰を指しているのか、
考えなかった。
夜、部屋に戻る。
窓を開けると、
涼しい風が入ってくる。
今日一日を思い返して、
私は気づく。
私は迎えられる側ではなかった。
かといって、迎える役でもない。
ただ、
ここにいる人になっていた。
誰かが来ても、
過剰に関わらない。
離れていても、
拒んでいない。
それは、
以前の私が欲しかった距離かもしれない。
「……悪くないわね」
小さく呟いて、
灯りを落とす。
新しい人が来ても、
この場所は揺れない。
そして、
私も揺れなかった。
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