第37話 他人から見た二人
その日は、珍しく来客があった。
静養地に短期滞在するという人で、
管理人が案内しているのを、庭先で見かけた。
私は通り過ぎようとして、
軽く会釈をする。
「こんにちは」
「……あ、こんにちは」
相手は、少し慌てた様子で頭を下げた。
その様子を、
少し離れたところで、あの青年が見ていた。
「……新しい方ですか」
「ええ。
しばらく滞在されるそうです」
「そうですか」
それだけ。
二人で話しているようで、
実際には、状況を共有しているだけ。
午後、庭で本を読んでいると、
先ほどの来客が近づいてきた。
「……失礼ですが」
「はい」
「お二人は、ご夫婦ですか」
思わず、手が止まる。
「いいえ」
即答だった。
「そう、ですか」
相手は少し困ったように笑う。
「とても自然だったので」
「……そう見えましたか」
「ええ」
それ以上、踏み込まれない。
謝られもしない。
ただ、
そう見えただけ、という事実。
その会話を、
少し離れた場所で彼も聞いていたらしい。
視線が合う。
彼は、何も言わない。
私は、
その沈黙に救われる。
しばらくして、
川辺へ向かう。
歩調は、自然と揃っていた。
「……否定、しましたね」
彼が、ぽつりと言う。
「ええ」
「嫌でしたか」
私は少し考えてから答える。
「いいえ。
間違っていることは、
そのままにしただけです」
「そうですね」
彼は、それ以上、何も言わなかった。
川に着き、
それぞれ別の石に腰を下ろす。
「……でも」
私が、少しだけ言葉を足す。
「自然に見えた、
というのは……」
言葉を探して、
止める。
彼は、続きも求めない。
「……そう見えるなら、
無理はしていない、
ということだと思います」
彼の言葉は、
評価でも、結論でもない。
ただの確認。
夕方、屋敷へ戻る。
使用人が、
小さな声で言った。
「お二人、
雰囲気が似てきましたね」
「……そうでしょうか」
「ええ。
落ち着いていて」
それだけ。
夜、部屋で灯りを落とす前、
私は今日のことを思い返す。
他人から見て、
近いと分かる距離。
それを、
否定しなければならない理由はない。
かといって、
肯定する必要もない。
「……外から見える距離、ね」
小さく呟く。
窓を開けると、
夜の空気が入ってくる。
私は、
自分の立ち位置を確かめる。
内側は、変わっていない。
外側だけが、
少し追いついてきただけ。
それで、十分だった。
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