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婚約破棄されたので、距離を取ったら溺愛されました  作者: はねださら


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第33話 静かな自覚

その日は、朝から曇っていた。


空が低く、

光が柔らかく広がっている。


私は窓を開け、

しばらくその景色を眺めてから身支度を整えた。


「……雨は、降らなさそうね」


誰に言うでもなく呟く。


 


食堂へ行くと、

いつもの席に椅子が二つ並んでいる。


もう、違和感はなかった。


私は自然に腰を下ろし、

運ばれてきた朝食に手を伸ばす。


少し遅れて、

あの青年が入ってくる。


「おはよう」


「おはよう」


それだけ。


特別な挨拶も、

意味を含ませた間もない。


 


食事の途中、

ふと視線を上げると、

彼が窓の外を見ていた。


何を考えているのかは、分からない。


分からないままで、

不安にならない。


そのことに、

私は小さく驚いた。


 


午前中、庭を歩く。


落ち葉を踏む音が、

一定のリズムで続く。


私は歩きながら、

少し前の自分を思い返す。


距離を取ることが、

当たり前だった頃。


誰かの隣にいることは、

常に理由が必要だった。


 


今は違う。


理由を考えずに、

隣に人がいる。


それを、

受け入れている自分がいる。


「……あ」


思わず、足を止めた。


 


あの青年が、

少し前を歩いている。


振り返り、

私が立ち止まったことに気づく。


「どうかしましたか」


「いいえ」


首を振って、

歩き出す。


そのとき、

はっきりと分かった。


 


この人となら。


距離を取らなくても、

自分を失わない。


守らなくても、

崩れない。


「……そういうこと、ね」


言葉にはしない。


決意もしない。


ただ、

静かに理解しただけ。


 


午後、川辺に座る。


水の音が、

一定の速さで流れていく。


彼は少し離れた石に腰を下ろし、

何も言わない。


私は、

その沈黙を心地よく感じている。


 


夕方、空が少し明るくなった。


雲の切れ間から、

淡い光が差す。


私はそれを見ながら、

胸の奥にある感覚を確かめる。


まだ、名前を付けるつもりはない。


選ぶとも、

選ばれるとも言わない。


それでも、

戻らない距離がある。


 


夜、部屋で灯りを落とす前、

私は一度だけ深く息を吸った。


「……ここまで来たのね」


それは、

終わりの言葉ではなかった。


むしろ、

始まりとも言えない。


ただ、

静かな自覚。


それで、十分だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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