第28話 過去が追いつかない
その知らせは、
午後の静かな時間に届いた。
封のない手紙だった。
王都の書式ではあるが、
急ぎではない。
私は机に向かい、
一度深呼吸してから開いた。
内容は、思っていたよりも淡々としている。
王都での評価。
私がいなくなったあとの変化。
そして、
「最近になってようやく理解されたこと」。
特別な言葉はなかった。
称賛も、後悔も、控えめだ。
「……遅いのね」
思わず、そう呟いた。
王都では今、
私がいなくなった意味を
ようやく言葉にし始めているらしい。
誰かが欠けて、
初めて分かること。
それ自体は、
珍しい話ではない。
けれど私は、
その手紙を読んでも、
胸が動かなかった。
懐かしさも、
誇らしさもない。
ただ、
もうここには関係ない
という感覚だけが残る。
庭に出ると、
風が葉を揺らしていた。
洗濯物が、
規則正しくはためいている。
王都の話題を持ち出しても、
反応する人はいない。
それが、この場所の速度だった。
川辺に行くと、
あの青年が石に腰を下ろしていた。
「……何か、ありましたか」
私の手元の紙に、
視線が一瞬だけ向く。
「少し、手紙を」
「そうですか」
それ以上、聞かれない。
「……王都からです」
私がそう言うと、
彼は軽く頷いた。
「必要なら、話を聞きます」
「……今は、大丈夫です」
「分かりました」
必要以上に踏み込まない。
話したくなったら、
その時でいい。
その距離が、
変わらず保たれている。
私は手紙を畳み、
鞄にしまう。
ここで読む必要はない。
返事を書く必要もない。
「……過去が、追いついていないだけね」
今の私には、
すでにこの場所の時間がある。
夕方、食堂に行くと、
いつもの席に皿が並んでいる。
誰も、
王都の話をしない。
話題は、
天気や食事のことばかり。
私はそれを聞きながら、
静かに実感する。
世界は、同時には動かない。
王都が気づく頃には、
私はもう、先へ進んでいる。
夜、部屋で灯りを落とす前、
手紙を机の端に置いた。
返事を書くかどうかは、
まだ決めない。
決める必要もない。
私は窓を開け、
夜風を吸い込む。
「……今の私には、
ここがすべて」
そう思えたことが、
何よりも確かだった。
過去が追いつくことは、
もう必要ない。
私は、
追いつかれる場所には
いなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




