第27話 選ばれない安心
最近、誰からも何も言われなくなった。
それに気づいたのは、
少し時間が経ってからだった。
期待も、探る視線も、
以前は確かにあったはずなのに。
今は、
「どうするのか」を聞かれない。
朝、食堂で席に着く。
使用人が、いつも通りに食事を置く。
「今日は、何かご予定は」
「特には」
「かしこまりました」
それだけで終わる。
含みも、誘導もない。
庭を歩いていると、
以前よく声をかけてきた人物とすれ違う。
「こんにちは、リリア」
「こんにちは」
立ち止まらない。
話題も続かない。
それを、寂しいとは思わなかった。
昼前、川辺で石に腰を下ろす。
水面を眺めながら、
私は考える。
誰かに選ばれることは、
安心だと思っていた。
でも同時に、
逃げ場を失うことでもあった。
今は違う。
選ばれない。
決められない。
だからこそ、
自分のままでいられる。
「……楽ね」
声に出して、
はっきりとそう思った。
あの青年は、
少し離れた場所にいた。
こちらを見てはいるが、
呼ばない。
近づかない。
視線が合っても、
何かを求めてこない。
「……来ないんですね」
思わず、口に出す。
彼は少し首を傾げた。
「何が、ですか」
「……いえ」
続きを言わずに、首を振る。
彼は追及しない。
「今日は、風が穏やかですね」
「ええ」
話題は、すぐに別のところへ移る。
午後、部屋で本を読んでいると、
集中が切れて、窓の外を見る。
誰かが立っている気配はない。
待たれていない。
急かされていない。
その静けさが、
今の私には心地よかった。
夕方、管理人が声をかけてくる。
「最近、皆さん落ち着いていますね」
「そうですね」
「……居心地は、いかがですか」
少しだけ、様子を窺う聞き方。
「ええ。
とても」
それは、嘘ではなかった。
夜、部屋で灯りを落とす前、
私は一日を振り返る。
誰にも選ばれなかった。
何も決められなかった。
それなのに、
不安はない。
「……選ばれないって、
こんなに安心なんだ」
その感覚を、
ようやく理解した気がした。
眠る前、窓を少し開ける。
風が入り、
カーテンが揺れる。
私は目を閉じる。
今はまだ、
選ばなくていい。
選ばれなくていい。
それだけで、
今日も十分だった。
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