第25話 受け取らなくていい優しさ
翌朝、体はすっかり楽になっていた。
熱もなく、
頭の重さも残っていない。
私はベッドから起き上がり、
窓を開けた。
冷たい空気が入り込み、
胸の奥まで澄んでいく。
「……大丈夫ね」
そう確認してから、
ゆっくりと身支度を整える。
食堂へ向かうと、
使用人がすぐに気づいた。
「もう、よろしいのですか」
「ええ」
「無理はなさらず」
「分かっています」
そのやり取りに、
昨日の延長のような緊張はなかった。
心配されている。
けれど、管理されていない。
その違いが、今はよく分かる。
朝食を終え、庭に出る。
空は高く、
雲がゆっくり流れている。
私はベンチに腰を下ろし、
昨日のことを思い返した。
助けられた。
それは事実だ。
けれど、
背負われたわけでも、
決められたわけでもない。
「……受け取らなかったのは」
私は、静かに考える。
これまで、
誰かの優しさを拒んできたわけではない。
ただ、
受け取ると、役目が生まれる
そう思っていただけだ。
王宮にいた頃。
気遣いを受け取れば、
応えなければならない。
心配を許せば、
期待を背負う。
そうやって、
無意識に距離を取ってきた。
「……優しさって、
全部が同じじゃないのね」
昨日の彼は、
何も求めてこなかった。
恩も、説明も、
感謝すら必要なかった。
ただ、
必要な分だけ支えて、
離れた。
昼前、庭を歩いていると、
彼の姿が見えた。
「……おはよう」
「おはよう」
昨日と同じ調子。
変に気を遣う様子はない。
「体調は?」
「もう大丈夫です」
「それは良かった」
それ以上、話は続かない。
大丈夫だと言ったことを、
疑われない。
その信頼が、
重くない。
川へ向かう途中、
私はふと立ち止まった。
「……昨日のこと」
言いかけて、
言葉を選ぶ。
彼は足を止めるが、
急かさない。
「助かりました」
それだけ言うと、
私は目を逸らした。
彼は、少し間を置いて答える。
「どういたしまして」
それ以上、
何も付け足さない。
感謝を、
関係に変えない。
川辺で、それぞれが腰を下ろす。
水の音が、
自然に会話を切る。
私は、胸の奥が静かに整っていくのを感じた。
これまで受け取らなかったのは、
怖かったからではない。
「……必要な距離を、
間違えたくなかっただけ」
そう理解できたことが、
何よりの変化だった。
夕方、屋敷に戻る。
管理人が帳簿を閉じながら言った。
「今日は、顔色がいいですね」
「ええ」
「無理は、されていませんか」
「していません」
それで十分だった。
夜、部屋で灯りを落とす。
今日一日を思い返す。
私はまだ、
全部を受け取る気はない。
けれど、
受け取らなくていい優しさが
この世界にはあると知った。
それだけで、
胸の奥が少し温かかった。
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